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不公正な中国に鉄槌 バイデン政権が新しい対中国関税を発表

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中国の不公正な過剰生産に対応するためにバイデン政権が新しい関税政策を発表した。国家安全保障に関わる分野の製品(電気自動車や太陽光パネルなど)に高い関税をかける。このニュースの消費の仕方はいくつかある。第一に中国のようなずるい国が経済で成長するはずはないという安心感を得るのに使える。もう少し進んだ人はアメリカという国や民主主義が持っている本来的な危うさを感じることができる。さらに進んで岸田政権がなぜ国家安全保障にこだわるようになったのかが理解でき、日本の国内で何が起きているのかを理解することができるようになるだろう。意外と国内政局にも影響を与えているのだ。

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中国はバブルを作り出しそれを破綻させることを「資本主義」と考えている。不動産バブルが崩壊の穴埋めをするために導入した新しい考え方が「新質生産力」だ。国家が重点的に推進したい分野に補助金を出し生産力を向上させるという触れ込みだが実際には政府の資金を使ったダンピングで経済規模を膨らませようとしているに過ぎない。経済が好調な先進国にフリーライド(タダノリ)しようとしているとみなすことができるだろう。

これはずるい。

背景にあるのは資本主義に対する理解力不足である。不動産バブルに明らかなように国内市場の整備に失敗し「リブート」を余儀なくされている。さらに新興国経済でも不良債権の山を築いている。後始末はパリクラブやIMFなどに丸投げする傾向にある。となると経済成長を目指すためには先進国経済にフリーライドする必要が出てくる。

まだ通貨政策も矛盾に満ちている。製造業による経済の立て直しのためには通貨の切り下げを行いたいが、新しい基軸通貨国の地位も狙っている。通貨価値が極端に下がると投資家は寄り付かなくなる。

ただこの分析はここでは終わらない。

アメリカの一部メディアは今回の関税強化を大統領選挙と関連付けて報じている。アメリカでは中間所得層から富裕層への富の転移が進行し、中間所得層は自分達は転落してしまうのではないかと恐れている。

アメリカ政治はこの不安の矛先をどこか別の国に向ける必要がある。それが中国だった。ABCは今回の関税の発表を大統領選挙と結びつけて報じている。接戦州と呼ばれる地域ではトランプ氏とバイデン氏の票が拮抗している。トランプ氏が中国への高関税を訴えたため、バイデン氏もそれに対応せざるを得なくなったというような説明になっている。

ただしアメリカの政治には独特の傾向がある。権力者による恣意的な判断を嫌い法的な「体裁」が整っていると説明したがる傾向がある。

実際には接戦州に住んでいる製造業従事者の気持ちを引き止めるための政策だが報復関税という理屈は使いたくない。そこでイエレン財務長官を中国に派遣し「中国は過剰生産を止めるべきだ」と主張した。そしてUSTRを使って「アメリカが親切に指摘してあげたにも関わらず不公正な慣行がなくならない」として高い関税をかけることにしたのだ。

このようなポピュリズムを背景にした手続き先行民主主義はなぜ生まれたのか。

中流層からの落ちこぼれ不安を持った人々が選挙に関心を向けるようになった。個人献金が活発に行われるようになりトランプ政権の誕生に貢献している。このカウンターとして中間層に働きかけを強めたのがバイデン大統領だった。SNSの台頭で共和党がポピュリズム化しそれに呼応する形で民主党もポピュリズム化したと言えるだろう。

日々Xで政治議論を読んでいる人は既に感じているだろうがSNSの声にはまとまりがない。例えばイスラエルの支援に関しては「パレスチナ人に対する大量虐殺に加担しているのではないか」という疑念が消えない。合衆国は「大量虐殺は行われていない」と認定し支援を続ける考えだが当然これに納得できないという人たちがいる。今後民主党党大会で彼らがどういう行動に出るのかが懸念されている。中には1968年以来の大惨事を予想する人もいる。

つまり「政府の説明」は既に破綻している。

今回の関税についてABCはユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏のコメントを紹介している。環境派(親気象という言葉が使われている)の大統領であるという当初の触れ込みと矛盾すると言っている。当然中国はアメリカの製品に対抗した関税をかけるだろう。自由貿易という観点から関税の強化に反対する人も出てくるだろう。公正で自由な貿易と言いつつその実態は「ただしアメリカの国益に敵う限りは」ということになる。

“The interesting political point here is that Biden is meant to be the pro-climate president,” Bremmer said. “But we don’t support reducing emissions when it comes at the expense of American labor. And we don’t care if that means it’s less competitive and the Americans are going to have access to more expensive, low quality electric vehicles. That’s the message that they’re sending.”

中間層の不安とSNSの発達に起因するポピュリズム政治はまとまりを欠いており民主主義の根幹である「合意形成」に暗い影を落とす。

第三の観点は日本への影響である。日本でも国家安全保障に関する話題を聞くことが増えている。日本の場合はこの中に防衛産業が入っており公明党はこれを快く思っていない。一方で原発を推進したい電力総連を支持母体にしている国民民主党が絡む。自民党の中にも中国に近づいて太陽光発電を推進したい河野太郎氏のような人もおり非常に複雑な構成になっている。

自民党・公明党政権が推進する法律は内閣の恣意的な運用を許すものになっているがこれは日本の政局だけを見つめていても答えが出てこない。

アメリカの政策は国家安全保障という名目で特定の国に対して経済的挑発を行うための枠組みである。いわゆる国家主導の経済戦争と言ってもいいだろう。日本はアメリカの従属国としてこの決定に乗る必要があるがアメリカの決定は恣意的に行われるのだから国内整備にいつまでも時間をかけてはいられない。

つまり現在の政権の判断は「日本の国益を守るためには国家主権を放棄すべきだ」というものである。いわゆる日本の属国化だ。

だが日本の属国化と聞いても「今の社会保障とそこそこの豊かさが守られるならば何も国家主権にこだわる必要はないのではないか?」と考える人も多いのではないかと思う。つまり日本人の中には「主権で飯が食えるわけではない」と考える人も多い。

考えてみると立憲主義というのはかなり大きな挑戦である。つまり今の属国政策を放棄し自主独立を選んだほうが結果的に国民が豊かになれる(これが経済的な意味なのか精神的な意味なのかにも議論があるだろう)ということ証明しなければならない。さらにここに「平和主義」が乗るとさらに議論は複雑になる。現在の立憲民主党に論点整理ができるとは思えない。「まだ本気を出していないだけ」なのかもしれないしそもそもそんなつもりもないのかもしれない。

仮にアメリカ合衆国が今のやり方で防衛と経済を結びつけてくれるのならば(属国化というあまり直視したい現実はありつつも)まあなんとかこの属国化政策は成立する。しかしこれには副作用がある。おそらく日本では政党や政党連合が作れなくなるだろう。

さらにここにワイルドカードがある。トランプ氏はこのアメリカの新しい戦略を全く理解していない。バイデン氏が勝った後アメリカ合衆国ですんなりと政権交代が起きるのかはわからないし、トランプ氏の2期目は安全保障上の懸念がある。

つまり日本が属国政策を推進したとしてもトランプというワイルドカードで全て覆ってしまう可能性があり、トランプ氏がいなくなった後もその危険性は残り続ける。

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