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イスラエルが3回目の人質奪還に成功し4人を救出 引き換えに200名以上が死亡

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イスラエルが久々に4名の人質を奪還した。喜ばしいと思えるのだがCNNは「Israel rescues four hostages in operation Gazan officials say killed more than 200」と書いている。4名の人質を奪還するために200名以上が犠牲になったことになる。背景にあるのはネタニヤフ首相の危ういメンタリティだ。

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イスラエルの内閣はリクードと極右勢力が協力して作られており、司法改革と西岸統治の強化を進めてきた。司法改革を遅らせたい野党勢力のうちガンツ氏は戦時内閣に参加し協力体制をとってきた。しかしながらハマスの勢いを決定的に削ぐことはできず人質の解放も進まない。イスラエル内部では「ネタニヤフ首相は人質の解放に努力していない」とする抗議の声が高まっている。

そんな中、ガンツ氏はついに戦時内閣から撤退すると言い出した。アメリカにも協力を要請したようだが「政局には介入できない」と断られたという報道もある。

6月8日がその撤退期限となっていた。戦時内閣から撤退したガンツ氏が「ネタニヤフ首相の元では人質解放は進まない」と主張することは明らかである。つまりネタニヤフ首相はとにかく成果を出さなければならないという状態に追い込まれていたのだ。

4名が救出されたのは喜ばしい限りだ。だがそのために200名が犠牲になっている。さらにCNNによれば人質救出作戦は今回も含めて3回しか成功していないという。

Hostage rescues are rare: this is only the third such successful operation. IDF Corporal Ori Megidish was rescued in October last year from the northern Gaza Strip. In another operation on February 12 this year, Fernando Marman and Louis Har were rescued from southern Rafah.

ガザ地区の死者数はガザ保健省の主張では(西側のメディアはガザに入れないため検証ができないのだが)35,000人を超えているとされている。さらに220万人のガザ市民は今も飢えに苦しみながら各地を彷徨っている。

結果的に「成果」が上がったことでガンツ氏は撤退声明を延期したそうだ。ガンツ氏にとってもポストネタニヤフを狙った選挙運動・政局という側面があるということになる。いわば戦争を駆け引きに利用した「ガチ」の政局という側面がありガザ市民はその犠牲になっている。

しかしながら「仮にこれが政局であるならばイスラエル側には理性が残っているのではないか」とも思える。仮に理性が残っているのであればネタニヤフ首相に救命ボートを用意すればいい。つまり首相でなくなっても訴追しないなどと保証してやればいいということである。実際にそういう申し出は出ている。

だがどうもそれが怪しい。今回、国連が運営する学校の攻撃にはアメリカ製の爆弾が利用されたという報道がある。アメリカには「市民の攻撃にアメリカの武器を使ってはいけない」という厳格なコードがある。それが国連(UNRWA)が運営している学校に向けられるなどあってはならないことだ。イスラエルはそれをあえて破った可能性がある。

アメリカでもこの問題は政局として利用されている。ネタニヤフ首相は7月下旬に議会に呼ばれて演説をする予定だ。ホワイトハウスはネタニヤフ氏とイスラエルを切り離そうとしているのだが、議会(超党派)はネタニヤフ氏支持に傾いている。つまり、アメリカが「この程度のこと」でイスラエル支援をやめられないことはわかっているのだ。

しかしそれにしてもわざわざ国連が運営する学校にアメリカ製の爆弾など使用する必要はない。シリアにあるイランの公館を攻撃した時もそうだったのだがイスラエルには「破滅するならアメリカもろとも」という願望があるように思える。問題を「イスラエル対パレスチナ・アラブ」から「アメリカ・イスラエル対地域」に格上げしたいようなのだ。イスラエルは国連UNRWA=ハマスという見方をとっており、すでに国連を中心とする国際秩序とは決別している。アメリカは破滅願望込みのエスカレーションに引き摺り込まれつつ必死にもがいている状態と言っても良い。

権力というのは恐ろしいものだと感じる。権力が極度に過大評価され犠牲は矮小化される。アメリカ合衆国ではトランプ氏が「復讐も正当化される」と主張しており、大統領選挙の目的の一つが裁判に対する復讐であるとの主張を強めている。

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