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G7発表のウクライナへの援助は「貸す」だけ 原資はロシアの国家賠償の可能性も

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G7首脳サミットが開かれた。初日の話題はウクライナ対策で翌日には中国について議論されることになっている。

日本ではウクライナへの巨額の支援が決定されたと報道されたが、アメリカABCとイギリスのBBCはこれが「ローンである」と強調していた。日本のニュースを見た人と欧米のニュースを見た人では感覚が全く異なっている。国家賠償についても議論されていたが当然ロシアは反発している。

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日本人はG7サミットを見て「世界の中心で欧米と一緒に輝く日本」を誇らしく感じる。先進国日本は支援をする側の国でウクライナは支援をされる側の国だ。さらに納税者意識が低いことからその支援の原資がどこから来ているのかをあまり気にしない。

NHKの記事は日本を含めたG7がウクライナを支援するともにロシアの非行には必ず報いがあると示す内容になっている。日本人が好む勧善懲悪的な期待に応える内容だ。

ロシアの凍結資産が原資に使われるとはわかるがそれ以上のことは書かれていない。ところがアメリカABCは最初からこれが「ローンである」と強調していた。欧米メディア(ロイターやBBCなど)を見てみたがやはり「ローン(借款・貸し付け)である」ことを強調している。

背景にあるのが各首脳の行き詰まりである。国内の経済状況が逼迫している国が多くイタリアのメローニ首相を除くとほぼ全員が危機的状況に陥っている。首脳は経済に不満を感じる国民の関心を逸らすために「今民主主義を守護しなければいずれて大変なことになる」と主張したい。民主主義を脅かすものの代表がロシアであり被害を受けているのがウクライナだ。

ただしこの対策としてこれ以上国民から税金を取るわけにはいかない。そこでABCのタイトルは次のようになる。G7 leaders agree to lend Ukraine $50 billion using frozen Russian assets。つまり、ウクライナには貸し付けをしているだけでロシアの凍結資産が原資になっていると説明しているのだ。

だが欧米メディアはそれでも納得しない。ABCはなおも「貸倒れリスク」について書いている。原文は次の通りになる。ロシアの国家賠償(reparations)について触れている。

When asked by reporters about the risks associated with the loans, the senior administration official said that it can be thought of as a”secured loan” because of the interest that is generated from the Russian assets. The official added that there are scenarios in which the income stream “may not flow,” but noted that reparations could be a solution.

“How are we going to get repaid? Russia pays…the income comes from the interest stream on the immobilized asset,” the official said. “The principal is untouched for now, but we have full optionality to seize the principal later if the political will is there.”

ウクライナが返済できなかったとしてもその貸倒れリスクはロシアが背負うことになるからアメリカの納税者に危機は及ばないと説明している。

バイデン大統領が不在の中トランプ氏は中国などに対する懲罰的関税を使えば所得税が下げられると主張したそうだ。バイデン大統領は富裕層増税を主張しているがトランプ氏ならもっと上手くやれるという主張である。関税はアメリカ人に対する課税と同じなのだがトランプ経済学では「外国に対する罰金」と考えられておりそれを支持する人たちが大勢いる。

国家賠償は第一次世界大戦までは盛んに用いられていた戦後処理の手法だ。だがこれがドイツを追い詰めることになりナチスドイツの台頭につながっている。この反省から第二次世界大戦の敗戦国には賠償義務が課されなかった。むしろ日本・ドイツ・イタリアを助けることが共産主義に対する優位性を確保すると考えられていた。

ただし、国家賠償なしに戦後復興ができたのはアメリカの経済に被害が及ばなかったからである。これが戦後のアメリカの覇権に繋がってゆく。今回ロシアの国家賠償が言及されたということは当時のアメリカのような国が残っていないことを意味している。つまり第二次世界大戦で形成された世界秩序はもう過去のものになってしまったということだ。

そもそも国家賠償は「追い詰められたロシアが罪を認める」ことが前提になっている。プーチン大統領の返事はロイターが「プーチン氏、ウクライナに「最後通告」 NATO加盟撤回や4州割譲要求」と書いている。むしろ反米感情を持つ国に接近しアメリカ包囲網を形成中だ。NHKの「世界線」では善の側にあるG7とウクライナが完全勝利する未来が待っているのだろうが、現実はそうなっていない。

今回の報道は納税者意識があまりなく「世界の中で輝く日本」というポジティブな印象を維持したい日本と欧米で全く異なる「世界線」が広がっている。また欧米の「世界線」も必ずしも現実化するかどうかはわからない。日本語のみで情報を取ることはもはやリスクになりつつあるのかもしれない。

ウクライナ支援・借款で検索するとかろうじて時事通信の記事がヒットする。リードは次のようになっている。

先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、ロシアの凍結資産を用いてウクライナへ年内に約500億ドル(約7兆8500億円)を融資する「政治合意」にこぎ着けた。米国主導で、ウクライナの劣勢挽回へまとまった資金を前倒しで供給する枠組みをまとめた。ただ、詳細は今後に持ち越し。サミットでの政治的メッセージ発信を急ぎ、合意を取り繕った感は否めない。

  • 政治的合意であり詳細が煮詰まっていない。
  • 日本はJICA支援を通じて部分的に参加するに過ぎないが非軍事に限られるという保証が得られるとは言い切れない。

などと書かれている。当初伝えられた「世界の中心で輝く日本」とは異なる実像があることがわかる。と同時にG7が実質的な意思決定機能を失い単なる国内政治向けのショーケースになりつつあるということもわかる。

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