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つばさの党代表ら3名が逮捕 公職選挙法とその運用に大きな課題を残す

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つばさの党の代表者ら3名が逮捕された。警視庁は東京都知事選への悪影響を避けるために逮捕に踏み切ったものと思われる。

ざっくり考えると次のような感想になる。

  • 日本の民主主義も他の先進国同様壊れつつある。
  • とはいえおそらく誰も問題を解決しようとは考えないだろう。

日本では民主主義の崩壊と無関心が同時進行しているということがよくわかる。課題は多く残ったがおそらく解決策は提示されないだろう。

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極端な政治勢力によって民主主義が撹乱されている国は多い。背景にあるのは民主主義そのものに対する中流階層の不満だ。その意味では今回のケースはそれほど珍しいものでもなく「ああついに日本もこうなったか」程度の感想しかない。アメリカとオランダではこうした人たちが政治の中枢に進出している。アメリカではトランプ氏が大統領になり議会襲撃一歩手前まで状況が悪化した。オランダではウィルダース氏という極右の大物が選挙で対象し連立交渉に参加している。

朝日新聞が「つばさの党はマスコミや規制政党が報じないおかしいなに答えを与えてくれた」とする支持者の声を紹介している。トランプ支持者と全く同じ感想である。

2022年分の政治資金収支報告書によると、つばさの党の収入は前年からの繰越金を含めて3079万円。5割以上(1730万円)が寄付で、逮捕された黒川容疑者が幹事長を務めていた旧NHK党からが891万円に上った。残りは個人による寄付で、5万円以下の少額寄付がそのうちの4割を占めた。

一方、欧米に比べると特殊と感じる点もある。対策についての議論は一向に進まず「警察にお任せ」になっている。日本では民主主義の崩壊(中流の崩壊と言ってもいいが)と無関心化が同時に進行していて、これが他の先進国との大きな違いになっている。

今回の逮捕劇については実にさまざまな評価がある。

  • 目の前で「悪いこと」をやっている人がいるのだから警察が「適切に判断して」平和な選挙を管理すべきだ。
  • 運用の具体例を提示したり法律を改正して具体例を示すなどして基準を明確にすべきだ。
  • 厳罰化は言論の自由の萎縮を招くのだから、法律を改正したり運用基準を厳格化するのは慎重であるべきだ。
  • 言論の内容が酷すぎた。そんな奴は取り締まるべきだ。
  • いや言論の内容で取り締まるのは良くない。行為に着目すべきだ。

課題としてはまず「取り締まるべき・取り締まるべきでない」という議論があり、取り締まるにしても「事前にルールを作るべき、警察に権限を与えるべき」という議論がある。またその判断内容には「言論と行動がある」という構造になっている。

丁寧に整理すると次のようになる。

  1. 取り締まるべき
    • 事前に明確なルールを作るべき
      • 明確なルールでは表現内容も規定すべき
      • 明確なルールは禁止行動のみを規定すべき
    • 警察に権限を与えるべき
      • 警察は表現にも注意を向けるべき
      • 警察は行動だけに注意を向けるべき
  2. 取り締まるべきでない

もちろん正解はないのだから、論点を整理した上で妥協点を見つけてゆく話し合いが民主主義である。さらに言えば最後の多数決が大切なのではなく話し合いの過程で「何が議論の対象になっているのか」を誰かが見つけなければならない。

従来の機能している民主主義ではマスメディアが声を拾って状況を整理していたのだが、SNSの台頭でモデレーション機能が破壊されつつある。

警視庁はおそらく「江東区だけでも大変だったのにこれを東京都全体でやられたらたまったものではない」と感じただろう。つばさの党は東京都知事選への出馬を仄めかしており今回はあくまでもその前哨戦の位置づけだったのではないかと考えられているからだ。

今回の報道では「乙武陣営への妨害」が逮捕理由とされている。つまり警視庁が逮捕に踏み切る時には具体的な事案を抑えたうえで証拠を集める必要がある。このため警視庁は特別捜査本部まで設置して行動を分析しなければならなくなっている

背景にはおそらく裁判で覆されると札幌の二の舞になるという恐れがあったのだろう。だがこれは同時に司法が民主主義を保護するために抑止効果を働かせた結果ということも言える。この裁判では北海道に賠償命令が出ており最高裁に上告が行われている。

ネットでは「明らかに悪いことをやっているのに乙武陣営の話しかしないのはなぜか?」と騒いでいる人たちがいた。おそらくその他の陣営についてメディアが関心を寄せていないと感じたのだろう。日本人には民主主義が浸透していないため「なんか悪いことをした人がいれば権力が潰してくれるはずしそのためには何でもできるはず」と信じている人がいたことがわかる。

だが仮に警察が「あなたなんか悪いことをしてそうですね、逮捕します」などと言えば選挙どころか民主主義そのものが崩壊するだろう。

そもそも警察は全知全能ではない。江東区全体を監視することすらできないのだから同じようなことを東京都全域でやられたら大変だと考えた可能性がある。これを防ぐためには、膨大な数の捜査員を都内に配置するか日々各陣営が撮りためた証拠を詳細に分析し公職選挙法に当てはめてゆく必要がある。事後報告を毎日処理したほうが簡単そうだが、それでも膨大な作業になるだろう。それこそ「生成AIでなんとか分析を効率化できないのか?」という気になる。

今回のケースでは明確な懸念がいくつか示された。

第一の懸念は「市民が妨害活動に参加した場合」の措置だ。アメリカ合衆国では候補者の集会に反対派の人たちが紛れ込み大声で妨害するケースがある。政治参加意識があまり高くない日本では集会はそれほど盛り上がらないだろう。候補者が大勢の支持者を引き連れて街頭で妨害行動に及んだ場合「これは妨害なのか表現・集会の自由なのか」という問題が出てくる。東京都の場合は渋谷駅前など有名スポットがあり周囲に妨害の人を常駐させておくということもできてしまう。

この問題に付随して「逮捕された人も最高裁判所で判決が確定するまでは推定無罪」という問題がある。つまり起訴されたからといって公民権が停止されるわけでもない。仮に法廷闘争を維持するだけの資金と都知事選挙の供託金さえ捻出できれば起訴された人が都知事選に出馬することはおそらく可能だ。

次に広域化の問題がある。仮にこのような現象が同時多発的に起きた場合に警察はどこまで選挙全体を監視できるかあるいは監視すべきか。警察になんとかしてほしいと願う人は大勢いるだろうが実際にどの程度の予算をかけるべきなのかについては意見が別れるかもしれない。選挙は民主主義のコストでしかないので自ずから使える費用には限界がある。

また、選挙は街頭だけで行われているわけではない。つまりSNSなどで候補者に対して心無いコメントが寄せられた場合それをどう取り締まるのかという問題がある。これも費用対効果の問題になる。

ただし、今回の問題を見る限りそもそも課題抽出すら行われず「例外的な悪い奴が逮捕された」「良かった良かった」で話が終わっている。日本の政治言論は合意形成どころかアジェンダの抽出すらできなくなっていることがよくわかる。

SNSとYouTubeの台頭で「課題を抽出したらその場で結論を出さないと気が済まない」という人たちが増えている。このため難しい問題は「両論を出して両者が論破しあって終わり」ということになってしまう。

また、政治や選挙に関心がない人が増えている。「そんな面倒な問題は誰かが考えてくれればいいのではないか」程度に感じる人もおおいのではないか。また「これは東京とのいう特殊な土地」で起きている問題であって地方には関係がないと考える人もいるかもしれない。

唯一の救いは政治や選挙に対する無関心だ。そもそもそんなに熱心に選挙妨害をする人はそれほど多くないからおそらく極端な例外を排除してしまえば後は穏便に選挙が行われ無関心のうちに新しい代表者がそれなりに選ばれるだろうという見込みがあり「悪い奴が逮捕されて問題は解決した」ということになっている。

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