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「ちゃんとアメリカと相談しながらやってます」ネタニヤフ首相の巧妙なエスカレーション戦略

ガザ情勢が不思議な展開を見せている。当ブログではラファ惨劇の可能性から注目し始めたがイスラエルがイランの外交施設を攻撃したことでフェイズが変わった。もはやガザ情勢とは呼べず「イスラエル情勢」になっている。今後これが中東情勢や世界情勢になるかもしれない。情勢とは戦争の言い換えである。

ネタニヤフ氏の狙いは政権の維持だ。なんとなくその場その場で場当たり的な意思決定をしているように見えるのだがかなり戦略的に動いているということがわかってきた。これまでも何度も修羅場をくぐり抜けてきたネタニヤフ氏だが彼の保身のために多くの状況が混乱してきた。そしてそれは今も続いている。

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今回、この問題を熱心に伝えているのがTBSである。ある記事の冒頭にこのような表現があり多くのニュースでこの表現が使われている。

具体的な攻撃内容などについては、アメリカと調整していきたいとの考えを示しているということで、戦時内閣は16日にも再び会合を開く方針です。

つまりイスラエルの決定をアメリカが暗に支援していると仄めかし続けている。「調整した」ではなく「調整したい」がポイントである。

と同時にラファの作戦は延期が決まっている。ネタニヤフ首相にとっては戦う理由があればよく実はそれがラファである必要などなかった。むしろ戦う相手は大きければ大きいほど良い。そしてそこにはアメリカの関与がなければならない。イスラエルは小国で単独では国家を維持できない。

イスラエルの政治情勢は独特だ。超正統派の一部から「兵役に協力してもいい」という意見が出ている。超正統派の中でも意見が分かれているが、兵役に協力してでも政権内に止まった方が利得が大きいと考える人たちがでてきているようだ。

ネタニヤフ首相のゴールは自分が首相でいることである。そのためには戦う理由が必要で、相手は大きければ大きい方がよく、できれば状況も混乱している方がいい。さらにアメリカの関与が不可欠である。このようにゴールを決めてそのゴールに沿わせて行動や発言を一致させることを「戦略的」という。その意味ではネタニヤフ首相の発言も言動も極めて戦略的だ。ただその戦略とは周囲を混乱させ自分の内包している混乱を目立たなくすると言った程度のものである。

だが、実際にアメリカ合衆国はその戦略に振り回されている。相手の矛盾に漬け込むのが実に上手なのだ。

これに苛立ちを募らせているのがカービー広報担当大統領補佐官である。今回の状況が第三次世界大戦になるか新しい中東戦争になるかはわからないが、アメリカの意向は極めて重要である。記者たちは実に様々な疑問をカービー氏にぶつける。ところがカービー氏はその度に「大統領が決めていないのに先走って自分が発言することはできない」と時に感情的な様子も見せながら対応することしかできない。

アメリカ合衆国の態度は一貫している。これがバイデン大統領が持っている戦略の全てなのだろう。

  • イスラエルが何かを決めてたとしても自分達とは関係がない

カービー氏はこれ以上のことはいっさい言えない。おそらくはバイデン大統領が決めていないからだ。例えば次のようなことが言えない。

  • イスラエルが過度な報復に出たらアメリカは支援を打ち切る。
  • イスラエルが報復しないようにアメリカが積極的に制止する。

これらは全て政治的な発言とみなされ有権者が大統領を選ぶ際の判断材料になる。また寄附をする人たちも大統領の発言によって誰に寄附をし誰に寄附をしないかを決める。だからバイデン氏には決められない。

アメリカはできるだけこの問題と自分達を引き剥がしておきたいのだが、この曖昧さこそがネタニヤフ首相にとっては好材料となっている。ホワイトハウスは聞いていないと言っているが自分達はちゃんと説明をしましたとさえ言えればそれで構わないのである。

NHKによるとカービー補佐官の説明は次のようになっているが、イスラエルは「いやいや我々はきちんとアメリカにも説明しますよ」と言い続けるだろう。

これについてアメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は15日の記者会見で、「イランが行ったことに対して対抗措置をとるかどうかや、どのように行うかはイスラエルが決めることだ。われわれは決定過程に関与しない」と述べました。

同盟関係は国益に沿ったものだと思われがちだ。特にアメリカは同盟関係で成り立っている国でありその同盟関係の維持力は神話化されている。

だが友達関係が必ずしも損得ばかりで成り立つのではないようにアメリカとイスラエルの同盟関係はかなり特別なものである。アメリカにとってイスラエルは厄介ではあっても捨てられない友達みたいなものなのかもしれない。そしてその悪い友達に世界中が振り回されている。

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