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外交青書「中国に対する戦略的互恵」の表現復活 本音ではみんな中国で儲けたい

上川陽子外務大臣が外交青書を閣議に報告した。この中に中国に対する戦略的互恵という文字が入っている。2023年11月に岸田総理が訪中したときに盛り込まれることがわかっており既定路線だった。宏池会はアジア外交重視なので「本音では中国と接近したいのだろう」と考えたのだが実は違っていた。この表現を最初に持ち出したのは安倍総理だそうだ。

ネトウヨと呼ばれる保守層を引きつけつつ中国利権も分配したいと考える安倍総理の苦肉の策だったが結果的に安倍派が崩壊したことで保守層が見捨てられ中国利権が残ったことになる。

だが彼らが計算できなかった問題もある。かつてネトウヨと呼ばれた運動が見捨てられることによって精緻化し複雑化している。艱難辛苦は汝を珠にするという表現があるがまさにそのようなことが起きている。

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上川陽子外務大臣が閣議に外交青書を報告した。中国に対する戦略的互恵という言葉が盛り込まれている。2023年11月の首脳会談で既に盛り込むことが約束されており既定路線だった。本音では中国と仲良くしたい宏池会らしいやり方だなと感じたのだが、実はこれが間違っていた。もともとこの表現を使い始めたのは安倍総理だそうだ。だが第一次安倍政権は1年で崩壊したため福田政権に引き継がれて発表されている。

安倍政権は保守寄りの政権と理解されている。つまり中国に対する厳しい姿勢が印象的だ。だが実際には党内にいる中国利権が欲しい人たちにも配慮をしていた。このため安全保障と経済は別物であるという「それはそれ、これはこれ」を「戦略」と呼ぶことにしたようだ。

ところが中国が軍事費を積み増すとこの「それはそれ、これはこれ」が使えなくなってくる。そこで外交青書からはこの言葉が消え中国の軍事力増強に懸念を示す表現に変わっていった。今回、戦略的互恵について説明する記事の中にはなぜこの表現が使われなくなったのかという説明はない。それを質す記者もいなかったようだ。

日本のメディアは集団的歴史健忘症にかかっている。

ただ、実は歴史健忘症にかかっていないのにかかっているふりをしている媒体も混じっている。読売新聞はさも当然のように復活について書いているが、日経新聞は「苦肉の策だった」と言っている。中国の軍備が拡大したから戦略的互恵をやめているのに、中国の軍備が拡大しているからこそ戦略的互恵が重要と言い換えているのだから「苦肉の策」というのは当然の評価だろう。他に書きようがない。日経新聞はできれば中国とのビジネス機会を増やしたい財界を代表しているためそのポジションはより複雑である。

英語では決められたゴールに対して行動や発言を添わせることを戦略と言っている。ところが日本語ではその場の利益を最大化するために「それはそれ、これはこれ」と態度を使い分けることを戦略的と言っている。つまりこれはズルさではなく賢さなのだと飾るために使われる表現として用いられることが多い。

だからこの表現はなんとなく登場しなんとなく消えてゆきまたなんとなく復活する。だがマスメディアはこれになんらかの重々しい意味を持たせる必要がある。そこで実に様々な解釈が生まれる。これが政治は何か特別なものであるという神話を作り上げてゆくのに一役買っているが内実はむしろ虚だ。

ただこの「それはそれ、これはこれ」も破綻しかけている。

アメリカは中国外しを狙っている。イエレン財務長官は中国の過剰供給問題に国際的圧力をかけたいと考えており、安全保障と経済を切り離した上で独自路線を歩むことは難しくなりそうだ。この問題は国際協調路線(つまり日本がどっちにつくのかをはっきり決めなければならない)のアメリカ民主党政権の方が厄介だ。中国は当然「決めたものは守れよ」と日本に釘を刺している。

またネトウヨと呼ばれたかつての無党派自民党支持者たちも自民党は自分達の味方ではなかったことに気がつき始めている。高齢のネトウヨたちよりも負担を求められる現役世代の方がこの厳しい現実に気が付いていることだろう。アベノミクスは、政策について考える能力を持たない支持者たちが「将来負担を負わされていてそこから逃げられない」と気がつかないようにするためには効果があった。だがその政策もついに終わりの時を迎えている。

彼らが勝手に自民党から離反してくれるならそれはそれで構わない。むしろ中に残った人たちの方が危険でやっかいだ。

アメリカ共和党ももともとエスタブリッシュメントの政党だったがティーパーティと呼ばれる草の根運動にかなり侵食されている。その代表者がトランプ氏だ。富裕層はこれに多額の政治資金で対抗しようとしたが草の根民意に勝てなかった。

現在のネトウヨ(ネット保守)たちには核になる運動体がない。コアになる人たちにはビジネスネトウヨが多かったのだろう。そのため現在の彼らの主な自警団活動は「野党の中にいる右派を取り込みたい人たち」への意味のない嫌がらせ活動に留まっている。玉木雄一郎への書き込みなどが顕著だが中には玉木氏が立憲民主党に所属していると誤認している人までいる。

ところが自民党の青山繁晴議員などは「今の自民党はどこかおかしい」と表明し「元々は1期でやめようと思っていたがこれは議員を続けざるを得ないのではないか」などと主張し始めている。

青山氏の発言は世襲対比世襲という対立軸を作り「政治家は特別だと考えている人たちから自民党を取り返せ」というメッセージになっているようだ。今後総裁選に向けて混乱が予想される自民党で青山氏がどの程度の塊を作ることができるのか、あるいは一人でローンウルフ的に活動してゆくのかなどに注目が集まる。

特に現役世代の負担増に強い反発を感じているようだ。実は全国比例では表現の自由の維持を掲げる漫画家(赤松健氏)が528,053票を獲得しており、ネット保守を背景に持つ作家の青山氏も373,786票を獲得している。ネトウヨに代わる新しい人たちが比例を中心に自民党の中に育ちちつある。ネットを駆使した運動はこれからもデジタルネイティブたちの間に広がってゆくだろう。

アメリカの例を見ると「内側からの改革要求」にはかなりの破壊的な力がある。アメリカ共和党はエスタブリッシュメントと新興支持層の間に決定的な意見の相違があり意思決定に遅滞が生じることが増えている。

日本の場合はこれがネット世代有利の比例区(特に参議院の全国比例)で顕著になってゆくのかもしれない。おそらく与野党対立のような明確な結果は出ないのだから何も決められない状況はこれからも増えてゆくだろう。岸田総理は憲法改正という「エサ」さえ投げておけばネット保守は黙って自民党を支援し続けるだろうと考えているのかもしれないが、おそらく彼らの内面的欲求はそれよりも遥かに複雑である。これまでの扇動されるだけだった運動体が外からの熱により変成を始めているのかもしれない。

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