長崎3区・島根1区・東京15区で補欠選挙が行われた。投票が終わった午後8時に開票結果が出ることをゼロ打ちというそうだが、3選挙区ともにゼロ打ちとなり立憲民主党の勝利ということになっている。おそらく立憲民主党はこれを全面に打ち出して早期解散総選挙を迫るのだろう。マーケティング戦略としては間違っていないと思う。が、得票数を見るとおそらく彼らは実は勝てていないいうことを知っているはずである。さらに言えば、彼らは政権交代をしようとも思っていないのではないかと思う。それが代表の選び方によく現れていると感じた。
今回、酒井菜摘氏の得票数は49,476票だった。だが実は前回の井戸正枝さんは58,978票獲得して負けている。つまり普通に選挙が行われていれば立憲民主党は負けていた。この選挙区では前回は柿沢未途氏が勝っているが前々回(希望の党から出馬)と票数があまり変わっていない。
これはどういうことか。実は「とりあえず自民党の候補だから入れておこう」という人が多いということである。そして彼らは今回投票に行かない人たちも多かった。時事通信が出口調査を行なっており、自民党の支持者は維新・諸派(飯山さん)、乙武さん(事実上のファースト・国民)に分かれたと書いている。また公明党の支持者の4割は乙武さんを支援したそうだ。
今回はいつも自民党に入れていた人たちが投票に足を運ばなかったことで、本来なら勝てるはずがない候補者が勝てたことになる。アメリカでも大口寄付の台頭で穏健共和党の人たちが選挙にゆかなくなっている。それを保管したのが極右だがこの結果彼らはますます選挙から遠ざかっている。民主党が前回の選挙で勝てたのはそのためと考えると似たような現象が起きている。
とはいえ今回の選挙は大荒れに荒れていた。選挙が終わったことで選挙妨害をしていた人たちの名前が公表され警告を受けていたことがわかった。集会は大盛り上がりだったようだが江東区在住の人たちはほとんどいなかったなどとも伝わっている。このことから「選挙が荒れたことで穏健な有権者が離反したのではないか」という仮説が立つ。
ところがそうではないようだ。
島根1区の亀井亜紀子氏も実は得票数が伸びていない。これまでの選挙で亀井さんのベースになる得票は65,000票程度ある。一方で細田さんは10,000〜90,000票以上得票してきた。ところが今回亀井さんは亀井亜紀子82,691票は獲得し錦織功政氏は57,897票獲得している。つまり亀井さんの上積みは17,000票程度であり、自民党の離反票の方が要因としては大きかったことがわかる。一部「自民党は変わらなければならない」と考える自民党支持者たちは亀井さん(実はこの人も保守の家系だ)に乗り換えたのだろうが、それよりもやはり選挙に行かなかった人の方が多かった。
自民党を支持している人たちの中にはさまざまな人がいるだろう。例えば医療福祉政策がこれまで通りに行われることを期待する人たちは見切りをつけて立憲民主党に乗り換えるかもしれないが、細かな利権の再分配に期待する人たちは「もういいや」と考えることになったのかもしれない。
選挙結果を見ると立憲民主党は新しい期待を提示することはできず、改革に期待する有権者も引き付けることができなかった。当然彼らはそのことをよくわかっている。有効な戦術は既存の自民党支持者たちを辱め続けることだろう。表立って自民党支持であると誇れなくなる。
立憲民主党は「自民党支持者が選挙に行かない間に早めに選挙をやってもらいたい」と考えているのではないかと思う。その意味では「政治と金」の問題は彼らには有効な武器である。「あんな恥ずかしい自民党をあなたは支持するのですか?」というメッセージを継続的に送ることができる。今後、円安・増税・物価高など国民生活が逼迫することを考えると政権を担当しない範囲で勢力を拡大することが最適解ということになるはずだ。
今回、泉健太代表の魅力を発見した。選挙カーで投票を呼びかけていたが実に声の通りが良かった。見た目が爽やかで尚且つイケメンすぎないという親しみやすいルックスもあり選挙の「カバーボーイ」としての魅力がある。政策立案や党内の取りまとめについての実力はスカスカでありなんでこんな人が代表なのだろうと思っていたのだが、実はこの「中身はないけど気さくな応援団長」というのが立憲民主党の理想とする政治家の姿なのだろうと感じた。