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弱体化した政権は国のためにならない スナク首相が総選挙を英断

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イギリスのスナク首相が7月4日の総選挙を英断した。支持率の低下に苦しみ追い込まれての決断となった。立憲君主国のイギリスの政治状況には日本と似ているところと全く違うところがある。この英断を見ると岸田総理もすぐさま総選挙を実施すべきではないかと感じる。

スナク首相は「安定のためには保守党が政権を維持すべきだ」と主張しており、スターマ党首は「今こそリセットボタンを押すときだ」と有権者に呼びかけている。ただし地方選挙を見る限り保守・労働以外の新興勢力が躍進する可能性があり総選挙後にすぐさま労働党政権が誕生するとは言い切れない状況なのだそうだ。

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スナク首相が国王に国会解散を内奏し許可された。イギリスでは議会解散は国王大権とされているが慣例的に臣下の代表であるスナク首相に一任することになっている。革命も体験しているイギリスでは行使しないことで大権を維持しているといえる。日本でも国会解散は天皇の国事行為とされており内閣が助言することになっており似た仕組みだ。

政治状況も極めて似ている。ジョンソン首相が約束したブレグジットによるイギリス経済の再浮揚は成し遂げられなかった。さらにウクライナの戦争などで諸物価が高騰しアメリカ発の金利上昇もイギリス経済に暗い影を落としてる。全てがスナク政権の失敗とは言い切れないものの国民の反発は政権政党である保守党に集まり、世論調査では支持率が低迷していた。

日本との違いもある。日本の安倍首相は自身の提唱していたアベノミクスの効果が剥落しコロナ禍も重なったことで自らボートから脱出した。アベノミクスには出口はないが安倍総理には出口があった。一方でジョンソン首相はコロナ禍でも自身が設定した規則に従わず国民からの非難にさらされていた。最終的にジョンソン氏は閣僚時代の不品行が原因で下院議員からも退くことになった。ごまかしが横行する日本の議会と違いイギリス議会には厳格なコードがあり身内だからといって庇いだてされることはない。保守党全体の信用に関わるからである。

英下院では通常、審議中に閣僚がわざとうそをついたり、議会をミスリードしたりしたと発覚した場合、それは辞職・解任理由になる。議会をミスリードするとは、虚偽と知りながら議会に虚偽の情報を事実であるかのように提示し、誤った方向へ議会を導くことを意味する。

また総括にも違いがある。日本の政権は過去の総括をやりたがらない。特に総選挙前となれば尚更だろう。今回スナク政権は血液製剤などのスキャンダルについてきちんと調査して総括している。時々政権交代が起きることもあり「全てが保守党のせい」ということにならないという違いはあるものの、認めるべきところを認めて次に生かそうという姿勢には見習うべきところがある。調査は組織的な隠蔽を認めている。

スナク首相と岸田総理の境遇はかなり似ている。スナク氏は裕福なイギリス金融界の出身で庶民感情には疎いとされている。また前任者が招いた混乱を収束させることができなかったという点にも共通点はある。

イギリスの例でわかるように一旦「落ち目」になった政権政党には回復のチャンスはない。むしろダラダラと総選挙を先延ばしすることでさらに支持率が低下し混乱が増すことになる。イギリス全体のことを考えても保守党のことを考えても一度総選挙を実施しその後に生き残った勢力で新しい党首を選んだほうがいい。

BBCは次のように書いている。スナク氏は「安定を維持するには保守党政権がふさわしい」と説明した。国民の選択は政策に関するものではなく安定か前進かなのだとアジェンダセッティングしている。仮に政権維持のために総選挙を先延ばしにしていたなら「安定のために保守党を選んでくれ」とは言えなかっただろう。

雨の中、首相官邸の前に立ったスーナク首相は、与党・保守党による経済政策の成果などを強調したうえで、5月30日に議会を解散する許可をチャールズ国王から得たと発表。世界情勢が不安定な時代において、保守党政権によるこれまでの成果をさらに積み上げていくのか、最大野党・労働党が示す不安定に戻るのか、国民が選ぶ時が来たと述べた。

一方で労働党のスターマ党首はリセットを訴えた。

それに対して保守党政権がさらに5年続いたりすれば、「(保守党は)今までとまったく同じように振る舞う権利を得てしまう」、「何も変わらない」とスターマー氏は批判し、これに対して労働党は「党よりも国を優先する」と強調。そのため、労働党への一票は「混乱を食い止める」一票になるのに加え、総選挙は「この国の経済と政治をリセット」する「変化の時」になると呼びかけた。

なおイギリスには自由民主党、緑の党などの新興政党も躍進していて労働党が単独で政権を維持できるのかは不透明だ。総選挙の前哨戦と位置付けられていたイングランド地方選挙では自由民主党の躍進が見られた。また一部右派の票はリフォームUKという極右(反移民・反EU)政党に流れており保守分裂も予想されている。2月に行われた補欠選挙ではリフォームUKに票が一部流れていた。イギリスの「保守」と呼ばれる人たちがどの程度リフォームUKに流れるかも注目ポイントかもしれない。

一方、欧州連合(EU)離脱運動を主導したナイジェル・ファラージ氏が設立した反移民政党「リフォームUK」が両選挙区で健闘し、保守党の選挙戦略担当者らは右派票の分裂を懸念しそうだ。

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