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物語の破綻 トランプ大統領の2期目には韓国の核武装論が再燃するかもしれない

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東洋経済が「日本人を襲う「トランプ2期目」に起こるヤバい事」という記事を出している。トランプ大統領が在韓米軍を撤退させると韓国で独自核開発議論が起きるだろうという記事だ。そしてこの不測の事態に対してライバルである日本が慌てるだろうという内容になっている。日本人の置かれた心理状況をよく理解しており興味深い。

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アメリカは対中国に関心はあるが北朝鮮にはさほど関心がない。北朝鮮政策は韓国に任せて韓半島撤退を検討するだろう。韓国が核兵器を持つかどうかは韓国の自由裁量となる。容認はしないまでも妨害はしないのではないかと記事は書いている。

韓国が核兵器を持つべきかという議論はこれまでもなかば公然と行われてきた。2023年にBBCが記事にしている。公然と秘密会議が行われているが、実は市民たちも好き勝手に韓国人は独自の核を持つべきだなどと言い合っていた。その光景はなんとなく微笑ましくさえある。

ある日曜日の午後、ソウル市内のサウナにはさまざまなバックグラウンドを持つ若者やお年寄りが集まり、ビールとフライドチキンを手に一週間の疲れを癒やしていた。このような場所で核拡散について議論するのは奇妙に思えるかもしれないが、近ごろではほとんど、世間話の域に達している。

この議論の高まりを受けてバイデン大統領が提案したのが核オプションである。

韓国人はアメリカの「核オプション」を支持している。曖昧な取り決めではあるが尹錫悦大統領は韓国に都合の良い解釈を行い国民はこれを信じている。ところがこれはアメリカ合衆国の韓半島に関するコミットメントが前提になった議論でありトランプ政権で引き揚げ論が検討されればその考え方もまた変わってくることだろう。

この文章は日本人の心理状態をかなり正確に見抜いている。

日本人は強いものに対する依存心を持つ一方でライバルの動向に極めて敏感である。トランプ大統領は経済問題と防衛問題をリンクさせておりおそらく日本の防衛に値札をつけて高く売り込むことになるだろう。また他の国を囲い込むために日本などの協力を求めてくることもなくなる。つまり日本はアメリカに心理的に依存することができなくなる。さらに韓国が核兵器を持つと「なぜ自分達より格下の国が核兵器を持つのに自分達は持てないのだ」と考える人も出てくるはずだ。文中にはこんな記述がある。

しかし、韓国が核武装の道を歩んだ場合、日本はどう対処するのかという質問に対しては、その確信は弱まった。「韓国が核兵器を持てば、日本は必ず核兵器を持つことになる」と、最近韓国訪問から帰国した首相補佐官の1人はこう明かした。

バイデン大統領が提示した核オプションはかなり曖昧なものだった。特に最終決定権については全く明らかになっていない。尹錫悦大統領は「韓国が決定権を持つようになったから事実上の核共有だ」と説明しているがバイデン政権はこれを否定している。単に状況をお知らせしているだけで意思決定には関わらせないという立場である。そしてこの違いは韓国で報道されている。

バイデン政権の「説明」は極めて曖昧なものだったがイスラエルの戦時内閣が暴走を始めたことでさらに曖昧な説明を繰り返すことになった。イスラエルは市民にアメリカが提供した武器を供与している可能性が極めて高いのだがそれを完全に証明できるわけではない。だから、アメリカはこれを大量虐殺(ジェノサイド)とは認めないなど言っている。

日本でも統合参謀本部の設置に向けて法整備が行われている。バイデン大統領が自衛隊を米軍の地域下請けとして使役するためには直接指令ができる経路が必要だ。おそらく岸田総理は全て事後承認になるだろう。これをいちいち国会に報告して許可を得ることはできないのだから(そもそも日本には拒否権がないので国会や国民が反対しても対応できない)全てを内閣の裁量でやりたい。アメリカは「日本がアメリカの貢献に応分の負担をするのでアメリカの国益にかなう」と説明ができるし、日本は「アメリカとの連携が強固になり安全保障が確保された」といえる。有事が起きない限りこれらは全て「仮定に基づくお話」ということになり説明の義務を負わないと日本政府は考えている。

韓国では事実上の核共有について両国に意見の相違があることは報道されている。だが日本のマスコミは政府が提供する物語から逸脱することを本質的に怖がる。

こんな環境下で憲法改正の議論などできるはずもない。そもそも自衛隊がなんのために存在するのかを国民に説明できない。改憲勢力の人たちもそれはよくわかっているはずである。つまり、国家主権を放棄しアメリカに委ねている時点で国民が声を上げられるように国会にチェック体制を持たせるなど最初から無理な話なのだ。

道徳的には「バイデン政権の政策は欺瞞に満ちている」という気持ちになるのだがそれよりも重要なのはアメリカがこれまで提供してきた平和と高い理想の守護者であるという物語を提供できなくなっているという点だろう。

これは自民党の統治にも関わる。自民党は国家開発型の次のビジネスモデルを提示できていないという問題点もあるが「国家統治の物語」の提供もかなり危うくなりつつある。そしてマスコミは政権の物語に依存している。

つまり大元で物語の供給が止まると日本のマスコミに至るまで全て物語が崩壊する可能性がある。そのあとおそらく人々は「事態を注視する」としか言わなくなろだろう。

さらに、トランプ氏に至ってはそもそもこの物語を共有していない。NATOはトランプ氏の台頭に対して具体的な検討を始めているが、日本の政権はこの物語の破綻になんら具体的な対応をしていない。「注視はするが何もしない」岸田政権ではこの新しい状況変化には対応できないだろう。

さらに問題なのはアメリカ依存のリスクに対応するための主権の維持・回復というオプションが提示されないという点にある。

本来ならば立憲民主党が掲げる立憲主義は国家主権を議会に取り戻し内閣の恣意的な国家運営を認めないという立場であるべきだ。だが、そもそも日本人が「国家主権」により自己決定を求めているのか?と問われると「いや、今のままでいいのではないか」と考える人の方が多いのではないか。おそらく今の立憲民主党は自分達が掲げた立憲主義を理解しておらず、なおかつ理解したとしてもそれを支えるだけの国民基盤がないということになる。

皮肉なことに「日本人が真の立憲主義に目覚める」のは物語が破綻した時でありそれはトランプ大統領が就任するか、あるいはバイデン大統領が勝ちなおかつトランプ氏とその支持者がそれを断固として認めない時ということになる。

アメリカ合衆国では国家予算が半年も決まらないという事態が起きているため、次の大統領がすんなり決まらないとしてもそれはそれほど想定外のこととは言えない。トランプ氏は「全ての選挙結果が正直であれば結果を受け入れる」が「正直であれば自分が負けるはずはない」と言っている。そもそも2020年の結果についても受け入れていないのだから「なんらかの混乱」は生じるものと考えた方が良い。ワシントンポストは2020年の再来?と書いている。

本来ならば「護憲派」の人たちに読んでほしい議論ではあるのだが、おそらく彼らはここに書かれているようなことは全く理解できないだろう。さらに言えば自称保守という人たちもそれぞれの物語に引きこもり目の前の変化に対して見てみぬふりをするはずだ。

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