国際政治を見ていると「なるほどなあ」と思うことがある。今回はイランとイスラエルの関係が緊張しているという問題を見る。ガザ情勢が行き詰まっているためにイランを指差して視点をずらそうとしているのかもしれないと感じる。
日常生活でこんなことをすれば顰蹙を買いそうだが国際社会ではなぜかこれが一定の効果を生む。ただやはりこれが危ない橋であることは間違いがない。
イスラエルがシリアにあるイランの公館を空爆した。イランの内部ではイスラエルとアメリカを打倒せよという声が高まっている。最高指導者のハメネイ師も報復を誓っている。だが、イランは本音ではこれ以上アメリカと対立したくないようだ。アメリカの経済制裁で国内経済が傷んでいる。制裁を解除するために核開発合意に復帰したいというのが情報筋の見立てである。
アメリが合衆国は「イスラエルにあるアメリカの権益がターゲットになる」としてアメリカ政府職員の家族のイスラエル国内の移動を制限している。また中央軍司令官もイスラエル入りした。ラファ攻撃の日付は決まっていると宣言していたネタニヤフ首相もこれに乗りイスラエルにはそれぞれの有事に備えたシナリオがあると発言を修正した。
イスラエルへの軍事支援に国内から反対の声が出ているバイデン政権にとってこれは渡りに船だった。今、イスラエル支援をやめるとイランから攻撃されるだろうと主張できる。ネタニヤフ首相も国際社会からの反対にあい人質が解放できないままにハンユニスから撤退したと避難されずに済む。もともとイスラエルが引き起こした問題にもかかわらず、両国は「自分達は被害者だ」と仄めかすことで有利な状況が作りたいのだろう。
ネタニヤフ政権はガザ地区北部(ガザシティ)からパレスチナ人を追い出したいようだ。東西横断道路を作り南部からガザ地区に入ろうとするユニセフのトラックを銃撃した。国連は安全が保証できない限り人道支援はできないと言っているが、おそらくそれがイスラエルの狙いだろう。アメリカの政府高官もガザ地区北部ではすでに飢餓が進行していると認めているのだが、世界の目がイランに向けばこの問題も「なかったこと」にできる可能性がある。
なるほど、何かで行き詰まった場合には外で別の騒動を起こせばいいわけか……と妙に納得させられる。
しかしながらこれは危ない橋であることには間違いがない。第一にバイデン政権もネタニヤフ政権も場当たり的な危機感の醸成を繰り返しておりその「手口」は誰の目にも明らかだ。つまりアメリカの指導力を疑問視する国が増えている。明らかにアメリカ人以外の命を軽視しておりとても民主主義のリーダーとは言えない。
さらに、本音では経済制裁を解除したいイランも国内には「アメリカ帝国主義を打倒すべきだ」と考える人たちがいる。彼らは徹底抗戦を望んでおり、イランの最高指導部は彼らに何らかの落とし所を提供しなければならない。
今のところ「相手が仕掛けてこないだろう」という気持ちからイランを刺激しているイスラエルとアメリカ合衆国だが本当にイランが暴発しないという保証はない。
本来ならアメリカ合衆国はこんな危ない橋を渡る必要はなかった。だが長年議会対策という小手先のテクニックに依存してきたバイデン政権は「テクニック依存」の政治に自縄自縛状態に陥っている。