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東西冷戦の一部熱戦化 ショイグ氏が更迭され戦争はまだまだ続く

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ショイグ国防大臣が更迭された。形式的には安全保障会議の重要メンバーとなったが「閑職」と見做されているようだ。この人事は日本では政局として扱われたがロイターとBBCは戦争の効率化を図ったものと見ているようだ。その狙いはおそらくウクライナ戦争の恒常化である。つまりこの状態がしばらく続くという予想になる。

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ロイター通信はこの交代劇を「戦費の効率的な利用促進を狙ったものだろう」と分析している。ロシアの軍事支出はソ連時代と同じような構造になっている。つまり今後は同じような支出が続くことになる。このためできるだけ戦費利用を効率化するためにアンドレイ・ベロウソフ氏が登用されたというストーリー展開だ。

ソ連は東西冷戦に支えられた国だった。だがこの時の戦争はあくまでも冷たい戦争(つまり永遠の緊張)に過ぎなかった。ところが今回の戦争は冷たい戦争ではなく実際に火薬が投入される「本物の戦争」だ。本物戦争であってもそれは局地的なものでアメリカが直接参戦する危険性はない。

ロシアはこの緊張構造を永続化させる準備を着々と整えていることになる。領土獲得が目的ではなく「戦争という構造を永続化させることが目的」ということになるだろう。戦争に勝つことがゴールではなく続けることに意味があるのだから、おそらくそう簡単には終わらないだろうという予測が立てられる。

BBCによればショイグ氏はもともと土木の専門家であり災害復旧の担当者として力を発揮してきた。つまり戦争の永続化を望むならばいつまでもショイグ氏にこの仕事をさせるわけにはいかない。安全保障会議は形式上はロシアを指導する役割を持っているが実際の決定権はプーチン氏個人にある。用済みの人を権力構造内に取り込んでおくことができる便利な装置であるということになる。

と同時にプリゴジン氏のような存在を防ぐこともできる。自分に敵対しそうな人はできるだけ内部に閉じ込めておかなければならない。安全保障会議はそのための便利な仕組みなのだ。

ロシアという国のわかりにくさがここにある。ロシアが戦争を始めた動機はかなり「狂った」ものだ。ロシアは複数の敵に囲まれており彼らはロシアを滅ぼそうとしている。そのために彼らが利用しているのが「本来ありもしないウクライナである」という歴史認識だ。アンドレイ・ベロウソフ新国防長官もこの認識を共有している。

この認識が「狂っている」のだから当然その遂行能力も狂気に満ちたものにならなければならない。だがそうはならないのがロシアの難しさである。遂行能力に関してはかなり合理的な計算が働いている。

なお、ロイターとBBCを読むとロシアの狙いはかなりスムーズに理解できるのだが、時事通信を読むと途端にわからなくなる。時事通信はこれを政局と捉えており人間関係の記述に終始している。

プーチン大統領が何を狙っているのかにはほとんど関心を持っておらず、日本人が本来的に人間関係と事情に夢中になり「ゴール」を見失いがちということがわかる。唯一時事通信が「正確」に伝えているのはショイグ氏の行き先である。安全保障会議は「上がり」の人が置かれる人材のゴミ捨て場のような存在であると言っている。

安保会議は、プーチン政権の最高意思決定機関。しかし、パトルシェフ氏が影響力を誇ったのは、要の書記だからではなく、連邦保安局(FSB)出身者であることが理由とされる。国民に不人気で20年に首相の座をミシュスチン氏に譲ったメドベージェフ氏は安保会議に副議長として転出。安保会議は「行き場のない要人のたまり場になった」(政治学者)という見方もある。

ちなみにここに出てくるパトルシェフ氏が今回退任する代わりに息子が内閣入りすることが決まっている。何もなく外に出してしまうのは危険だが息子を取り込んでおけば反乱は起こしにくくなる。こうした温情・縁故人事は日本でもよく行われており朝日新聞にも馴染みが深かったのだろう。

結果的にロイターやBBCを読むと「プーチン大統領は戦時体制を固めようとしている」というゴールの意識がわかるが、日本のメディアを読むと政局や人間関係に目が向かいロシアがどこに向かっているのかがさっぱりわからなくなる。

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