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アメリカ人を転がすのは簡単 ネタニヤフ首相の米議会演説は大成功

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ネタニヤフ首相がアメリカ議会で演説を行いスタンディングオベーションで迎えられた。ネタニヤフ氏はアメリカ人の心を掴むすべを心得ていると感心させられる。すべてを正義と悪に分離したうえで「アメリカは正義である」と自己愛を満たしてやれば良いのだ。自己主張の激しいイスラエル国会(クネセト)を生き残ったネタニヤフ氏にしてみれば簡単な作業だった。

正邪二元論は当然激しい憎悪を生み出す。民主党を中心に不参加の議員がいた。また議場の外では親パレスチナ派のデモが展開され中には星条旗を引きずり降ろしパレスチナの旗を掲げる人達も出てきたそうだ。

結果的に彼らが闘争している間、ガザの問題解決は二の次になり毎日のように大勢の犠牲者がでている。

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ネタニヤフ氏の演説は世界を「親イスラエル」とそれ以外に分断したうえで、アメリカ合衆国を「正義の側に立って戦う守護者」と位置づけたものだ。特にトランプ氏の支援を称賛しており特に共和党にとっては聞きごこちの良い演説だっただろう。トランプ氏の支持者はこれをキリスト教的というがキリスト教にはそんな教義はない。これは米国に渡った人たちが勝手に作り上げたキリスト教徒は似て非なる別のなにかだろう。

演説において、ガザ抗議デモは「イランにとって便利な愚か者」扱いされた。悪のレッテルを貼られたデモも議会の外で盛り上がっており抗議運動は数千人の規模に達している。ネタニヤフ人形が燃やされ星条旗を引きずり降ろしパレスチナの旗を掲げる人たちもいたようだ。

アメリカ合衆国が民主主義の守護者ならばウクライナも救われる必要がある。だが、実際にはそうはなっていない。JDバンス共和党副大統領候補は過去に「ウクラ内で何が起きようが自分たちには関係がない」と言い放っている。彼らが実際に気にしているのは親イスラエル派の豊富な資金力だけだ。

直接選挙で代表が決まるアメリカ合衆国の大統領選挙は感情論に支配されている。

トランプ派はトランプ前大統領を救世主として神聖化する一方で民主党を極左と決めつけている。ハリス副大統領は子供を作らなかった惨めな女で実力もないのに有色人種であるという理由で権力の座に登りつめたずるい政治家(DEI枠)すぎないという。

一方でハリス陣営はハリス副大統領を民主主義を破壊する重罪人であるトランプ氏を追い詰める正義の検察官であると位置づける。そのうえでハリス氏の属性に対するJDバンス副大統領候補の批判を掘り上げて有権者が潜在的に持っている被害者感情に訴えかけている。

どちらも「正義と悪」に色分けされた世界観でそれを統合するためには勝利する以外にないという目的意識を共有している。おそらくこうした感情的しこりが大統領選挙で解消することはないだろう。アメリカ合衆国が崩壊しない限りこれが4年毎に繰り返される。

感情論が極めて有効な選挙戦略であることは間違いがない。無党派を巻き込むためにはある程度必要な戦略だろう。だがその副作用は大きい。対立が沸点を超えると「やられたらやり返せ」と報復の連鎖になる。ネタニヤフ首相はそれがわかっているからこそあえて「正義と悪の二元論」を刺激してさらなる支援を要求するのである。そしてそのやり方は極めて「正しい」。

ただ、こうした感情論が問題解決に資するならば「それはそれでありなのかもしれない」と思える。アメリカ、イスラエル、カタール、エジプトは人質開放のための代表団をカタールに送った。一方でイスラエルの破壊を目指すハマスを容認するつもりはない。中国はそれがわかっていてハマスとファタハを含む勢力を結集させ「パレスチナ統一政府」の実現を目指す。一方イスラエル国会のクネセトではパレスチナ国家の樹立など決して認めないという決議が出されている。

落とし所がない。

おそらくヨーロッパを除いては問題を解決するつもりがある国はないが、そもそも議論が感情と報復に彩られており「問題解決などどうでもいい」という空気が今の国際社会を支配する。

ネタニヤフ首相訪米の間もガザ地区では人道地域が頻繁に変更され激しい攻撃が行われている。人々は自分たちの感情的ニーズと政治的生き残りに夢中になっており結果的にガザ地区の人々のことなど誰も気にしなくなっているのである。

人は感情に支配される動物でありそこから抜け出せなくなるということがよく分かる。おそらくこれを解決するのは時間だけだろう。すべてが燃やし尽くされるか疲れ果てるまでこの対立は終わらないだろう。

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