イスラエルのネタニヤフ首相が「絶好調」だ。国連組織UNRWAが運営する学校に爆撃を加えた。中部の別の街にも攻撃が加えられ合計110名が亡くなったと伝わる。
おそらく背景にあるのはバイデン大統領の和平提案だろう。ネタニヤフ氏の頭越しの動きだった。皮肉なことにネタニヤフ首相が暴れれば暴れるほどバイデン大統領には不利になる。おそらくネタニヤフ首相はそれがわかっていてアメリカのレッドラインに挑戦し続けている。
やっていることはめちゃくちゃだが「自分の生き残り」にかけては鋭い政局勘を持っている。政局勘だけでここまで生き残ってきたような人で、バイデン大統領はネタニヤフ首相を抑えることができていない。
バイデン大統領はTIME誌の取材に応じ「Biden: “Every reason” for people to conclude Netanyahu is prolonging war in Gaza」と発言した。ネタニヤフ首相がガザでの戦いを長引かせているという意味だ。バイデン大統領はアメリカのイスラエル支援とネタニヤフ首相支援を切り離そうとしているのだろう。これに呼応するように今回の和平提案はネタニヤフ首相の承認を得ることなく発表されたと報道されている。ネタニヤフ氏の政敵にも連絡をとっていたと伝わっておりイスラエル政局に期待した動きだった。
これに挑戦するネタニヤフ首相の対応は「見事」なものだった。まずアメリカの提案に対して異議申し立てをする。しかし橋を燃やす(逃げ場をなくす)ことはなく「提案には基本的に賛成だが」と協力の姿勢を示す。と同時に条件を突きつけ「人質が戻ってくるまで戦闘はやめない」と宣言した。
さらに言葉だけでは足りないだろうとばかりに国連組織であるUNRWAが運営する学校を狙い撃ちにした。イスラエルは国連組織UNRWAはハマスの手先であると主張している。別の地域にも攻撃を加えたようである。
この作戦にはいくつかの効果があるといえるだろう。第一にアメリカにいる反バイデン陣営にイスラエルを擁護する機会を提供する。またバイデン陣営を支える親パレスチナの人たちが離反する効果も狙える。つまりネタニヤフ首相が暴れれば暴れるほど共和党(具体的にはトランプ氏)に有利な状況が作られる。日時は決まっていないが議会の超党派メンバーはネタニヤフ氏を招待する予定になっている。
次に和平提案に積極的と伝わるハマスを硬化させる効果がある。イスラエルは表向きはアメリカの支援策には賛成の立場なので「向こうから断ってきてほしい」と考えているはずだ。ハマス側は攻撃停止なくして人質解放なしと言っている。
結果的にUNRWAの運営する学校では各地を逃げ回ってきた45名が亡くなったと報告されている。また中部のディルアルバラでも65名が亡くなった。イスラエルの作戦は極めて周到に計画されている。ガザ地区にさまざまな「安全地帯」を設定し住民たちをたらい回しにしている。救援物資も滞っているため人々はお腹をすかせたまま持ち出せる家財道具だけを持ってガザ地区各地を彷徨っている。そして、時々その「安全地帯」にも「間違った」攻撃が行われる。こうして人々の生きる意欲を奪ってゆき「もうエジプト側から逃げてもらうしかない」という状況を作ろうとしているのかもしれない。
バイデン政権はウクライナ支援を通じて「民主主義の守護者」としてのアメリカ合衆国というイメージを浸透させようとしている。アメリカ市民は第二次世界大戦において「普通の市民が犠牲となって民主主義を守った」という誇り高い認識がある。つまり民主主義はアメリカ人にとっては非常に重要な歴史的遺産なのだ。ところがこのイスラエルの状況はこの誇り高い伝統に暗い影を落とす。ウクライナを支援するアメリカもイスラエルの暴走を防げないアメリカもどちらも同じ国なのだ。
バイデン大統領は自らの立場を守るためにネタニヤフ首相を問題と切り離そうとした。しかし実際に意思決定の鍵を握るのはネタニヤフ首相なのでこの試みは無理筋だった。そればかりかネタニヤフ首相の態度を硬化させてしまい結果的に多くの無辜のガザ市民が巻き添えになったのだ。