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キャリアVSノンキャリ? 鹿児島県警の情報漏洩事件が意外な展開を見せる

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テレビ朝日の「相棒」に警察内部のメンツをかけた捜査妨害を扱ったエピソードがいくつかある。鹿児島県警の元生活安全部長が逮捕された事件がテレビドラマのような展開を見せている。NHKは一貫して「国家公務員の秘密漏洩事件」として扱っているのだが、内部告発だった可能性が出てきた。

当初地元採用の部下(60)と東京から来た上司(53)の軋轢なのではないかと思ったのだがどうもそんな単純な話でもないようだ。意外と根深い告発になっている。メディアの中には警察の発表をそのまま流しているところと内部通報の可能性を疑いつつ詳細に報道できていないところがある。

このため事件は思わぬ広がりを予感させるものになっている。

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NHKによると元生活安全部長が国家公務員の秘密保持に反いた容疑で逮捕された。だが、本田尚志容疑者(60)は野川明輝本部長(53)らが警官の不祥事をもみ消そうとしたのが許せなかったと主張している。また文書は刑事部長の関与も指摘しており刑事部長はこれを否定している。つまりこれは内部通報に当たるというのだ。弁護士がこの主張を裁判所に申し入れた上で勾留を解くように請求したが申請は却下されている。

確かに文書には鹿児島県幹部や事件の公表を望まない被害者の情報も含まれていたとされておりプライバシーの侵害という印象を持つ。しかしながら、情報の流出経路がおかしい。情報を受け取ったとされる札幌のジャーナリストは本田さんとは面識がない。また札幌のジャーナリストは情報を外に漏らしていないそうだ。NHKはこう書いている。「そうか福岡から漏れたのか」と思える。

文書は、鹿児島県警の別の警察官が内部文書を福岡市の会社役員に提供したとして逮捕・起訴された事件の関係先から見つかっていて、警察は文書の流出ルートや元部長が漏らしたいきさつについて調べています。

だが福岡のメディアが漏らしたわけではないようだ。江川紹子さんがYahoo!ニュースにコメントを残している。警察が入ってきて「もぎ取って」行ったのである。コメント全文はぜひYahoo!ニュースで確認していただきたい。

本件の発端は、別の警察官が内部告発情報を提供したネットメディアを、鹿児島県警が家宅捜索し、パソコンに前生活安全部長がジャーナリストに送った告発資料のコピーがあるのを発見したことだ。県警は、資料の原本も確認しないまま、前生安部長の逮捕に踏み切った。

先に「ネットメディア」(NHKによるとそれは福岡にある)が鹿児島県警察の不祥事を追いかけており情報は本田さんとは別のルートからこちらに持ち込まれたようだ。野川本部長は情報開示には消極的なようだが、次のように主張している。

逮捕された前部長から「本部長が不祥事を隠蔽しようとした」と名指しされたことについては「承知している」とし「(前部長が意見陳述で隠蔽されたと主張した)二つの事案については、県警において被疑者を逮捕するなど、いずれも必要な対応が取られている。

事案は2つあり逮捕「など」とされている。1件は逮捕だったがもう1件はどうなのだろう?という疑問が直ちに浮かぶと同時に(時系列は調査する必要があるが)福岡の方のネットメディアの告発により職員が逮捕された疑いもある。つまり捜査状況が漏れてしまい慌てて「一体情報はどこから?」ということになり家宅捜索を行い元生活安全部長を逮捕した上で「秘密漏洩だ」という印象を作ろうとしたという可能性が出てくる。

さらにTBSの報道特集の取材からハンターというサイトの名前が出てきた。JNNもハンターの記事は読んでいるはずだが詳細は報道していない。報道機関はきちんと独自で裏どりをした上でなければ報道はできない。

なおニュースサイトハンターで書いているのは北海道が地盤のライター(記名あり)だ。ここから「あれ、こちらがNHKが言っていた札幌のライターなのか」と思ってしまう。だが、ハンター自体は「福岡の情報をお送りします」と自分達のサイトを紹介している。つまり先に情報を取りなおかつ家宅捜索の対象になったのがハンターということなのだろう。これとは別に本田さんが情報を送った先が札幌にもあるということになる。調べる限り現在記事は3本書かれているようだ。

ハンター側は「公益通報」であるという点を強調しており、この公益通報の結果として鹿児島県警も対応を迫られたとしている。もちろんハンターの記事を鵜呑みにすることもできないのだろうが、仮にこれらの記事に圧力をかけるために家宅捜索が行われたとすると組織のトップを守るための行動が期せずしてマスコミに対する圧力にエスカレートしたということになってしまう。

国家権力を使えば記者クラブにも所属していない小さなメディアを潰すことなど容易いことだ。おそらく(一部のジャーナリストを除いて)市民もこれについて警察を批判するようなことないだろう。「触らぬ神に祟りなし」だからである。発展途上国ではこうした状況はさほど珍しいものではないのだし「いよいよ日本も」ということなのかもしれない。

しかしながら冷静に考えてみてほしい。

ハンターでは当初報道されていた「警官のストーカー事件」や「盗撮」などの性的な犯罪だけでなく公金(つまり税金だ)の不適切な使用の可能性まで指摘されている。国家権力が市民やジャーナリズムを萎縮させるのは簡単だ。また中央のメディアもとりあえず警察署回りをして記事を書けばそれなりに「社会報道でございます」と主張できる。

日本は世界でも優れた交番システムを持っている。警官はお巡りさんとよばれ尊敬されなおかつ親しまれている。警官組織に対する信頼と「経済的には不調でも日本は安心・安全な国」という評価は日本の国民財産と言ってよく、その国民財産を維持しているのがこうした交番のお巡りさんたちなのである。

警察庁も国家公安委員会もメディアを萎縮させる前に失うものの大きさをもう一度考えてもらいたい。また警察の信頼を勝ち取るために日々努力しているお巡りさんたちの顔を思い浮かべてもらいたい。

当初、この問題はノンキャリとキャリアの間の軋轢がきっかけの内輪揉めのようなものだったのだろうと考えた。本田さんは地元採用の60歳だが本部長は東京で警備畑を歩んだエリートで若干年下の53歳だそうだ。だが、調べてみるとどうやらそんな単純な話でもないようだ。今後、中央のメディアがどの程度真相に迫ることができるのかが試されている。

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