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急激な円安に対して政治サイドからのコメントなし 神田財務官は多幸感

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政策会合後の植田総裁の発言がきっかけとなり急激な円安が進んだ。もともと150円付近が介入ラインと言われていたが155円線での介入もなくついには160円線を超えてしまった。ここで介入が行われ154円まで戻したのだがすぐに円安基調に戻ってしまう。現在は数回に分けて介入が行われている模様だ。

ふとここで「政府や議員は何もいわないのだ」と考えて怖くなった。政府が無策であることに人々が慣れてしまい財務省・日銀のオペレーションに期待を寄せている。実は日本人が終末期に陥る現象なのである。神田財務官はマスコミに追いかけら多幸感に満ちた笑みを浮かんでいた。脳内で何か盛んに分泌されているのだろう。

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ロイターは160円上昇の原因として「ストップロス」を挙げている。FXなどでよく使われる用語だそうだが損を覚悟でポジションを崩すことを意味しているという。155円で介入がなかったことでもうこれ以上介入を待っても仕方がなかったという人が多かったことになる。それだけ介入が期待されていたということの裏返しだ。

市場は一旦は「政府・日銀は円安容認なのだ」と判断した。これによって円安に歯止めがかからなくなりついには「まさか160円までは行かないだろう」というところまで到達してしまった。

しかし、自民党が衆議院補欠選挙で全敗したこともありこのまま円安を放置すると有権者がどう動くのかわからないということになったのだろう。ついに160円越えで介入が行われた。神田財務官はコメントを出していない。だが介入効果は長続きせず徹夜での攻防戦に突入しているものとみられる。

野村総合研究所は今回の動きについてこう分析している。つまり介入は「ポーズ」に終わり効果はないだろうというわけだ。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは29日付のリポートで、「覆面で為替介入が行われた可能性は比較的高い」と指摘。28日の衆院補選で自民党が全敗し、政府は「円安対応を行ったとの証拠づくりを国民向けに行い、支持の回復を狙う必要が出てきた可能性もある」との見方を示した。ただ、介入効果は時間稼ぎでしかなく、早晩160円を超える円安に戻るとしている。 

円安を止めるためには利上げが欠かせないが元IMFのチーフエコノミストはこのように分析している。

国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務めたオリビエ・ブランシャール氏は29日、日銀が利上げを実施すれば日本は「かなり深刻な」景気後退に直面するとの見方を示した。

長年のアベノミクスにより「国民が努力しなくても日銀・財務省がなんとかしてくれる」という甘えが染み付いてしまっている。このため植田総裁が利上げを決めてしまうと日本経済は大惨事に陥るだろうということだ。

政治は何もしていないし、おそらく岸田総理はもう何もするつもりがない。共同通信の調査では賃上げは7割の中小・零細企業に波及していないことがわかっている。それでも岸田総理も連合も「あらゆる政策を総動員して賃上げを成し遂げる」と言い続けている。

帝国データバンクが今月実施した2024年度の賃上げ実績アンケートで、約7割の企業では今春闘の焦点となっている「5%」の賃上げ率に届かなかったことが29日分かった。満額回答も相次いだ大企業と対照的に、人件費などの価格転嫁が難しい小規模企業で伸び悩みが目立つ。企業規模によって処遇改善の流れから取り残される賃上げ格差の構図が鮮明になってきている。

このまま円安が進むと賃上げの恩恵を受けることができていない人たちが更なる物価上昇に苦しめられることになるのだろうが政府も自民党も全く対策を検討していない。田崎史郎氏の発言を総合すると総理周辺は「6月に減税が行われれば支持が戻るのではないかと期待している」そうだ。

さらにマスコミも「岸田さんの次は誰か」「いつごろ交代になるのか」に期待を寄せはするものの「今の政府が現在の状況について何を考えているのか」を気にしている様子は見せない。政府は経済問題について当事者意識を持たず国民もその状態をほぼ所与のものとして受け入れている。さらにマスコミも目の前の政局を追いかけるばかりで課題を抽出しようという気持ちを全く持っていない。

かなり異常な状態が、異常だと認識されないままに進行している。

この文脈で神田財務官の表情をを見てみよう。おそらく彼は今徹夜で勝つ見込みがない為替介入オペレーションを行っている。だが、その表情にはなぜか多幸感すら浮かんでいる。明らかに脳内で何かが分泌されているような状態だ。マスコミに注目されてなんだかうれしいのかもしれないし、手元にある外貨を放出して大博打が打てることを喜んでいるのかもしれない。

Xには「おそらく7月に交代」という話も出ている。これが確かなら彼個人はあと数ヶ月でこの状態からは卒業できる。彼にとっては一世一代の晴れ舞台だ。

この状態は第二次世界大戦の突入前夜に似ている。

最後の元勲西園寺公望が亡くなった結果議会調整をする人がいなくなった。議会が有効な経済対策が打ち出せなくなると国民は軍隊の突破力に期待することになる。国民人気に押された議会は翼賛体制に移行して軍隊を支えた。話し合いに期待せず実行部隊に過剰な期待を寄せた結果として日本がどうなったか。歴史の教科書で学ばなかった人はいないはずである。

次のイベントはFOMCになる。現地時間5月1日(日本では翌日の5月2日)に結果が出る。ここで利下げに消極的という結果が出ればまた円安が進むかもしれない。

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