イギリス(イングランド地方のみ)で地方選挙が行われ、与党保守党が大きく議席を減らした。野党は総選挙を求めている。スナク政権は1月まで選挙を引き伸ばすことができるがこれといった政権浮揚の材料を見つけることができていないため時間稼ぎにはさほど意味がなさそうだ。
背景にあるのは保守党の賞味期限切れである。この状況は日本の自民党政権が置かれた状況に非常によく似ている。
イギリスのイングランド地方で地方選挙が行われたが、開票が進むにつれて保守党が議席を大きく減らしていることがわかった。今回の保守党の惨敗は過去40年で最悪のレベルと言われている。この地方選挙が直ちに国政に影響を与えることはないが、スナク首相は来年1月までに総選挙を実施する必要があるため保守党は政権を失う可能性が高いと見られている。スターマー党首は直ちに総選挙を行うように求めている。ただし保守党内部にスナクおろしの機運はない。
一方で労働労にとっての明確な勝利にもならなかった。保守の失速により右派ポピュリストリフォームUKなどの政党に票が流れているほか新興政党の自由民主党や緑の党も票を伸ばしている。これも自民党の不調が必ずしも立憲民主党の一人勝ちにならない日本とよく似ている。
BBCの英語版は今回の地方選挙からの情報を7つにまとめている。
- ブラックプール補選でも勝利し議会選挙で労働党は躍進した。
- 市長選挙でも労働党は良い成績を収めた。
- ただし、イスラム系の支持者たちはガザへの労働党の姿勢を評価せず支持率が下がっている。
- 保守党は低迷している。自由民主党が獲得した議席よりも少ない議席しか取れなかった。
- 緑の党と自由民主党が躍進した。緑の党はイスラム教徒から支持を受けたようだ。
- リフォームUKに保守党の票の1/3が流れた。
- ボリス・ジョンソン氏が写真付きIDの持参を忘れ一時投票場に入るのを断られた。写真付きIDの運用には多少の障害があり改善の必要がありそうだ。
イギリスの保守党に何が起きているのだろうか。リシ・スナク首相が極めて無能な首相だったのかと問われれば必ずしもそういうわけではなさそうだ。イギリスでは何らかの理由で高いインフレが続いている。2023年夏の段階で「失われた経済成長」が今後5年続くとされている。
経済は成長しているが賃金が追いついていない。このため低所得者ほど生活が苦しくなっている。しかし、失業率はかつてほどひどいものではない。やはりイギリスでも低成長ではなく供給制約が問題になっている。世界情勢の不安定化に加えEU離脱も物流に大きな影響を当てた。この供給制約が物価に非常に悪い影響を与えたものとみられる。
おそらく先進国を取り巻く経済環境が大きく変わっているが、どの政党も新しい経済に対応した社会モデルを提示できていない。インフレが始まっているにもかかわらず「デフレ脱却をいつ出そうか」という議論が行われる日本とよく似ている。足元の情勢変化に対応できていないのだ。
ボリス・ジョンソン首相という憎めないキャラクターのもとでのらりくらりと批判を避け続けていた点もアベノミクスという明確な愚策を政治リテラシーが低い人たちが支えた自民党に似ている。リシ・スナク首相は金融界出身のエリートであるため庶民の暮らしがわからないなどと言われており人気がない。これも岸田総理の評価にそっくりだ。
スナク首相が新しいビジョンを提示できないため保守党の内部はかなりギクシャクしている。だが、保守党の中からは新しいリーダーが出てこない。さらに、政府が発表した新年度予算案も支持率に何ら影響を与えなかった。この記事に書かれていることはそのまま今の日本の自由民主党にも当てはまる。
予算がさほど政権浮揚に役立たなかったこともあり、スナク政権は移民問題を解決することによって支持率を上げようとした。その結果ルワンダにお金を払って不法移民を受け入れてもらうことにした。一度は最高裁判所に却下された法案だったが「ルワンダは安全な国です」と法律に書き加えて法案を成立させた。
おそらく多くの国民は経済的な打開策を提示できない政府を批判するために不法移民問題を持ち出しているだけなのだろう。だからこの問題が解決したところで保守党を支持することはない。
結局、地方選での結果は保守党惨敗という結果に終わった。おそらくスナク首相に残された選択肢はどのように潔く負けるかだろう。保守党は既にトラス首相の元で大混乱を経験している。仮に総選挙前に新しい党首選びなどを始めてしまうと今度こそ党が解体しかねないほどの大惨事になるのではないかと思う。
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