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やはり逃げ遅れ続出 急速な円高は日本のFX投資家に大きな逆風

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Bloombergが「メキシコペソ・円のキャリー取引に逆風、日本の投資家は損抱え様子見」という記事を書いている。今回の急速な円高で損切りを迫られている投資家が多いという。

Bloombergは冷静な対応を呼びかける。ここで感情的になるとさらなる大惨事に陥りかねないという親切心なのだろうが却って日本の投資家が置かれている苦境が浮き彫りになる。

FXをやっていない人も「なぜ人は逃げ遅れるのか」について冷静に理解したい。例えて言えば地球温暖化に似ている。地球温暖化の変化は感じにくい。だがそれは着実に進行している。そして嵐が起きるとはじめて「環境が変化した」と感じられるのである。

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今回の投資ブームの背景には長引く円安がある。これはドルやメキシコペソなどが高値であることを意味している。さらにポジションによっては為替介入による急激な円の高値もギャンブル的なチャンスを生じさせる。一時的には円の価値が上がるだろうがまた下落することがわかりきっているためだ。

4月に介入期待の個人投資家、過去最大級の円買いで逆張り-海外勢と対照的という記事が出ていた。

日本経済が振るわない中でFXは副業として広く認知されているようだ。日本のFX個人投資家は3割存在すると書かれている。日本の機関投資家が7割で個人が3割という意味だと思ったのだがよく読むと世界のFX投資家の3割が日本人の個人投資家だと書かれている。どうりで個人をターゲットにしたFXのCMなどをよく見るわけだと納得した。

一時期ドルは160円台まで到達した。あくまでも想像でしかないが、おそらくロジックではなく「友達から為替というのはこういうものだと聞いた」と理解した人も増えていったのではないかと思う。

しかし、このときには世界の投資家はこの頃にはすでに「ここからどう撤退しようか」と考えていたのではないかと思う。

注意深く記事を読むとBloombergの記事は次のように書いている。

  • メキシコは産油国で世界経済の影響を受けやすい
  • 経済はアメリカ依存でファンダメンタルズ(基礎的な交易条件が変化しやすい)

ここに新しい要因が加わる。トランプ氏の暗殺未遂だ。

Bloombergから記事を抜粋した。この部分は2つのことを書いている。まずアメリカが保護主義的になるとメキシコの基本的な交易条件が悪化する。そこで「ペソに対して」ドルが買われる。

そしてアメリカ合衆国政府はお金が借りにくくなるので長期債権の金利が上がる。すると債権の価値は下落する。これが進行すると(基軸通貨としての地位は揺らがないだろうが)ドル安が起きる。

重要なのはこのドル高が円に対してのドル高ではなくペソに対してのドル高であるという点だ。

ドル買いはいわゆる「トランプ・トレード」の一環。前大統領の2期目が貿易保護主義、インフレ圧力、大幅な財政赤字などにつながり、期間長めの債券相場が下落して米国債のイールドカーブがスティープ化することに賭けた戦略のことで、ペソに逆風となっている。

メキシコ・ペソ下落、暗殺未遂事件でトランプ氏復権の予想強まる

実際には円キャリートレードのポジションが崩され「円はドルに対して高くなって」いる。

トランプ氏は「高いドルは好ましくない」と発言し、河野太郎氏と茂木敏充氏が(あまり根拠はなかったようだが)それに同調したことで「円安を前提にしたポジションを一旦クリアにしよう」と考える人が増えたのだろう。だがこれもBloombergのインタビューが元になって突然人々の認識が代わって起きたことである。

交易条件や経済状況は日々積み上がってゆく。すると人々の頭の中には「これは長くは続かないだろうからそろそろ撤退時期について考えよう」という考えが生まれる。冷静に考えると日本のFX投資家が「逆張り」を好んだと報道されたのが4月で今は8月だ。4ヶ月しか経っていない。ロジックではなく「為替というのはそういうものだから」と友だちから聞いていたような人たちはおそらく現状認識を変えられないまま今日を迎えてしまったものと思われる。

ティッカー・グラフ・日々のニュースに一喜一憂していると中長期的なサインを見逃す。

ここでさらなる変化が起きる。

日本は総裁選を控えている。総裁選でどのような経済認識が語られるかはわからない。場合によっては日銀に円安対策(中央銀行は為替を意識してはいけないことになっているが実際にはかなり気にしている)を求める人が総裁になるかもしれない。だが逆に金利を気にする人が総裁になる可能性もある。植田総裁はおそらく日銀にあまり強い打ち出しをしない岸田総理在任期間中に既成事実を作って置こうとしたのだろう。

市場の予想では7月の金利引き上げはないと言われていたが、直前にリーク報道が出され、そのとおりに金利の引き上げが起きた。海外投資家の中には情報が取れず日銀のウェブサイトが一時サーバーダウンしたというコラムもあった。日銀の発表の後「手仕舞い感」は一気に加速しドル円は149円台まで円の高騰になった。

【日本市況】円一時4カ月ぶり高値、日銀利上げ継続を意識-株は急落

このように背景にはプロの「もうこれが潮時だな」という感覚がある。そこにきっかけになるイベント(戦争でも政治イベントでもいいのだが)が起きると号砲が鳴って一気にポジションの変更が行われる。日本の個人FX投資家もその中のプレイヤーなので号砲を聞いたらすかさず走り出さなければならない。眼の前のグラフとティッカーだけに集中していると号砲を聞き逃し「損を抱える」ことになってしまうということだ。

ここで今までの内容を復習してみよう。背景ロジックとしてロイターの「アングル:円反転でキャリートレード巻き戻し、他通貨に波及」を使う。

  • FXにおけるキャリートレードは金利の低い通貨を売り金利の高い通貨を買うことで金利差を狙う取引のこと。おそらく借金をしてレバレッジをかけているひとも大勢いることだろうが、本来的にレバレッジは関係ない。手持ち通貨を両替してもいい。だがFXは「証拠金取引」なのだから証拠金に高いレバレッジをかけた取引も可能でこれが将来事実上の借金になる可能性がある。
  • キャリートレードは低いボラティリティー(=安定)と各国の政策金利に大きな差が生じたことで弾みが付いた。
  • 投資家はスイスと日本のような低成長の先進国の通貨を売ってメキシコ・ペソ(中進国)やオーストラリア・ドルを買っていた。
  • ところがボラティリティが上昇(つまり先行きの不透明感から上下動が激しくなった)すると賭場としての魅力が薄れポジションを解消する人が出てきた。

ポイントになるのは「レバレッジ(借金をして何かを買うこと=テコ)」の話は入っていないという点だ。つまり逃げ遅れた人はBloombergの教えに従い「冷静に」対応すればいい。いずれ巻き返しのタイミングもやってくるだろう。だが、レバレッジをかけている人は長い間この状況には耐えられないだろう。つまり潜在的な借金(取引を介ししたときにはその意識はなかったかもしれない)を抱えている人ほどニュースに敏感であるべきなのだ。

最後に「そもそもボラティリティとはなにか?」について説明したい。ボラティリティとは状況が不安定になり将来が読みにくくなることを意味している。ざっくりと説明すると2つの変化がある。

先進国でも中進国でも中流所得層の暮らしが圧迫されて政治的な変動が激しくなっている。トランプ候補の台頭もその1つの現われだ。ベネズエラでも現在抗議運動が起きているが低所得者層ではなく中流階級の人たちが政権に反発している。これが政治的なボラティリティの高まりである。

一方でプーチン大統領やネタニヤフ首相のようなリーダーは戦争を通じて自分たちの権力基盤を確保したいと言う気持ちがある。プーチン大統領が仕掛けたウクライナ侵攻は終わっていないし、ネタニヤフ首相もアメリカの制止を振り切ってベイルートやテヘランに攻撃を加えた。これは安全保障上のボラティリティの高まりだ。

日本ではよく台湾有事について聞かれる。だがこれは日米同盟を売り込むための将来に起きるかもしれない危機である。実際にはアメリカ合衆国の相対的優位性が低下しておりこれが世界各地に大きな変化をもたらしている。

安全保障上のボラティリティについてはこんなコラムを見つけた。コラム:石油価格、中東危機のリスク指標として力不足という表題だ。

  • 一般に投資家は中東危機を意識していないと言われている。
  • アメリカ合衆国が外交努力を続けており、イランにも反撃の余裕はないと人々は見ている。
  • しかし石油価格の7割はアルゴリズムで決まっている。ロイターの説明によると「機械によるアルゴリズム取引が日々の石油取引に占める割合が70%(TDバンクとJPモルガンの調べ)」である。

つまりアルゴリズムが予想できないような急激な変化(例えばハメネイ師が意を決してイスラエルに攻撃をかけたりホルムズ海峡を封鎖する)が起きるとアルゴリズムによる数字は無意味化するということになる。これまではアメリカの強い外交的影響力がボラティリティを抑えてきた。これが崩れつつある。

キャリー・トレードは「日本の金融政策は変わらず低成長が続く」という低ボラティリティを背景にしていた。今回の高ボラティリティ化の要因は政治的なものと安全保障上のものがある。しかし人間が対処できないようなボラティリティでもAIなら解析できるかもしれない。これがアルゴリズム取引だ。

しかし一段高い大きな政治的決断が起きると(例えばプーチン氏が突然ウクライナに侵攻したのもその一例で、今はイランの動きが心配されている)アルゴリズム取引も無効化し予想もしていなかったような状況が生まれる可能性があるということになるだろう。

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