先日、9.11で死刑回避の司法取引が行なわれたと書いた。だがこれがオースティン国防長官によってキャンセルされた。このニュースを聞いて個人的に「なぜ、司法著感ではなく国防長官が」と感じた。実はここが非常に重要だったようだがすっかり見逃していた。
過去に書いた記事を読み返して必要な箇所を修正しなくてはと考えている。
今回の司法取引は担当監督官のスーザン・エスカリエ氏という人物のもとで行なわれ、ホワイト・ハウスは関与していなかったと報道されている。人権団体はこの決定を歓迎したが共和党や遺族団体は猛烈に反発していた。おそらくこれは大統領選挙の一つの争点になるだろうと思われた。バイデン大統領と民主党は弱腰だと批判できる。
そもそもこのスーザン・エスカリエ氏とはどんな人物でなぜこのような決定ができたのか。
この人はキューバ領内のアメリカ権益であるグァンタナモで軍事法廷を主催していた。つまりアメリカ本土から離れたところで意思決定が行なわれたことになる。だがこの問題が政治問題化したことでオースティン国防長官はエスカリエ氏から権限を取り上げて解任したようだ。CNNの英語版の正確な表現はreliefなのでオースティン国防長官がエスカリエ氏に対して「あとは自分が引き取る」からと宣言したことになる。
今後国防長官がどのようにこの問題を取り扱うかについての報道はない。単に司法取引から撤退し権限は自分以外には渡さないとしている。
Defense Secretary Lloyd Austin abruptly revoked a plea deal for the alleged mastermind of the September 11, 2001, terror attacks and his co-conspirators, and he relieved the overseer in charge after years of effort to reach an agreement to bring the cases to a close.
Defense secretary abruptly revokes plea deal with alleged 9/11 mastermind KSM, co-conspirators
当初この問題を聞いたとき、裁判なのだから当然司法省が管轄するのだろうと思いこんでいた。だから「なぜ国防長官が出てくるのだろうか」と戸惑ったのだ。記事をよく読むとこのあたりもきちんと解説されていた。
9.11はアメリカ国内に大きな動揺をもたらした。これまで戦争とは無縁だったアメリカ本土が直接攻撃されたからである。真珠湾以来の衝撃と書かれている。共和党を中心に報復感情が広がりイラクへの攻撃などにつながってゆく。このときに「愛国法」という政府に通信傍受を認める法律も時限立法として成立している。
オバマ政権はこの行き過ぎた報復感情を修正したかったようだ。愛国法をアメリカ自由法に置き換え政府の通信傍受権限を弱めた。また拷問が横行するグアンタナモも問題視され廃止の動きがあった。拷問事態も禁止になっている。
グアンタナモが廃止されれば当然軍事法廷もなくなる。オバマ政権はこの問題を刑事事件として司法当局に引き取らせようとしたようだが共和党の反対に会い計画は頓挫した。9.11の首謀者(kingpinsなどと表現される)はそのままグアンタナモに留め置かれたが度重なる拷問のせいで精神は崩壊状態だ。このままでは真実は聞き出せないし裁判なしで死刑判決を下すのも難しい。結局、Kingpinsたちはそのままアメリカ合衆国から遠く離れたグアンタナモに留め置かれることになるのかもしれない。つまり「死ぬまで放置」ということだ。
アメリカ合衆国は自国の権益を守るために他国の主権侵害を厭わない国である。アメリカ合衆国は世界の平和を守っている民主主義の守護者であるという自尊心と自負心がある。だがこの非対称的な自尊心は他国から見れば単なる身勝手に過ぎない。中東、中南米、ロシア、中国などアメリカの主張に同調しない国も増えていてBRICSがその受け皿になりつつある。
尚この件についてはBBCとCNNが記事を書いているので最後にご紹介しておく。BBCは「9.11とは」と説明を入れていた。確かにもう20年以上も前の事件なので知らない人もいるのだろうと感じた。目撃した世代にとっては「つい昨日のこと」のように思えるが当然知らない人もいるのだと、少し複雑な気持ちになった。
- CNN
- BBC
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