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イギリスはなぜイラク戦争の検証報告書を出せたのか

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イギリスの独立調査委員会が7年の歳月をかけてイラク戦争の参戦は間違っていたという報告書を出した。いくつかの日本の新聞がこれを報道したのだが、裏には「日本ではなぜ出せないのか」という含みがあるものと思う。良い質問だと思う。なぜ、日本ではこうした報告書が出せないのだろうか。
当たり前のことだが、イギリスの報告書は「イラク戦争への参戦」という事実を扱っている。その意思決定をした最高責任者はブレア首相だ。結果として多くの兵士が亡くなった。
まず第一の背景は、イギリス人は「政治家は嘘をつく(あるいは間違える)」という前提でいることではないかと考えられる。前のエントリーで見たように、イギリス人の政治家は頻繁に嘘をつく。毎日新聞の報道を読むと、一度報告書を出したが国民は納得しなかったとある。世論が納得しなかったので報告書を出すしかなくなったのである。
次に意思決定者がはっきりしているという事情がある。ブレア首相が国民に「大量破壊兵器がある」と言って説得したのだ。報告書は「それが嘘だった」と言っているのである。
チルコット委員長は、調査委員会には政治家が含まれておらず、批判のために調査したわけではないと説明する。その目的は「同じような間違いを繰り返さない」ことなのだそうだ。独立調査委員会は、政党対立が前提になっているということが分かる。調停者として第三者が出てくるのだ。
では、なぜ日本ではこのような報告書を出すことができないのだろうか。第一に日本人は間違っていたということを極端に嫌う。いったん「裏切った」となると、そのまま社会的生命が失われることが多い。背景には「細かな検証はしないが、一度明白な証拠が出たら、何されても構わない」という前提があるのではないかと思う。日本人にとって、社会的約束は血の盟約で、失敗は許されないのだ。
次に日本では意思決定者がはっきりとしないという事情がある。責任者は明白ではなく、多くの人たちが利害調整しながら、なんとなく意思決定してゆく。そのルートは非公式であり、外からはよく分からない。意思決定は単発の出来事ではなく、長いプロセスなのだ。イギリスではブレア元首相が訴追されれば済むのかもしれないが(実際にそういう動きがあるようだ)日本では集団責任になる。責めを負わされるのは「外務省」や「自民党」などの集団だ。つまり、プロセス全体が間違っていたことになってしまうのだが、それをただすためには、プロセス全体をそう取っ替えするしかなくなる。
独立した調査委員会を作っても、調査対象との関係性を持つので、実際には独立にはならないし、調査される対象も集団の正当性が毀損されるのを恐れて、庇い合いが始まる。第三者が調停を前提にしていたということから、日本には明確な対立はないということになる。故に第三者が成り立たないのだ。
一連の報道を読んでも「なぜイギリス国民が納得しなかったのか」という点がよくわからない。多分、主権者として意思決定に参加したという意識があるのかもしれない。これが日本人だと自分たちの生活に直接の影響がない限り「政府が勝手に決めたこと」だと考え、深刻に捉えないのではないかと思う。あるいは、死者を出したあげく、難民の流入問題に直面しており「なぜこんなことになったのか」と真剣に捉えている可能性もある。中東の戦争は日本にとっては「対岸の火事」に過ぎないのかもしれない。
日本人の意思決定は曖昧な上で遅い。間違いは少ないかもしれないのだが、いったん組織で間違えると同じ間違いを何度でも、最終的に破綻するまで繰り返すことになる。イギリス方式は意思決定が素早いが間違える可能性がある。しかし、意思決定プロセスが(日本に比べて)単純なので、失敗から学ぶことができるのである。