河野太郎大臣が主導して国の基金を廃止するという。政府もいよいよ行政改革に本腰かと考えたのだが内容を見て愕然とした。廃止される基金は16兆円中のわずか千数百億円だった。政府は国民の負担増を減らすために行政改革を進めていると宣伝しているが、おそらくこのままでは行政改革は進まず国民は更なる負担増に苦しめられることになるだろう。まさに泥舟である。
さらにSNS世論の曖昧な評価を見て考えさせられた。記事を読んでいない人が多くそれぞれ好き勝手に「国庫にお金が返ってくるから増税はいらない」とか「これでは足りないのではないか」と呟いている。
少し調べてみたのだが、調べれば調べるほどこの混乱をどう解消するつもりなのか?と感じた。日本経済の「ゾンビ化」が進行している。
やってる感優先で返納額はわずかでしかない
共同通信が国の基金のうち無駄と判断されたものが10基金が廃止になると伝えている。余剰金は計千数百億円となりそうだという。このニュースだけをみても評価していいのかがよくわからないのだがSNS時代なので専門家のコメントが見られる。便利な世の中になったものだ。
- コロナ禍前の基金は2兆4000億円だった。
- コロナ関連予算として8倍に膨らんだ。
- 国は国民から預かった税金を有効活用せず基金に塩漬けにしていた。
つまり無駄な基金はまだ多くありほんの一部だけが終了するに過ぎないことになる。これを「河野太郎大臣のリーダーシップ」と解釈するのはやはり無理がある。
そもそも判断指標は官僚が勝手に決めている
ところがSNS時代ではここでは話が終わらない。政治家の取り組みもそのまま読むことができる。立憲民主党の蓮舫参議院議員がある指摘をしている。ちょっとわかりにくいのだが次のような意味になる。
- 活用されていない資金がどれくらいあるかを示す数字を「保有割合」と言っている(らしい)。
- この保有割合は事業見通しから計算される。
- だから、官僚が甘い事業見通しを立てておけば保有割合軽く見せることができる。
- おそらく、もっと返納できる(無駄になっている)資金がたくさんあるのではないか。
国民民主党の玉木代表などと比べると、蓮舫議員の議論の組み立ては正直わかりにくい印象を与える。だがいっていることはおそらくこういうことだろう。共同通信が「中小企業庁、コロナ対応基金存続 有識者の「廃止」提言受け入れず」という記事を出している。
- 中小企業庁に「中小企業等事業再構築促進基金」という基金がある。
- 行政事業レビューは役割は終わりつつあると指摘し「廃止か抜本的な再構築」をと提言した。
- だが中小企業庁は聞き入れず事業を継続させることにした。
- 新規事業の募集も行われておらずいま取り崩せば5600億円が戻ってくるが今のところ塩漬けになっている。
蓮舫参議院議員の話と合わせると次のようになる。
- 基金が存続されるかどうかは官僚が考える事業見通しにかかっている。
- その事業見通しは官僚の胸先三寸でどうにでもなる。
- そして、どうやら官僚は一度握った許認可権限を決して手放さないらしい。
- だから無駄とわかっていても国庫にお金が戻ってくる見通しが立たない。
- 国庫にお金が無くなれば「増税させてください」という議論になる。
河野大臣はあるいは本気で行政改革に取り組んだのかもしれないがこの官僚の胸先三寸を砕くところまではいかなかった。蓮舫議員はさらにその外側から事業計画の甘すぎる見通しを官僚に認めさせなければならない。
蓮舫議員のつぶやきはフォロワーには難しかったのだろう。あまり反応を集めていなかった。数字混じりの議論よりも声高で直接的な政府批判の方が盛り上がるのかもしれない。
経営経験のない官僚が作り出した「ゾンビ経済」
そもそもこの事業はコロナ禍で立ち行かなくなった事業から新しい事業への転換を図るものだった。だが、実際には似通った事業に補助金を出すケースが目立ち本来の役割を果たしていない。Quoraで中小企業を経営する人は「思い切った事業転換をする人などいないのではないか?」という指摘をしていた。個人の経験ではあるが経営者の率直な感想なのではないかと感じた。
中小企業には今やっている事業からの転業の意欲を持っているところはほとんどないため無理矢理に補助先を作ってお金をばらまいていたようだ。だが「これでは意味がない」と指摘されてしまったために新規事業の募集を打ち切ってしまった。だから基金は塩漬けになっている。おそらくこうした事業はこればかりではないのだろうが、国民の支持と関心が集まらないかぎり内容の解明は進まないだろう。
国のようなちゃんとしたところがこんな雑なことをやるはずはないと思う人は多いだろう。だが、実際にやっているのはこんな程度なのだ。経営を経験していない官僚が意思決定をしているのだから当然といえば当然といえるのかもしれない。
政府の無策でかろうじて生きながらえるだけの人や企業が増えている
ちなみにコロナで収入が減った世帯への補填は貸付になっているのだが2023年12月の段階では46%の66万件が返済を始められていない。
ゼロゼロ融資と呼ばれたコロナの返済に至っては全容がよくわからなくなっている。総数245万件・総額は42兆円あったが「お金を借りたが結局ダメでした」という返済が増え続けた。2023年6月の時点で「息切れ倒産が増加する可能性がある」と読売新聞が書いていた。つまりお金を貸したもののそのまま倒産してしまう(当然お金は戻ってこない)企業が増えるのではと問題視されていた。
だが潰れそうな企業はその比ではないようだ。なんとか借換えをしてもらいながら倒産を防いでいるのが実情なのだという。援助をやめてしまうと企業は倒産し結局何も返ってこなくなる。会計検査院が2023年11月に調べたところ1兆円が回収不能・回収困難な状態になっているという。事業総額が大きかったためにこれでも貸付の6%にとどまっている。
22年度末時点の貸付残高は14兆3085億円(約98万件)。このうち回収不能もしくは回収不能として処理中は1943億円、回収が困難な「リスク管理債権」(不良債権)が8785億円だった。計1兆728億円で、総額の約6%にあたる。
政権批判以前に「一体この混乱をどう収集するのだろう?」と感じる
アベノミクスが破綻し「これ以上借金はできません」という状態になっている。鈴木財務大臣や岸田総理は何かにつけて「無駄を省きます」と言っているのだが実情を調べると無駄はたいして省かれていない。その実情を探ると仕事を奪われそうな官僚が抵抗しているだけなのではないかと思える。つまり、国益ではなく個人や組織の面子が重要視されており政権はそれをコントロールできていないことになる。
かろうじて生きている企業をゾンビ企業と呼ぶ。定義は様々だが熊野英生第一生命経済研究所 首席エコノミストは次のように書いている。
帝国データバンクは、このインタレスト・カバレッジ・レシオが3年連続して1未満で、設立10年以上の企業数が2022年度で25.1万社もあると推計している。同社のデータベースに保存されて147万社に占める割合は、6社に1社(17.1%)にも達する。業種では、小売と運輸・通信に多いと同社は分析している。
熊野氏の定義から見てわかるようにゾンビ企業は金利によって数が変わる。つまゾンビ企業を処理しない限り日銀が金利を上げることができず円安による悪性インフレの要因となる。
場当たり的な政治家の政策と官僚の謎のこだわりによって作られたゾンビ企業のせいで円安が是正できず、国民生活を圧迫し始めているということになる。
立憲民主党をはじめとする野党には対案がないと言われることがある。だが、このレベルから「一体どうするんですか?」と問い続けないかぎり状況は悪化し続けるばかりだ。とても建設的な提案に時間をかけられる余裕などないのだ。