本日は強欲インフレの記事をきっかけに「岸田総理を退陣させることが日本を救う」というテーマでお送りしている。背景情報の中で経済概況を書いているのだが「良い材料がなく不安になるからもう読みたくない」と考える人がいるのではないかと懸念している。
不安になる理由はいくつかあると思う。
まず、今何が起きているかよくわからない。次に日本だけが取り残されているのではないかと惨めな気持ちになる人もいそうだ。そして、状況がわかったとしても自分達に何ができるわけではないと無力感を感じる人もいるかもしれない。行動ができないから不安になるのだ。つまり不安を払拭するためにはまず今何が起きているかを知ると同時に自分達が置かれた状況を理解することが大切だということになるだろう。
ただこれを読んだからといってそのまま受け入れるのもやめてほしい。一旦は疑いつつ情報を集めるといいだろう。
今の政治分析は現状を分析し政府を批判することはあっても一人ひとりの読み手がどのような状況に置かれているのかを冷静に俯瞰して捉える記事が少ないと感じる。まずは自分から情報を集めて自分なりに咀嚼することが重要だ。この記事はあくまでもそのための材料を提供するものであって答えを押し付けるものではない。
まず、現在はデフレ(停滞)経済からインフレ経済への移行期にある。そして、インフレの恩恵を実感できている人とそうでない人がいる。これは個人にも企業にも言える。そしてそれは日本だけの現象ではない。
朝日新聞の強欲インフレの記事を読むと「海外で利益を出している企業」の他に「日用品を扱いなおかつ独占を享受できている企業」が恩恵を感じているようだ。だがそれ以外の企業が取り残されている。集約が進まないサービス産業や地方の小さな企業などはかなり苦しい思いをしているのではないか。
日本語で情報をとっていると欧米の状況について解説したものが少ない。このためどうしても「日本だけが取り残されている」と考える人が出てきてしまう。だがそれは正しくない。
アメリカの経済は絶好調だ。だが今はリセッションであると感じている人たちが多くなっているという統計がある。The Gardianが「Majority of Americans wrongly believe US is in recession – and most blame Biden」という記事を出している。
アメリカはポピュリズムが進行しているためバイデン政権は有権者の意向を無視できない。このため、独占的な地位を有する企業に対する懲罰的捜査を進めている。最近では「コンサートチケットが高いのはチケットマスターが独占企業だからなのではないのか」という疑いが持たれている。若者の関心が高い分野だ。そのほかにクレジットカードなどの規制も検討されている。いくつかは最高裁判所にも持ち込まれている。
またアメリカのファスト・フード企業の中には5ドルメニューを復活させるところが出てきた。外食が手の届かないものになりつつあり低所得者の選択肢から消えかけているのだ。レッドロブスターのように食べ放題で破産するような企業も生まれている。
日本では有権者の無関心を背景にして相対的に企業の影響力が強くなっている。自民党は企業への傾斜を強めており政治と金の問題で企業献金からは脱却できない。実は立憲民主党の議員の中にも大企業を背景にしている人たちは大勢いる。彼らもまた「法律ができるまではパーティーは合法だ」と言っている。消費者=有権者が政治に関わらない限りこの状態は続くだろう。
企業への傾斜が進むと、膨らみ続ける医療・福祉の費用を国民から徴収しようということになる。また政府財政を改善するために国民からさらに税金や保険料を徴収しようという動きも加速している。GDPを3つに分解すると主に「政府+企業(設備投資)+消費者」ということになるが、負担が政府と企業か消費者に移転しようとしている。現在はGDPの5割程度は個人消費で説明できるが、2012年(民主党政権が終わった当時)は6割だった。それだけ個人消費が落ち込んでいるということだ。
日本の消費者は「そもそも欲しがらない」ことでこの状況に対応しようとしている。なんとかして買おうとするから窮乏するのであって最初から欲しがらなければ窮乏することはない。すると国内での消費はますます縮小し企業の投資意欲が減退する。
この動きは動的なものだ。国内消費が旺盛になれば税収が上がり企業の投資意欲も復活する。消費が上向けば賃金が上がり企業の投資意欲が向上し税収が上がる。最終的に交易条件が改善され行きすぎた円安が改善される。これが「景気の好循環」だ。
円安の原因は金利差だけではないという観測も出てくるようになった。消費の弱さと企業の海外転移などが複合的に国際収支を悪化させている。
円の弱さの根本的な原因は、1.日本の実質金利が大幅にマイナスとなっていること、2.日本と他主要国の名目金利差が歴史的な大きさとなっていること、3.日本の国際収支の悪化──だ。
また消費者が新しいサービスを選ばなくなった(またその余裕も無くなった)ことで家電メーカーが日本から消えなおかつ新しいデジタルプラットフォームがアメリカのものに起き変わりつつある。デジタル赤字については唐鎌大輔氏が継続的に情報発信をしている。
さらに国内経済が停滞することでマイルドなキャピタルフライトが起きている。政府は国内証券会社を保護するためにNISAを推進したが結果的にはこれも円安の要因となりつつある。鈴木大臣はこの現象についてはコメントを避け続けている。
このためには「国内消費を優先する」姿勢を示し具体的に成果を上げる政権が望ましい。これは与党であっても野党であっても構わない。だが自民党政権(主に安倍政権)下で個人消費が落ち込んでいることを考えると、これを総括できる政権が相応しいということにになるが、安倍政権の政策から離れて分析できるのであれば自民党政権でも構わないということになる。
「自分達が政治に関わっても何かを変えられるわけではない」という気持ちは、失われた数十年の結果生まれたものと考えられる。特にバブル崩壊の影響は大きかっただろう。これが新しい産業を起こそうとする意欲の低下、頑張っても報われないという気持ちからくる生産性の低下、今の政治体制の温存などの「原因」になっている。
ではこれは日本だけの現象なのか。
アメリカやヨーロッパでも強欲インフレが問題になっている。日本には「自分達が政治に意見を言ったところで何も変わるはずはない」というあきらめを持った人たちがプライムエイジを占めているという極めて特殊な事情がある。その信念は今や統計にも表れており他の世代の給与が上がり始める中でなぜかロストジェネレーションの給料だけが上がらないという状況を作り出すまでになった。
アメリカでは個人の有権者が騒ぎ出したことでようやく消費者保護の動きが加速することになった。実はアメリカでも中間所得者が没落するという状況(アメリカでは50年かけて進行している)がありその要因の一つは労働分配率の低下だった。だがアメリカは日本と違っており政治参加意欲が極めて高い。このため有権者の政治参加が進んだ。良い側面も悪い側面もあるが、価値観をめぐる混乱も加速しており一部罵り合いのような状況が生まれており、一般的にこれをアメリカ型のポピュリズムと言っている。経済の二極化という同じ状況を背景にしつつも「過熱(アメリカ)」と「停滞(日本)」という真反対の結果になっているのが面白い。
政権交代は一つのきっかけでしかなく、それだけで問題が解決するわけではないということがわかる。いずれにせよ、自民党も立憲民主党も本音ではパーティー依存から脱却するつもりはなさそうだ。
働きかけない限り状況は変化しない。だが問題の一部に「何をやってもダメ」という諦めに似た気持ちがある。こうした恐れを払拭するのに外から働きかけてもなんの効果もないだろう。溢れる情報に不安になりそうな人もいるとは思うのだが、まずは自分で状況を確かめるところから始めてほしい。