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なぜ公明党は政治資金規正法の議論で揺れるのか 背景にある維新の影

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政治資金規正法の議論が難航している。自民党は全面公開には後ろ向きなので公明党の石井幹事長は「いつまでも自民党の抵抗につきあってはいられない」と苛立ちを募らせる。ところが山口那津男代表は「与党協議も重要である」といささかマイルドな姿勢である。

「自民党と一緒だと思われたくない」という感情があるが、自民党にあまり厳しくしすぎると維新の介入を招いてしまう恐れがある。連立与党パートナーというおいしい椅子も維持したい。

どうしてこんなことになったのかを考えてみた。背景にあるのは「誰も抜きたくない石に刺さった剣」のような何かなのだが、誰もそれが何なのかはわからない。それを語る人は誰もいないからだ。

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公明党の石井幹事長が苛立っている。時事通信は次のように伝えている。

 「いつまでも与党で協議しても進まない。与野党協議に進む段階に来ている」。公明の石井啓一幹事長は10日の記者会見でこう強調。与党案の共同提出を目指すのか問われ、「予断を持って答えることはできない」と言葉を濁した。

山口那津男代表も与野党協議に移りたいようだがトーンが若干違っている。与党協議も続けたい意向だ。

大筋合意した与党案には、パーティー券購入者名の公開基準額の引き下げ幅や、政策活動費の使途公開に関する主張の隔たりがあると言及。「直ちに法案にできない部分がある」と明言し、与党協議を続ける場合でも、より重視する与野党協議と並行させればいいとの認識を強調した。

どうしてこんなことになるのか。実は最初の時事通信の記事に答えがある。原理・原則にこだわる公明党を見限って維新を与党協議の枠組みに加えたいという気持ちを持っている人がいるようだ。

自民は今後の与野党協議をにらみ、日本維新の会が重視する調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開も検討。自民国対筋は「維新への対応は他の野党とはおのずと異なる」と明言。「自公維」の枠組みで協議が進むことを期待する。

考えてみると非常に不思議な構造である。なぜこんなことになったのか。

自民党はおそらく無党派層の支持を獲得することを諦めている。彼らは企業に積極的に利益誘導をして政権を維持したい。そのためには企業からの献金をより多く集めたいのだろう。企業の側は海外からの収益が順調にある。ここから「応分の負担を求められては困る」という気持ちがあり相思相愛だ。

自民党が持っていたビジネスモデルが崩れつつあるという点も見逃せない。

自民党のビジネスモデルとは何か。まず自民党は企業を優遇する。企業は海外で儲けてその儲けを国内に転移させる。儲けは一旦税金という形で政権政党が分配できる。これを地方に分配することで地方の建築業者などが潤い地方議員たちを満足させることができるというトリクルダウンだが、一般には分配政策などと言われる。

ところがこのトリクルダウンは2つの意味で破綻しつつある。第一に企業が海外資産を国内に転移させない。世界経済は成長しているが日本の経済は成長していないため国内投資が正当化できない。次に建設・建築分野は少子高齢化のために担い手が不足している。つまり予算だけを分配してもプロジェクトが作れない。

どちらも自民党・公明党政治の失敗だ。だが彼らはそれを直視しようとしない。

このため自民党の政治家たちは宗教政党である公明党にますます集票を依存するようになった。しかしその間にも自民党を支えていた「トリクルダウン」構造は破壊され続けついには低成長(いわゆるデフレ状態)からコストプッシュ型のインフレに移行している。

この結果として「新しい支持母体」が必要となる。例えば改憲勢力などがその候補になるのだが、改憲勢力の中には国家神道系(つまり日本会議のことだ)などもいて公明党とは折り合わない。そこで維新を仲間に引き入れることで相対的に公明党の持っている影響力を下げたいと考える人たちが出てきた。維新は関西圏で無党派層に一定の影響力を持つ。

維新にとってこれは「おいしい話」なのだろうか。維新はもともとこの「トリクルダウン構造」から排除された人たちの期待を集めて成長した政党だ。

だがどういうわけか彼らはまとまった成長戦略を持たない。その政策はむしろ昔の成功事例の寄せ集めなので大阪・関西万博のような開発型プロジェクトを取り入れてしまう。維新はもともとの設立動機が極めてあやふやな政党であり、従ってそのままでゆくと高度経済成長型の既成政党に取り込まれてしまうことが予想される。実際に東京(中央)へのルサンチマンがあった近畿圏では躍進したが全国展開ができていない。だから自民党の配下に入って恩恵を分配する側に回りたいと考えているのだろう。

この構想は3つの意味ですでに破綻している。第一に近畿圏の支援者たちに提供してきた物語と矛盾する。第二にそもそも自民党の分配という物語が破綻しかけているので結びついたとしても彼らに恩恵はない。最後に彼らは公明党のような岩盤支持層(信者)を持たない。

全体を見渡すと非常に不思議なストーリーが展開している。日本政府は政策を通じて日本の形を変えることができるはずだ。だが自民党も公明党も維新もなぜか政策を通じて中間層の国民に次の物語(例えば次の成長を目指すとか成長を諦めて低成長でも心の豊かさを目指すとかいくらでも物語を考えることができるはずである)を提示しようとしない。まるで誰かに禁止されているように何も変えようとしないのだ。

日本の一般国民は政治(統治)の変化につながるような話題を語りたがらない。自分達は政治(統治)について語る資格はないと無意識のうちに考えているようだ。だが実はその怯えは政権与党である自民党、公明党、維新にも言えることなのだ。このブログでは「中空構造の呪い」と言っているのだが「空洞を崩して秩序を崩壊させるようなことは決してやってはいけない」ことになっている。

しかし「では誰がそれを禁止しているのか?」と考えてみても全く答えは浮かんでこない。とにかく誰もそこには触れようとしないしなぜ触れられないのかを考えることもない。

自民党が政策活動費の公開や企業献金の禁止に後ろ向きな理由は破綻しつつある昭和の物語にしがみつこうとしているからであるという点までは明確だ。今や昭和型のトリクルダウンという物語は破綻しつつある。ではなぜ誰もそれを越えられないのかについては明確な答えがない。

あるいは石から剣を抜いたものが王の資格を持つと言われた「アーサー王の剣」のように、「それ」は誰かに抜かれる日を待っているのかも知れない。

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