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ICCがネタニヤフ首相らに逮捕状請求へ タイミングは最悪

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イスラエルのネタニヤフ首相にICCから逮捕状が請求された。現在は審査段階であり最終決定ではない。タイミングはかなり良くないように思える。案の定アメリカは猛反発しているそうだ。

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ガザ・イスラエル状況には3つの側面がある。

  1. ガザ地区の人道状況が悪化しており、今後の統治方針にも目処が立たない。ガザの人々の明日が見えない。
  2. アメリカ合衆国の大統領選挙においてバイデン陣営に悪い影響がある。
  3. イスラエル国内でネタニヤフ首相への反発が高まっており、政敵であるガンツ氏とネタニヤフ氏の間に軋轢が高まっている。

問題1を解決することが2と3の解決にもつながる。そこでアメリカ合衆国とガンツ氏がとった戦略は「極右と手を切って自分達と協力すればあなたの未来はひらけますよ」とネタニヤフ氏を説得するという方法だった。

ガンツ氏とアメリカ・ヨーロッパの立場は必ずしも一致していないが「そのまま放置しても民主的にパレスチナを統治する勢力が自然発生することはない」という見解では一致したようだ。国際監視団を作りパレスチナの民主化をコントロールすると言う提案が行われている。少なくともサリバン大統領補佐官とガンツ氏の間では一定の合意ができているように思える。BBC(アメリカの提案)とCNN(イスラエル・ガンツ氏の提案)がそれぞれ内容を報道している。

BBCによるとアメリカ合衆国はまずサウジアラビアと対話し「ネタニヤフ氏へのお土産」を準備時していたようだ。ネタニヤフ氏の最終的なゴールが自分の政治的生命の延命であるとするならば国民に「停戦という自分の選択は正しかった」と説明できる材料を準備してやればいいことになる。ガンツ氏もネタニヤフ氏が極右と手を切って司法改革を諦めてくれればそれで良い。

そんな中、事前に予想されていたとはいえICCの逮捕状請求は晴天の霹靂となった。ロイターは次のように書く。ガラント氏には逮捕状が出るがガンツ氏には逮捕状が出ない。ネタニヤフ氏をさらなる孤立に追い込むことになってしまううえにガラント国防大臣もネタニヤフ氏の運命共同体ということになる。

国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は20日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、戦争犯罪と人道に対する罪の疑いでイスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相のほか、イスラム組織ハマス幹部3人の逮捕状を請求したと発表した。

バイデン大統領はトランプ氏から「パレスチナ寄りだ」と批判されておりそのイメージを払拭したい。このためパレスチナとイスラエルを同列に扱うことに強い拒否感を示している。同じくロイターの記述である

バイデン米大統領は20日、逮捕状請求は「言語道断」だと非難した上で「検察官が何を言おうと、イスラエルとハマスの間には同等性など全くないということをはっきりさせておきたい。米国はイスラエルの安全保障について常にイスラエルを支持する」と述べた。

一方のブリンケン国務長官の意見はやや実務的だ。バイデン大統領の見解を踏襲した上で「停戦合意が危うくなる」といっている。「お尋ね者」になったネタニヤフ氏はもはや失うものはなくなってしまううえにガンツ氏との差異は明確なものになる。外交交渉で動けないネタニヤフ氏とリクードを支持する国民はますます減るだろう。

ブリンケン国務長官も同様の見解を示した上で、ICCの管轄権と逮捕状請求に疑問を投げかけた。また、人質奪還と停戦合意に向けた交渉が危うくなる可能性があるとした。

イランでは大統領が亡くなりイラン・イスラム体制の「ストレステスト」のような状態になっている。今後50日以内に大統領選選挙が行われる。イランは専制国家なのだが少なくとも政治的には競争がある。つまり大統領選挙が穏健に行われる保証はない。

イスラエルはイランの外交施設を破壊しアメリカと地域をより大きな戦争に引き摺り込もうとしたが、この時にはイランの抑制的な対応によりことなきを得ていた。イランの体制が不安定化する中で同じようなことが起これば今度はタダでは済まないのかもしれないなどとついつい悪い方に想像力を働かせてしまう。

ガンツ氏が「締切」を設定したことでガザ地区の人権状況が改善されるのかと思っていたのだが何事もうまくゆかないものだと感じる。アメリカは制止しているがネタニヤフ氏はラファへの攻撃を加速させるようだ。逮捕状が請求されてもなおその行為を止めることはできないのである。

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