政治と金の問題で集中審議が行われた。結論だけを書くと「選挙をやれば何もかもすっきりする」と感じた。実はそれほど重要なことは話し合われておらず政治と金の問題が解決したからといって日本が再び成長すると言うことはあり得ない。
東京新聞は野田佳彦氏の質問を中心に記事を組んでいたが特に目立ったのは公明党の慌てぶりだった。イメージの悪化をかなり気にしているようだ。
TBSの「ひるおび」に田崎史郎氏が出演した。田崎氏は安倍政権擁護の姿勢が目立つ人だったが岸田政権に対する見方はかなり冷ややかだ。世論がうっすらと自民党に冷たいことを感じ取っているのだろう。
田崎史郎氏は次のように説明をしていた。
- 実務レベルでは自民党と公明党の間で合意ができている。
- しかし公明党幹部が世間受けを気にしている。自民党と「同じ穴の狢」と見られることを恐れているのだろう。
- 衆議院では公明党が離反しても法案は通過するが参議院で公明党が離反すれば法律は成立しない。
- だが岸田総理は「今国会中に解決する」といっているのだから、仮に自民党案に乗らない(参議院で離反する)のであれば首相提案に反旗を翻したことになり事実上の不信任と同様である。
- ゆえに仮に反対する覚悟があるなら連立を離脱すべきである。
安倍政権下ではあたかも政権のスポークスマンのような役割を果たしていた人なのだが「公明党連立離脱論」を唱えるなど意外と自分の意見を持った人なのだ。
だがおそらくは公明党もこのことがわかっている。
この流れで質問を見たのだが公明党の質問者は途中から空回りしていた。なにやら口走っていたがなにをいっているのかよくわからない状態になっていた。
公明党は明らかに巻き込まれでイメージが悪化することを恐れている。元々宗教政党なので公明党が自民党に協力することで社会が良くなっていると言うイメージを維持しなければならない。つまり彼らにとって「清浄である」ことは極めて重要なテーマなのだ。
岸田総理がある程度熱量を持って政治改革への決意を示してくれれば「確かに自民党案は後ろ向きに見えるが総理大臣は本気である」と言える。そこで東京新聞の書き方だと次のような質問になった。
公明党の中川康洋氏は、岸田首相に政治改革への覚悟を問いただした。首相は「信なくば立たず。国民の信頼なくして政治の安定はなく、政治の安定なくして政策の推進もない」と国民の信頼回復に努める考えを示した。
ところが案の定岸田総理の発言は煮え切らないものだった。このままでは創価学会の信者たちに示しがつかない。創価学会の信者たちが動かなければ選挙の動員がうまくゆかない。そんな焦りがあからさまだった。
田崎史郎氏の発言と併せて考えるならば、公明党は政権離脱など考えていない。だがそのためには何らかの「免罪符」が必要になる。それが総理大臣の熱意なのだが、それが全く感じられないのである。
ではなぜ岸田総理の姿勢は煮え切らないものなのだろうか。
議論をざっくり聞いていて「企業献金とパーティー券は必ずしも同じものではないんだな」と感じた。最後に有志の会が企業献金のリストを出していた。このリストを見る限り少なくとも献金をしてくれる企業への分配で政策が歪められていることは明らかだ。例えばガソリン補助金などがその事例である。
「有志の会」の福島伸享(のぶゆき)氏は、自民党に対する企業・団体献金が野党時代より、2012年の与党復帰後に増加したと指摘。「(企業は)与党だから献金している。単なる、政策を金で買う行為じゃないかと思うが、どうか」とただした。
だが厳密に捉えると実は企業の中も海外脱出に成功した企業とそうでない企業がある。海外に脱出した企業はホームランドである日本の医療・福祉の負担が膨張するのを嫌っており消費税中心の税制などを要求する。彼らは自民党には献金するがホームランドの従業員には還元しない。
ところがガソリン補助金を受けているのは国内の企業だ。国際競争から守られていて実際には中小企業の連合体である。生産性が低く国からの支援を期待している。
パーティー券はさらにその下にある。このパーティー券をどのような企業が負担しているのかはわからない。政治評論家たちの説明よれば「企業名が公表されたら彼らはパーティー券を買ってくれない」そうなので世間に顔向けができない支出と考えていることは間違いがなさそうだ。
ではそれはどのように使われているのか。どうやら「仲間の地方議員などを世話するために」かなり使われているようである。世話といっても大したものではない。ちょっとした飲み食いだったり選挙のための応援資金だったりする。
つまり「生産性が低く国の支援が必要な企業」が「食べられなくなった議員たちの面倒を見ている」という構図が完成してしまう。政治は彼らの面倒までは見られないので「それぞれがタニマチを作って勝手に稼いでください」と言う体制になっている。これが森喜朗・清和会体制の実情だったのだろう。
これまで「国民目線」でしか政治を見ていなかったのだが、実は新しい成長戦略を打ち出せないことによって自民党の議員たちも行き詰まっていたということになる。政党助成金をふんだんにもらいながらそれだけでは足りないということだ。
政権が新しい成長戦略を打ち出せなかったために「政治にすがって生きてゆくしかない」人たちが増えており自民党はそれを自分たちで整理できていないということになる。本来ならばハードランディングは避けたいのだから「今の体制を維持しつつ生産性が低くなった(ゾンビ企業などとも言われる)企業を整理すればいいのではないか」と思える。だがおそらく自民党が自力でそれを達成するのは不可能なのだろう。自己分析ができなくなっている。
そう考えると結論は「さっさと総選挙をやって新しい構成で連立を組み直してもらったほうがいい」ということになる。特に公明党は連立政権が組めるのならばどこでもいいという政党なので立憲系の政権の可能性がでてくれば連立を模索するかもしれない。
つまり、現在の状況を打開するためには「現状を破壊する政党が必要」と言うことになる。単に破壊して終わりになる可能性もあるのだからかなり覚悟が必要な作業にはなるだろう。
ちなみに前回同様なことが起きた時の経緯は次の通りだ。
まず自民党が分裂したが明確な勝者が生まれなかった。そこで公明党と社会党が新興政党群と協力することとなったが政権はまとまりに欠いた状態で崩壊した。これが細川・羽田政権だった。このあと自民党はまず社会党を取り込んだ。自民党は比較第一党だったが単独では政権が取れなかったので社会党に首班を譲って村山政権が作られている。だが社会党が崩壊してしまった。そこで連立政権に加えられたのが公明党だった。
さすがの公明党も「昨日まで敵と呼んでいた人たちと組むのは具合が悪い」と考えたようで、いったん小沢一郎氏を挟んで「連立」を作った後で政権に加わることにした。NHKに次のような記述がある。彼らは今も昔も体裁を気にするが、裏を返せばそれだけ支持者への説明が重要だということになる。
「公明党は、それまで反自民でずっと戦ってきていたので、いきなり自公連立政権という訳にはいかず、『まずワンクッションいれてほしい』と要請した。野中さんは、1年かかったが、自由党との連立を実現し、『約束通り、ワンクッション置いたからぜひ連立を』という話を持ってきた」
この時の原因も政治と金の問題とされているが実際の原動力になったのは高度経済成長という政治上のビジネスモデルの崩壊だった。政治はビジネスモデルの問題に手をつけなかったために失われた30年と呼ばれた時代が形作られてゆくことになった。つまり今回もビジネスモデル分析を行わず単に連立のための連立に走るとまた「失われた数十年」の延長ということになってしまう。