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度重なる箝口令違反でトランプ前大統領の収監が秒読み

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トランプ氏の裁判が続いている。度重なる箝口令違反についに裁判所からは「次に箝口令に違反したら収監する」と申し渡された。ところがトランプ氏の反応がおかしい。判事が何を言っているのか理解できていないようなのだ。いずれにせよトランプ氏が収監されれば「ディープステートの陰謀だ」と騒ぎ立てる人が出てくることが予想される。裁判を円滑に進めるために裁判所は難しい判断を迫られている。

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トランプ氏の「口止め料裁判」が続いている。選挙費用を一部口止め料に充てたという容疑だが政治費用の透明化が求められるアメリカではこれは重罪に当たる。劇場化する裁判の様子は連日テレビ報道されている。

トランプ氏はこの裁判に反発し連日陪審員候補や証言者に関する悪口をSNSで発信し続けている。このままでは裁判関係者の身の安全が守れないため裁判所は罰金を課した。そして今度箝口令に違反すれば収監もあり得ますよと申し渡している。

CNNに次のような記述がある。

この中でトランプ氏は「周知の通り、(判事は)裁判を異常なほど急いでいる。こんな進め方は前代未聞だ。陪審員の選定はあっという間に行われ、95%が民主党員だ。裁判地一帯はほぼ全員が民主党員だ。まさに純然たる民主党地域と考えていい。極めて不公平な状況だと言える」と指摘していた。

普通に考えると、そもそも箝口令を破った段階でなんらかの悪意があったはずである。だから「罰金や収監」などと罰を仄めかせば自ずと行動が自制されるはずだ。つまり罰には抑止効果がある。

ところがトランプ氏の言動はどこかがおかしい。記者たちには箝口令が出ているから裁判については話せないと説明する一方でSNSでは事実に基づかない情報発信を続けている。おそらく箝口令の内容を全く理解していない。

陪審員のほぼ全員が民主党員という主張もおそらくは虚偽だが(スクリーニングはかなり慎重に行われており政治的に中立でない人たちや自信が持てないと自己申告した人たちは排除されている)トランプ氏は「事実」には特に大した重みを感じていない。

よくもこんな人物が大統領になれたものだと思う人もいるかもしれない。だが、実際にはだからトランプ氏は大統領になれたと考えた方がいいのではないかと思う。これは政治ではなくエンタティンメントの一部だからである。エンターティンメントは人々の欲望や感情を形にしたものだ。

トランプ氏は裕福な家庭に生まれ「ビジネスのためには何をやってもいい」と教育されて育っている。父親の後継者になった兄はこの「何をやってもいい」に耐えられずアルコール依存で亡くなったがトランプ氏は適応して生き延びた。このためトランプ氏は酒とタバコは絶対にやらないそうだ。

ヒトには欲望があるがその欲望には「これをやると大変なことになるかもしれない」というブレーキがついている。ブレーキなしに円滑な社会生活は営めない。そしてそのブレーキは子供の時に作られる。だがおそらくトランプ氏には酒とタバコについての深い恐怖心はあっても自我のブレーキがない。

だからこそトランプ氏はテレビスターになることができた。

トランプ氏はまともなビジネスでは成功しなかったがテレビのリアリティーショーのスターとして脚光を浴びた。テレビは人々の理想を極端に歪めて増幅し映し出す映像装置だ。そしてその延長線で「なんでもできるのだから大統領になれるはずだ」と考えた。本来は泡沫候補だったそうだが共和党の候補を打ち負かし、ついには民主党の対抗馬(ヒラリー・クリントン氏)を打ち倒して大統領になってしまった。

政治学的に見れば彼の言っていることには全く一貫性はないのだが、演劇学的に見れば極めて一貫したメッセージを発信し続けている。アメリカは制約なしになんでもできる自由の国であり障壁は排除されるべきというメッセージだ。アメリカの国益を追求するためならば何をやってもいいしその障害になるものがあればそれは全て打ち破ってゆかなければならないという理念の暴走である。

そもそも「自我の蓋」を持たないトランプ氏が箝口令を理解できるはずはない。問題なのは多くの支持者の共鳴だ。彼らは自由を追求したいがその欲望が何者か(しばしばディープ・ステート(闇の政府)などと呼ばれる)に妨害され盗まれていると感じている。

それでもアメリカの民主主義はかなり良くできている。第一にアメリカ人の持っている「自分達は特別な選ばれた存在である」という強烈な自意識が「正しい候補」を選択した。次にこんな人であっても民主主義の秩序が崩壊することはなかった。優秀な高官や軍人たちがなんとか彼を4年間押しとどめてきたからだ。

だが、それも最後の瞬間に崩壊しかけた。トランプ氏とその支持者にとって「負ける」ということは世界の終わりを意味する。この恐怖を払拭するために自我は世界の崩壊を望むことがある。

選挙は盗まれたと主張していたトランプ氏に呼応するように議会襲撃が起きるとトランプ氏はその騒ぎから逃げようとした。この時に事態掌握に動いたのはペンス副大統領だとされているが大統領はまだトランプ氏のままであり機能不全が宣言されたわけでもなかったため、これは越権行為と見られている。トランプ氏が機能不全に陥ったという「事実」はあってはならないものとされ隠蔽も図られたようだ。CNNに次のような記述がある。最後の最後まで軍人と側近たちは「既に崩壊していたショーが成立している」かのようなお芝居を続けていた。

それによるとメドウズ氏は、「副大統領がすべてを決定したという内容は打ち消さなくてはならない」「大統領がまだその任にあり、事態は落ち着いているといった内容を成立させる必要がある」などと語っていたという。

結果的にマーク・ミリー統合参謀本部議長はトランプ氏の件を表に出すことなく暴徒を非難し最高司令官はすぐにバイデン氏に移ると宣言するのが精一杯だった。なんとか4年間破滅的な決定からトランプ氏を遠ざ蹴ることに成功していた軍人たちも「トランプ氏の敗北」という自我の危機には対応できなかった。

この例を参考にするならば、トランプ氏になんらかの敗北が訪れた時点でまた同じような騒ぎが起きる可能性がある。それは裁判所の収監命令かもしれないし大統領選挙なのかもしれない。

人間の想像力には限りがあるが、それでも民主主義の制度設計を行う人たちは「民意の暴走」に備えなければならない。

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