月曜日の日経平均の下落は岸田総理が作り出した人災と言える。本来ならば株価は市場が決めるものなのだから政府に説明責任はない。だが今回はアメリカの景気悪化懸念に加え植田総裁の不用意な発言も原因の一つとなっている。そしてその背景には総裁選挙を意識した政治的発言が見え隠れする。政府はこれまでも貯蓄から投資へとNISAを煽ってきた。政府と日銀の間にどのようなやり取りがあったのかを説明したうえで新NISA参入組に土下座して謝罪すべきだろう。
日本は貯蓄主導型の国だ。政府が財政投融資を通じて預貯金を利用してきた時代が終わると政府は消費や投資を通じて家計に溜まった資金を有効利用しようとした。これは特に間違ったやり方ではない。この一環で着想されたのがNISAと新NISAだろう。
だが国民はまともな投資教育を受けないまま「みんながやっているから」という理由でNISA・新NISAにのめり込んでゆく。現役世代は手数料の安いオンライン証券会社で海外株や金融商品を買い若年層の間には信用買いもかなり浸透していたようである。
仮にアメリカ株のみの急落であれば「やはり海外投資は危ない」ということになったのだろう。だが、実際には日本株の下落速度は急だった。月曜日だけで12.4%下落し、半年かけて積み重ねてきた年初来の超過が数日で吹き飛んだ。まさにバブルである。1991年から1992年頃に大蔵省の通達で土地の値段の過剰な上昇が止まりバブル経済が吹き飛んだのに似ているが、今回のきっかけの一端は明らかに植田発言だった。
どうしてこうなったのか。
政府はアベノミクスの間違いを総括していない。日本は低金利状態から抜け出せなくなりこれが円キャリートレードの温床になった。今回円キャリートレードのポジションが解消されたことで160円から145円まで巻き戻っている。投機が日本人の暮らしの負担となっていたことがわかる。
円安による日本株の割安感が一種の株価バブルを作り出した。証券会社のアナリストたちは「ようやく日本企業が正当に評価され始めた」「アメリカの株価はもっと上がっているのだからこれが本来の価格である」などと無責任に喧伝し情報リテラシの低い個人投資家たちに割高な株式を押し付けていた。
岸田総理はこれがバブルである可能性を考慮せず「投資により所得を増やすことができる」と喧伝した。当初の所得倍増はいつの間にか投資による所得倍増に切り替えられたがなにの説明もなかった。政府が言っているのだから株価は上がり続けるだろうと考えた人もいるだろう。
大蔵省通達でバブルが弾けた経験から見れば、これが深いトラウマになって投資恐怖症を引き起こす可能性も否定できない。みんなで渡れば怖くないとばかりに赤信号を横断し車に惹かれそうになるともう出歩けなくなってしまうというのが日本人だ。
さらに総裁選も影響を与えている可能性がある。岸田総理は円安の放置が自民党の支持率に影響を与えると懸念した。さらに河野太郎氏や茂木敏充氏の総裁選を意識した不用意なスタンドプレー発言も英訳され円安解消の一つのきっかけになっている。
岸田政権は国民を投資に誘導するための資格制度を作ろうとしている。オンラインで投資ができる時代だが証券会社は手数料だけでは飽き足らず投資家からアドバイス料もむしり取りたいと考えているのだろう。だが資格制度を作っても「お客」が来なくては話しにならない。その宣伝として政府が8割引のクーポンを使って有料投資相談をプロモートしようとしていた。
政府の有権者に対する姿勢は一貫している。常に「動やったら国民からむしり取れるか」ばかりを考えているのである。
結果的に株価は大暴落してしまい「やはり株式投資は危ない」というネガティブな印象だけが残った。これまでの宣伝効果も帳消しである。
財務大臣の発言もきわめていいかげんなものだ。投資は自己責任だ。自分たちで冷静に判断してしっかりとおやりなさいよとお説教モードである。政治家たちは政治資金を使い事実上の脱税も容認されているが庶民は自己責任で資産を守れというのである。
株価急落を受けて、新しい少額投資非課税制度(NISA)の導入をきっかけに投資を開始した個人投資家への影響を指摘する声もある。これに対し、「相場の下落等の市場変動が進む中にあっても長期・積み立て・分散投資の重要性を考慮して冷静に判断をしていただきたい」と語った。
日銀とも連携し、緊張感持って市場動向を注視-株価急落で鈴木財務相(Bloomberg)
また新NISA担当の政務官の発言もどこか上から目線だ。
こうした政治側の数々の失策をすべて植田総裁に押し付けてしまってはいけない。
ただし野党の追求にも問題はある。野党は今回の株価暴落のきっかけは早急な利上げにあるとして政府・自民党を追求したい考えだ。だが内容を見るとその批判内容は一様ではない。
- アベノミクス否定論者はとにかくアベノミクスが今回の問題を作り出したと証明したい。
- 一方で積極財政派の人たちは植田総裁の金利引き上げがすべての原因だったとしたうえで「金利の引き下げ」を要求している。
最もひどいのは国民民主党の玉木雄一郎代表だ。玉木氏は連合は賃上げに貢献していると宣伝していた。しかしこれが地方に浸透していないのは誰の目にも明らかだった。そこで「植田総裁がしでかしてしまったせいで連合の努力も水の泡である」とほのめかしている。
政治家たちは自分たちのポジションを宣伝するために今回の騒ぎを利用しているだけであり、結果には一切責任を取ろうとしない。国民に寄り添って「一体なぜこのようなことになったの」か真剣に分析しようという人が誰もいないのだ。
今回の騒ぎでなけなしの資金を失った人もいるだろう。政府はまず彼らに真摯に詫びるべきである。