立憲民主党所属の蓮舫参議院議員が東京都知事選挙への出馬を表明した。曖昧なイメージ重視か実質的な改革かという対立構造をうまく打ち出したうえで自身の経歴と効果的に結びつけた。最初の記者会見は成功だったと言えるだろう。
小池都知事を実質的には自民党系の都知事と位置づけたうえで公約を何一つ実現できていないと指摘した。小池氏の自己認識は自民党政治の改革だったがそれは単にイメージだけの誤魔化しであるという主張だ。その上で自身の参議院での実績を「行政改革と刷新だ」と要約し対立構造を効果的に印象付けた。
一方で、立憲・共産・市民団体以外の支援についても受け入れる意向を示した。無所属での出馬となるが「立憲民主党の蓮舫氏」のイメージが強いために批判を受けるかもしれない。一部共産党に拒否反応を示す野党系の政党もある。
また行革という大きな枠組みを優先したため「子育て」などの具体的な政策についてはこれからまとめるといったところのようである。優先順位の問題という気もするが、今後どのようなスタッフと一緒に政策を打ち出すのかによって評価は大きく変わりそうだ。東京都の予算は巨大であり従ってその精査にはかなりの時間がかかるはずである。直前に出馬を決めたということもありこの辺りの準備は必ずしも十分ではなかったかもしれない。
小池百合子都政で締め出されているフリーの記者が多かったこともあり、記者会見の質問はおおむね好意的であった。一般紙は「いつ頃出馬を決めたのか」「なぜ今なのか」を聞きたがっていた。これが一般紙のキャップたちの関心時だったようだ。
まずは都知事選挙のゲームのルールを提案し世の中に打ち出した意味は大きいだろう。巷では「女同士の戦い」などと面白おかしく構図を演出したがる下世話な媒体も多い。一般紙でもそのように書いているところがある。
その上で、蓮舫氏を支える人たちに対する個人的な期待をまとめておきたい。
今の日本は政治的な岐路に立っている。現在3つの路線が考えられる。
- 無党派と呼ばれる人たち(特にプライムエイジ)の人たちがそのまま社会に希望を持たないという現在の延長路線。子育て中核世代の社会が疲弊して行き社会への参加意欲が早出すれば、それはすなわち日本の活力の低下に直結する。
- アメリカのように無党派が政治に目覚めるというアメリカ合衆国のような路線。イデオロギー対立が文化闘争にまで発展し政治が劇場化する。東京15区の例を見ると日本では政治参加が進まず冷笑から傍観者的破壊欲求を持った人たちが現れ政治状況が撹乱される。
- 市民団体などを中心に無党派層向けの政治が行われるようになり徐々に穏やかな形で無党派層の要求が政治に取り入れられるようになる。
プライムエイジの無党派層の政治参加は2つの意味で非常に大切だ。第一の理由は既に述べたような政治の安定化である。無党派層の既存政治からの撤退は加熱か停滞かという両極端の現象を生み出す。欧米では政治の過激化が起きており日本では停滞化が加速している。記者会見の中では子育て対策が問われていたがプライムエイジが政治に希望を持てるように誘導することは子育て対策としても非常に重要だ。
さらに彼らの消費意欲が回復すれば国民経済の半分を占めている個人消費が復活する。新しい製品を開発する意欲が喚起され国外に向いていた企業投資が国内に戻ってくるだろう。つまり無党派=消費者=勤労者の積極的な社会関与は日本に良い影響を与えるが、そのためには無党派層に希望を持たせることができるリーダーが必要である。
現在の政治は企業を優遇し消費者・勤労者に還元されるまでの間を政府支出を増やすことで時間稼ぎをするというトリクルダウンセオリー(サプライ・サイドポリティクスとも)に基づいていた。だが、個人消費は6割から5割に低減している。これが「デフレマインド」の正体であった。おそらくこの政策は失敗だった。そして自民党までもがこの失敗に巻き込まれている。地域経済が崩壊すると自民党の政治家は支援者探しに苦労することになった。また「マイナンバーカード」のような改革も進まない。国民が政治を信じていないからである。
蓮舫氏はこれらを「自民党政治」と単純化した上で打ち出していた。記者会見では「なぜ今なのか」という声が出ていた。「もう今の自民党政治ではもたないのではないか」と気がつき始めている人がたちが少なからず現れている。こうした政治的に鋭敏なセンスを持った人たちの声を代表する政治家が求められている。
日本のプライムエイジは「ロストジェネレーション」と呼ばれている。30代後半から50代前半までの彼らが社会に出た時は経済不況だった。社会に出たときの印象はその後の消費・政治への向き合い方・社会に対する姿勢などに大きな影響を与える。実際に日本の政治は高齢者の意向が強く反映する構造になっていることから彼らの「どうせ負けるに違いない」という体験は確信に近いものとなっている。こうした人たちにどう成功体験を持たせるのかが今後の課題となる。
今回の東京都知事選挙は「今のままではもう持たないかもしれない」と気がつき始めた無党派が成功体験を得ることができるかもしれない最初のチャンスとなるだろう。成功するか失敗するかの差は非常に大きい。ここはぜひ「二位じゃダメ」の精神で突き進んでいただきたい。
蓮舫氏の会見要旨は次のとおり
- 自民党の改革案からは本気度が感じられない。
- 長崎3区・島根1区・東京15区では立憲民主党が勝利し、静岡県知事選挙でも野党系が勝った。有権者は動き始めている。
- この勢いに乗り東京では小池都政を刷新すべきだ。8年前の小池さんは眩しかったが7つのゼロ・12のゼロと呼ばれた政策を含めて何も公約を実現できていない。仮に東京都知事に小池さんが立候補するのであればこれらの公約の進捗について聞いてみたい。
- 公金がつぎ込まれている都庁のプロジェクションマッピングも防災ブックも防災ポスターも小池都知事の事前選挙運動のような印象だ。こうした予算を光が当たらない人たちに届けなければならないのではないか。
- 希望の党は結果的に与野党を分断し自民党を利している。八王子市長選挙でも自民党を応援し目黒区の都議会議員補欠選挙でも自民党を応援している。自民党政治の改革を訴えてはいるが実質的には小池さんは自民党の人なのではないだろうか。
- 蓮舫氏は参議院では行政改革に力を入れてきた。この実績を活かし東京都政を改革したい。
質問に対する答え
- 学歴問題についてはご本人が説明すべきではないか。踏み込んだ批判は控えたい。
- 神宮外苑の開発に関しては都知事選挙後に先送りすべきではない。都知事の対応は「寄り添っていない」残念なものだった。住民と企業の協議は透明化すべきだろう。
- 朝鮮人虐殺問題への関わりについては公約で触れたい。
- 最大の日本の政治課題は「自民党政治」との訣別だ。都政において小池氏は自民党政治との決別を謳っていたが今はむしろ自民党に接近している。
- プロジェクションマッピングは無駄遣いではないか。
- 記者会見で批判的な意見が出ない理由はよくわからなかったが、記者の説明を聞いて事情がわかった。批判的できついこと質問が出たとしてもオープンな会見を目指すべきだろう。
- 行革の本気度を示すために一般会計の事業については全て公約で検討し提示する。
- 選挙戦は無所属で臨む。都知事選定委員会(立憲・市民・共産)は1つの意見だがそれ以外の勢力でも協力できるところがあれば協力を要請するつもりだ。
- 国政の行政改革はいよいよ前に進み出したが都政にはまだ課題も多いようだ。
- 少子化対策には幅広い支援が必要だ。