つい先程、バングラデシュのハシナ首相がヘリコプターでインドに逃亡した。跡を引き継いだのは軍だった。軍が政権を掌握したなどと書くと民主主義が抑圧されるような印象を持つのだが、我々の常識はなかなか通用しない。BBCなどが伝えている。
ハシナ首相がパキスタンからの独立戦争で活躍した人たちの遺族を優遇する政策を発表した。インフラ依存のバングラデシュ経済は行き詰まっており政府だけが潤っている。政府の仕事を遺族たちに優先的に割り当てることで支持を盤石なものにしようとしたのだ。
学生たちがハシナ首相に反発すると野党勢力が抗議運動に加わる。これを厳しく弾圧すると運動は過激化した。ハシナ政権はインターネットをすべて遮断して暴動を鎮圧しようとした。そして軍にデモの支持者たちを強く取り締まるように要請した。
今回特徴的だったのは軍が政府の要請に従わなかったことだ。軍とハシナ政権は持ちつ持たれつの関係にあると思われていたのだが、最終的に軍は「民衆を弾圧すると国民の支持を失いかねない」と判断したようだ。ハシナ首相は首相を退任しヘリコプターに乗ってインドに逃亡した。アルジャジーラは歓喜に湧く民衆の様子を伝えている。
民主主義に慣れた我々が軍政移管と聞くとどうしても強引なクーデターのようなものを連想する。しかし今回は政府の強引なデモ抑制策から軍が離反したことになる。つまり軍以上に頼れる存在がないと言う国もあるのだ。
とはいえ軍が経済を立て直せるわけではない。つまりバングラデシュの国民の願いである「普通に暮らしが立つ状態」がすぐに実現するとも思えない。仮に軍主導の政権運営が失敗すると歓喜に湧く国民の期待はたちまち失望に変わり軍が主導する政権に向かうことになるだろう。
インフラ建設頼みのバングラデシュ経済は極めて難しい状況に置かれている。バングラデシュの主な産業は政府主導のインフラ整備(ほとんどが縁故採用)と低賃金の縫製業(教育を受けた世代は満足できない)のみだった。失業者は1800万人に昇っている。なおハシナ政権はインドとの関係が良好だった。ハシナ氏が政権を去るとインドとバングラデシュの関係が疎遠になり中国が付け入る隙が生まれるのではないかとインドのNDTVが懸念を示している。