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トランプ氏陣営の「ナチスドイツを思わせる動画」が波紋

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トランプ氏の陣営がナチス・ドイツ時代を思わせる動画を掲載したとして波紋が広がっている。アメリカの政治はユダヤよりと言われることが多いのだが実は歴史にはあまり興味がないと言うことがわかる。覇権国家だった時代が長かったためにこの程度の歴史認識でもなんとかなっていたのであろう。

アメリカでは密かに「トランプ氏は本当は皇帝になりたいのではないか?」という懸念が広がっているという。このため今回の騒動は必ずしも「無知」によるものとばかりは言い切れない。フランシス・フクヤマ氏が歴史の終わりしていた時代が終わり「新たな歴史」が始まりつつあるのかもしれない。

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トランプ氏陣営がある動画をトゥルース・ソーシャルに掲載した。背景に古いドイツの新聞(と見られるもの)が使われており「統一帝国」と言う文字が見える。ドイツ語ではReichというそうだ。もともと豊かな領域を意味した言葉でRichと同根と言う説がある。これが領主の支配する領域という意味になった。

ではなぜこの用語が問題になったのか。ナチスドイツが「第三帝国」という言葉を使ったからである。ナチスドイツ=アンティ・セミティズム(反ユダヤ主義)ということとなり慌てて削除されたようである。

アメリカには外国や歴史に非常に詳しい人が多い。一方で外国や歴史に全く興味がない人たちもたくさんいて「ハリウッド映画で仕入れたような」曖昧な印象だけを持っている人たちもたくさんいる。非常に格差と多様性とある国だ。

ドイツはフランスやオーストリアに遅れて王権の統一が進んだ。プロイセンがドイツを統一し最終的に「統一帝国」が作られた。第一次世界大戦で負けると皇帝は退位を余儀なくされたが議会がまとまらなかったために強い大統領権限が求められるようになる。これを簒奪する形で登場したのがナチス・ドイツでありヒトラーだ。つまり「統一帝国」そのものはユダヤ人虐殺とはなんの関係もないが、イメージとしてのReichが反ユダヤ主義と「なんとなく」結びつきやすかったということになる。

そもそもなぜトランプ政権は統一帝国と自分達を重ねようとしたのかという疑問が残る。これがこの文章における重要な点だ。おそらくトランプ氏は今のアメリカは分断され弱くなっていると感じている。そのためには強い大統領権限が必要だ。これをドイツの近代化と重ね合わせている。当然、その行き着く先は「大統領の皇帝化」ということになる。その意味ではローマ共和国がローマ帝国になったった時代と非常によく似ている。トランプ氏は就任初日には独裁者になると宣言しておりバイデン陣営はこれをトランプ陣営の攻撃に使っている。

Quoraでもこのトピックについて書いたところ民主党支持者のアメリカ人から「Reich」は事実上白人至上主義者が憧れるワードになっているのだという指摘があった。「犬笛」という表現が使われており穏やかではないが、確かにドイツ帝国は白人帝国だったのだから白人至上主義者が憧れたとしてもさほど不思議はない。

このブログでは、民主主義という理念のもとに世界を主導した覇権国家としてのアメリカは終わりを迎えているとたびたび書いている。アメリカの事情を知らない人は「まさかそんなことが」「この人はなんらかの理由で反米思想を広めようとしているのではないか」と思われるかもしれない。

覇権国家ではなくなった国は現状を受け入れ今の国連中心の世界秩序を受け入れるべきだろう。准覇権国家だったフランスはそうなりつつある。

だがアメリカでは「トランプ氏が大統領になったら憲法規定を無視して終身大統領を目指すのではないか」という懸念が広がっている。問題はこうした可能性が一部の人たちを怯えさせる一方でこれを密かに期待する人もいるという点にある。Bloombergが次のような記事を書いている。どちらかと言えば保守派・共和党寄りの媒体だがおそらくトランプ氏のことはさほど歓迎していないといった立ち位置のメディアだ。

ロングウェル氏が提供した激戦州の浮動層を対象とするフォーカスグループ調査の動画では、トランプ氏が11月に勝利した場合、大統領の任期を2期と定めた合衆国憲法修正第22条を順守せず、退任を拒むと懸念するかと司会者が質問している。これに対し、参加者8人中7人が手を挙げた。ペンシルベニア州のある男性は、トランプ氏がさらに踏み込んで王朝を築こうとしているのではないかとの懸念を表明。「トランプ氏が共和党全国委員会(RNC)を手中に収めた今、彼ならやりかねない。次はドン・ジュニア氏が継いで2期。そしてバロン氏が2期務める。そうなれば、偽の君主制が敷かれることになる」と述べた。

覇権国家時代が長かったアメリカ合衆国は「何が善で何が悪か」を決めることができる時代が長かった。イスラエルは善でありイランは悪の帝国である。日本近隣でいえば台湾(中華民国)は善でありその独立を狙う中華人民共和国(北京政府)は悪といった具合だ。ところが実際にはこうした「設定」はかなり漠然とした印象に基づいている。

典型的な(つまり外国にも歴史にも興味がない)トランプ氏は平気で「アメリカはドイツ帝国のような強い国を目指すべきだ」と主張し「いやいや最終的にユダヤ人が迫害されましたよね」とカウンターを喰らうことになる。よくわかっていないので「ああまずい」ということになり動画が削除されてしまう。

トランプ氏は熱烈なイスラエル支援の姿勢で知られているが、おそらくイスラエルやユダヤの歴史にはさほど興味はない。彼が興味を持っているのはユダヤ人のお金だけなのだろう。

ソ連が崩壊したあとフランシス・フクヤマ氏は歴史の終わりという名著を書いた。東西冷戦構造が崩壊したことでアメリカ合衆国が掲げてきた自由で開かれた民主主義が最終勝利し「体制を崩壊させるような戦争やクーデターの時代(歴史)が終わった」という内容だった。

歴史の終わり(新版・上巻)

歴史の終わり(新版・下巻)

だが実際にはフクヤマ氏が書いたようなことは実現しなかった。アメリカが覇権国家の地位を失うことで地域紛争が激化している。そのプレイヤーを見るとロシア(スラブ)・トルコ(チュルク)・サウジアラビア(スンニイスラム)・イラン(CIスラム)・中国(中華民族)といったかつて「帝国」を形成していた地域の後継国が多い。新しい覇権国家が出てくることはない。帝国領域と終焉領域の確保がこれらの国の国家運営原理になっている。

これまではヨーロッパとアメリカだけは帝国に後退することはないと見られていた。だがあるいはアメリカも含めた「新しい歴史の始まり」を迎えているのかもしれないと感じる。かつてローマ市民が強い独裁者のものでの秩序維持を求めたのと同じ理屈である。

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