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拷問の果に 9.11の主犯格に司法取引で被害者遺族から強い反発

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ABCニュースで9.11のキングピン(主犯格)との司法取引のニュースを扱っていた。まず、2001年の事件の裁判がまだ決着していないということに驚いたがいくつものニュースに紛れているためそれ以上の事は考えなかった。

改めて調べてみると、ABCがほのめかしていた「裁判に耐えられない容疑者がいる」という言葉の持つ意味が理解できた。拷問の結果精神が崩壊してしまった人がいるらしい。この人は司法取引にも耐えられないと判断されたようだ。

アメリカの捜査当局は拷問のために自白の信頼性が担保できなくなり司法取引に追い込まれた。このニュースはおそらく共和党がバイデン大統領を攻撃する材料になるだろう。

なおこの司法取引は国防長官がキャンセルしている。「捜査当局」と曖昧に書いているが主体は国防総省とアメリカ本土から隔離されたグアンタナモの軍事法廷だだった。このためこの記事はキャンセル後の2024年8月4日に加筆修正している。具体的には過去の司法取引の勧告を「司法省が」行ったと書いていた。これが事実誤認だった。正確な主語は軍事委員会事務局(The Office of the Chief Prosecutor for Military Commissions)である。

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2001年9月11日にどこで何をしていたかを覚えている人は多いのではないか。

テレビの向こうから流れてくる9.11同時多発テロのニュースは日常に紛れたシュールリアルな衝撃だった。だが、それでも9.11は遠い歴史の記憶に過ぎない。まだ決着してなかったのかという素直な驚きがある。

今回の司法取引に関して、BBCCNNの記事を読んだ。特にBBCが拷問について詳しく書いている。アメリカ本土から離れたグアンタナモベイに収容し激しい拷問を加えた。おそらく明確な証拠がなかったのだろう。結果的に拷問による証言は認められないということになり裁判は膠着した。

容疑者の精神は崩壊し自白を得るのが難しくなった。このままでは容疑者が死んでしまうと真相は闇に葬られる。そこで、軍事委員会事務局(The Office of the Chief Prosecutor for Military Commissions)は慌ててバイデン大統領に「司法取引を結びたい」と要請した。バイデン大統領はオースティン国防長官の勧告に従いこの要求を拒否している。政治的な問題となり共和党に攻撃されるのを恐れたのかもしれないが拒否の理由は書かれていない。

今回のABCニュースは「司法取引によって真相が明らかになる」とする軍事委員会事務局(The Office of the Chief Prosecutor for Military Commissions)の主張を伝え、遺族の一部が反発していると書いている。だが拷問と精神崩壊についてはそれほど詳しく伝えていない。ABCの記事は遺族団体の強硬な反対と同時にACLUとういう団体の容認声明を紹介している。ACLUとは「アメリカ自由人権協会」の略称だそうだ。人権団体として拷問に反対していたのだろう。

真珠湾以降本土を攻撃されたことがない当時のアメリカ人は本土攻撃に強い衝撃を受けた。報復を願う国民感情が高まってゆく。しかし、当時の共和党政権はこれを中東からアメリカ似て期待する勢力を排除するためのきっかけとして利用した側面がある。政治的な思惑が先行し「真実などあとからどうとでも調理できる」という空気が作られてゆく。

当初、アメリカでは主戦論と反戦論が拮抗していたそうだ。朝日新聞が小泉純一郎総理大臣が岡本行夫氏にアメリカの動向を探らせたとする記事を書いている。結果的に日本はアメリカの主戦論に乗り「テロとの戦い」に前のめりになる。

一方でアメリカ合衆国が主張する大量破壊兵器の存在がでっち上げであったこともわかっている。イギリスでは調査委員会が立ち上げられブレア政権の判断は間違っていたとする調査報告書をまとめているが、日本はこの件について何ら総括をしていない。

アメリカ合衆国は懲罰感情と中東利権確保の入り混じった感情から「悪の枢軸」と「テロとの戦い」という方針を喧伝する。このため、日本ではアメリカ合衆国の主張が絶対善とみなされるようになる。だが実は日本の政権側にも「東西冷戦が収束し日本は日米同盟から見捨てられるのではないか」という見捨てられ不安があった。

この「絶対悪視」がもたらしたのが「友人の友人はアルカイダ」発言だ。当時の印象ではアルカイダは「悪魔」と同じような普通名詞として通用していた。鳩山邦夫法務大臣(当時)の真意は不明だが「鳩山さんはアルカイダなのか?」とか「不正入国を告発または容認したのか?」という無意味な議論が大きく取り扱われた。日本の議論は今も昔も空気に流される側面があり「一体何を議論しているのか」がよくわからなくなることが多い。野党はアルカイダ(絶対悪)の関係者が法務大臣をやっているのはけしからんと自民党を攻め立て、自民党もとにかく世間を騒がせるのはまずいとして「鳩山氏個人が説明責任を果たすべきだ」と主張し続けてきた。

このようにアメリカの非対称的で強引な処罰感情と利権確保の入り混じった中東攻撃は現在の中東情勢の形成に大きな影響を与えている。アメリカ合衆国は中東各国に踏み込み攻撃を加えている。自分たちが攻撃されると大騒ぎだが自分たちの攻撃は「自衛のための正当な攻撃である」と主張する。結果的に中東におけるアメリカ合衆国に対する憎悪は積み重なり、それは今でも続いている。

結果的にトランプ氏のような狂人戦略(何をしでかすかわからないから手出しができない)だけが機能する状況が生まれたのは「民主主義の保護」という大義を長年使い古してきたからである。

これを利用したのがネタニヤフ首相だ。彼はアメリカの本音がよくわかっている。だからこそイランを挑発しアメリカ合衆国を泥沼に引きずり込むようなことができてしまう。前回、イランの公館が攻撃されたときにはイランは「イスラエルに花火のようなドローン攻撃を仕掛ける」ことでなんとかやり過ごした。しかし今回は大統領就任式のゲストが首都のテヘランで狙われている。前回のような花火ごっこで済む保証はないし、仮に今回も花火だったとしても次はどうなるかわからない。

こうなるとアメリカ合衆国も中東にある自国基地を権益として確保しなければならなくなる。イラクからは「早くでていってくれ」と言われているようだが、7月末にもイラク領内で勝手に攻撃を加えている。当然ながらイラクにいる米兵も危険にさらされるのだが、それでもアメリカ合衆国は中東から撤退することができないのだ。

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