トランプ氏のアドバイザーがトランプ氏に進言したウクライナ支援策を公表した。ウクライナ支援を継続するために「和平案を飲むこと」を条件にする。ロシアはクリミア半島情勢の固定化と4州の併合を絶対条件としているため「力による現状変更」を認めることになりかねない。6月27日のディベートでどのような論が展開されるかと閣僚人事に注目が集まるがトランプ氏は二期目にイエスマンで周りを固めるのではないかと言われている。
一方のバイデン政権はトランプ氏再選を阻止するためにウクライナ支援の拡大をおこなっている。クリミア半島にアメリカのATACMSによると見られる攻撃が行われていると見られているが、ロシアはこの攻撃に強く反発している。
トランプ氏のアドバイザーがトランプ氏に進言したウクライナ支援策を公表した。
米大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領の主要顧問2人が、ロシアのウクライナ戦争終結に向けてトランプ氏に提示した計画の内容が分かった。ウクライナが和平交渉入りした場合にのみ米国からさらに兵器が供与されることが盛り込まれている。
ロシア側は早速反応し「現状を認める必要がある」としているが、和平交渉そのものには乗り気だ。バイデン政権より与し易いと考えているのだろう。
ロシア大統領府(クレムリン)のぺスコフ報道官は25日、米大統領復帰を目指すトランプ陣営のウクライナ和平案について、現地の現実を反映したものでなければならないとの見解を示した。プーチン大統領は和平協議に前向きだと述べた。
仮にトランプ氏が再選されればトランプ氏は「バイデン大統領が解決できなかったウクライナ情勢を解決した」と主張できる。プーチン大統領も自分の軍事行動の正当化ができる。つまり両者にとってウィン・ウィンの関係が生まれる。
もちろんウクライナはおおいに不満だろう。だがこれまでのトランプ話法では「受け入れるか受け入れないかはウクライナの『自由』だ」。これまで日本ではロシアの言い分について語ると非国民扱いを受けることが多かったが状況は変化しつつある。
NATOはトランプ氏がアメリカ大統領になってもこれまで通りウクライナ支援を続けられるように脱トランプ体制の準備入っている。大統領選が行われる頃にはオランダ首相のルッテ氏が新しい事務総長になっている。
しかし、総選挙が行われ首相が交代する可能性がある(政権交代はないものと考えられている)フランスでもウクライナ支援懐疑論が出ている。ジョルダン・バルデラ氏はウクライナ支援に前のめりなマクロン大統領を牽制した。
「ウクライナに物資や防衛装備を提供して支援し続けることに賛成だが、私のレッドライン(越えてはならない一線)は長距離ミサイルや緊張関係をさらに高めるあらゆる軍需品、つまりロシアの都市を直接攻撃できるもの全てだ」と言及。ウクライナへのフランス軍の派遣も許されないとした。
ウクライナ情勢そのものにも変化も見られる。
ウクライナ支援に懐疑的な共和党との差別化を図りたいバイデン政権はウクライナに提供する武器の使用範囲を拡大させつつある。またクリミア半島が攻撃されロシア側に死者が出ている。当然ロシアは「アメリカが製造したミサイル(ATACMSとされている)が」ロシア領を攻撃したのだから、これはアメリカのロシアに対する攻撃であると主張している。
この戦争が2014年から始まったと考えると問題は解決せず米露対決の構図が明確になりつつあると言って良い。後の人たちはこれを一続きの戦争とみなすかもしれない。
ロシアはアメリカの攻撃を声高に主張したい。プーチン氏の統治に黄色信号が転倒している体。
北コーカサスのダゲスタン共和国の経済は悪化しISの影響力が増している。またクロッカス・シティ・ホール事件のようにロシア国内にも不満を持ったコーカサス系のイスラム教徒が多く暮らしていると考えられる。しかしロシアではコーカサス系イスラム教徒とスラブ系キリスト教徒の問題はプーチン氏の強い指導力によって解決されたことになっている。これを正当化するために「アメリカがロシアを狙っている」というストーリーが提示されている。BBCによればこれは見えすいた「でっち上げ」だが権力維持のために必要な物語でもある。
アメリカの大統領が国際情勢についてどのような見解を持っているのかは非常に興味深い。1年以上もディベートをやって選抜されるのだからさぞかし国際情勢に深い知見があるのだろうと考える人もいるだろう。だが、アメリカにおいては大統領の国際情勢に関する知識はそれほど重要視されないこともある。例えば「狂人理論」の信奉者とされていたニクソン大統領は実際にアルコール依存だったと言われており「狂人のふりをしていたのか本当におかしかったのか」について議論があるそうだ。
後継のフォード大統領はテレビ討論会で東ヨーロッパにおけるソ連の影響力について聞かれたがまともに答えることができなかった。CNNはこのテレビ討論会の影響でフォード氏は再選できなかったと分析している。
泥沼のベトナム戦争終結に動いたのはケネディ暗殺後に大統領になったジョンソン大統領だった。だがジョンソン氏が大統領に再選されることはなくそれをニクソン大統領が引き継いだ。しかしニクソン大統領も二期目の最初でウォーターゲート事件が発覚し罷免直前までゆき自発的に退任している。これを引き継いだのがフォード大統領だったがディベートのエピソードを見る限り外交知識はなかった。つまり国際政治に詳しい大統領もそうでない大統領もベトナム戦争を解決できなかった。
結果的にベトナム戦争を解決したのは選挙で選ばれたわけではないキッシンジャー氏だった。当時アメリカ合衆国が承認していなかった北京政府に接近し米中国交正常化の道筋を作る。ニクソン・フォード両氏が外交に興味を持たなかったからこそキッシンジャー氏が自由に動くことができたといえる。
その一方でキッシンジャー氏主導による中国共産党容認は「台湾問題」という新しい問題も生み出した。
中華人民共和国は「アメリカが1つの中国政策を認めた」と主張するが、アメリカ合衆国は「中国共産党政府がそのような主張をしていると承知している」との認識だ。条約締結主体がなくなったため米華相互防衛条約は失効しているが大統領は議会から台湾有事に対する権限(台湾関係法)を与えられている。
キッシンジャーが生み出した体制は「曖昧戦略」と呼ばれアメリカの外交的知恵と称されることもあるが台湾有事へのアメリカの介入の可能性と言う意味で日本の安全保障に暗い影を落としている。
いずれにせよ、6月27日のディベートでトランプ氏がどのような発言をするのかに関心が高まる。と同時におそらく外交にあまり興味がないであろうトランプ氏が誰を外交担当の閣僚に指名するのかにも注目が集まることになるだろう。キッシンジャー氏のような「リアリスト」を起用して欲しいところだが、ロイターは次のような記事を書いている。周りをイエスマンで固めるというのである。
トランプ前米大統領が権力の座に返り咲けば、国防総省や国務省、中央情報局(CIA)の要職には自身に忠実な人物を起用し、自らの政策を1期目に比べてもっと自由に反映させる環境を整えようとするだろう。トランプ氏の現側近や元側近、外交関係者ら20人近くに取材した結果、こうした道筋が見えてきた。