日本でも同じことが起こりかねないと言えば多くの人は笑うだろう。
アメリカ合衆国で18歳の少年がイスラム国の影響を受けたとみられるテロを計画していたと話題になっていた。ドイツでも同じようなケースが報告されている。イスラム国が積極的にリクルートしているわけではなくシンパシーを感じた若者が勝手に計画を起こしているという特徴がある。
日本で同じことが起きることはないだろうが似たようなことは違う場所で起きるかも知れない。
舞台になったのはアイダホ州のコーダリーンという小さなコミュニティだ。コーダリーンはアイダホ州の北部突端部にある5万人ほどの都市である。かつては金鉱山で栄えたそうだが、現在はリゾートとして有名なのだそうだ。
容疑者は18歳の若者である。まずイスラム国に支援をし運動に加えてもらおうとしていた。SNSでイスラム国を称える宣伝活動もしていたようだ。だが結果的にイスラム国に合流することを諦めて、独自で「ジハード」を起こすことを決意する。ABCの報道によると父親を縛り上げて教区にいる人たちを皆殺しにしようとしたが事前に計画が見つかり逮捕されたとされている。CNNは名前を出していないがABCはアレクサンダー・マーキュリオと実名付きで報道している。白人の青年だった。
アメリカのケースだけを見ると「まあこういう人もいるんだろう」という気になる。だが、ドイツでも同様な事例が報告されている。こちらは、ノルトライン・ヴェストファーレン州の3名の若者である。デュッセルドルフ近くの出身でケルンにある有名な観光名所でもある大聖堂に押し入る計画を立てていた。名前は公表されておらず従って人種構成も不明である。
イスラム国はイスラム教徒に対してキリスト教への復讐を呼びかけている。だが、実際に呼応して事件を起こしてしまうのはむしろアメリカやドイツにいて将来に展望が持てない若者たちのようだ。彼らはジハードに共感しその一部になりたいと考えるのだが、それは叶わない。ところがオンラインで交流をしているうちに「イスラム国に合流できないなら自分たちでジハードを起こせばいいのではないか」と感じるようになり実際に計画を立て始める。
ローンウルフ型なのでそもそも組織がなく、従って組織を壊滅させることもできない。
おそらくこうしたテロ計画の多くはそれほど大したことにはならないのだろうし、SNSプラットフォーマーもそれなりに監視をしているのだろう。だからこそこうした事件は未然に防がれている。
だが、やはり自由主義や民主主義といった価値観が彼らの夢や希望を与えることができていないのは確かなことだろう。だからこそ「ジハード」を起こし来世に期待をするような人たちが出てきてしまう。
こうした問題を解決するためには政治言論を穏健なものに保っておく必要があるだろう。彼らは孤立した言論空間の一部にはまり込んでしまっており、一度入り込むとそこから抜け出すことは難しい。だから普段から政治言論に慣れておくべきだ。
日本の場合、陰謀論にハマってしまうのはむしろネットリテラシーがない高齢者のようだ。ここが欧米と違っている。
かつての新興宗教に似ている。新興宗教はターゲットになった人たちから長く搾取するために「できるだけ経済的に破綻しないように」うまくコントロールする傾向がある。信者を経済的に破綻させてしまうのはほんの一部である。旧統一教会の裏には「付かず離れず」の新興宗教団体が多くありおそらく悪質性はそちらの方が高いだろう。
ネットでは陰謀論が健康商品販売などの入口動画として使われるケースが多いようだ。「信者コミュニティ」に責任を取らないので新興宗教よりも過激化する傾向がある。NHKの取材によると親が陰謀論にハマり経済的な負担を負うようになると子供はどうしていいかわからなくなってしまうようである。どこに相談していいのもどれくらい広がっているのかもよくわからない。だから自分の親だけが特殊なのではないかと感じてしまう。そこでNHKは似たような事例を報告してくださいと呼びかけている。
日本ではアメリカやドイツのように若者がイスラム国などからのメッセージにそそのかされることはないのだろうが、むしろ高齢者の方が「今の政府は国民を破綻させようとしている」などという外国からのメッセージには弱いかも知れない。
すでに中国がアメリカに対して「データボイド」という脆弱性を利用した工作をおこなっているとする指摘もあるが、日本人の関心はいまだに低いままである。おそらく「今回紹介したような事例が日本でも起こるかも知れない」などと言えば多くの人は笑うだろう。
だが実際には「いまそこにある」危険な状態が放置されていることには変わりない。我々は思っている以上にネットで孤立しているし、孤立している人のそばで生活している。