日本ではアメリカの大統領選挙に注目が集まっているが、欧州では5年に一度の欧州議会選挙の結果にも同等の注目が集まる。最新の出口調査ではやや右傾化した中道右派政党(欧州人民党)が引き続き勢力を維持するとみられている。
一方でどの程度極右(反EU・反移民)が台頭し緑の党など環境左派が衰退するかにも注目が集まる。既存政党が勢力を維持したまま極右が台頭すると結果的に何も決められなくなる可能性があると一部メディアは懸念を示している。
フランスとドイツでは政権与党が「惨敗」と言われる負け方をしたようだ。EUの政策に影響を与えるだけでなく両国の国内政治にも影響を与えそうだ。ヨーロッパは大きな曲がり角に差し掛かったといえるのかもしれない。
欧州議会選挙は27か国・3億6000万人の有権者が720の議席を争う。事前予測では穏健・中道右派と穏健中道左派が過半数を維持する見込みになっている。一方で極右と呼ばれる勢力がどこまで票を伸ばすかにも注目が集まる。極右が台頭し一つのグループを結成してしまうとEUの意思決定に機能不全が起きる可能性がある。
「他国支援よりも自分達の生活の安定」を望む人たちが増えており、環境のような社会問題よりも経済的な豊かさを追求すべきだという人たちが増えているということになる。
マクロン大統領はノルマンディ上陸作戦の80周年式典にウクライナのゼレンスキー大統領を呼び民主主義を守る戦いの継続を訴えた。それだけ「自分達の生活が第一」と考える人たちが増えているということを示唆しているのだろう。アメリカでも民主主義擁護を訴えるバイデン大統領とアメリカ・ファーストを訴えるトランプ氏という対立軸がある。民主主義という「ご立派な看板」を守れ・犠牲を払えと国の偉い人たちは主張するが、自分達のことを無視しているではないかという人たちが欧米では増えていて投票行動に結びついている。
EU首脳は5月、地政学的な緊張と域外諸国による強権的な行動の強まりに対処するため、「緊急のパラダイムシフト」が必要だとの見解を示した。フランスのマクロン大統領は今回の選挙について、欧州大陸の存亡を賭けた闘いであり、ロシアに対するウクライナの戦いにとって極めて重要な意味を持つと指摘している。
出口調査の結果は次のとおりになっている。ここからはAPとBBCの報道を交えてまとめてゆく。
フランスではマクロン大統領率いる与党連合がルペン氏の国民連合に惨敗した。
つまりノルマンディの訴えは国民には届かなかった。ルペン氏はフランスファーストを主張していた。
ドイツではウルズラ・フォン・デア・アイエン氏が率いる中道右派キリスト教民主連合(EUでは他の国と組んで欧州人民党と呼ばれる)が与党社会民主党に勝った。BBCは「ショルツ氏の惨敗」と表現している。
イタリアは既にファシスト党の流れを汲む極右が政権をとっている。こちらは極右に止まるか穏健右派(欧州人民党など)とのグループに移行するかが注目されているという。APは次のように書いている。
- stays in the more hard-line European Conservatives(今までのような強硬保守に止まる)
- Reformists group or becomes part of a new hard right group that could form the wake of the elections. (台頭した極右と組んで新しい強硬保守のグループを作る)
- Meloni also has the option to work with the EPP(欧州人民党などの穏健右派と協働する)
オランダではウィルダース氏の反移民政党が躍進したが、緑の党と労働党の連合による左派も勢力を伸ばしていて二極化が進んでいるものとみられる。オーストリアでは極右自由党が祝賀ムードだった。
極右・強硬保守・改革保守と呼び方はさまざまだが穏健右派・左派が主導権を握ったままどちらも過半数が取れないというような状況になると極右の存在感が増し欧州議会が何も決められなくなるという麻痺状態に陥る可能性がある。
一方でポーランドとギリシャの投票率は低調だった。補助金には期待するもののルール作りや規制にはあまり興味がないという人が多いのかもしれない。BBCはギリシャの気温が33度あったと指摘した上で次のように書いている。「ライバルは海水浴だった」という意味になる。
With the temperature climbing to 33C, the number of those who go to the polls in the Greek capital, Athens, rivals the number of those who preferred to go to the beach for a swim.