岸田総理の訪米が始まった。日米同盟の堅固さをアピールし岸田政権の支持率アップにつなげたい考えだ。アメリカのメディアは日本がアメリカ陣営を経済的に支えてくれることに期待しており、岸田総理がCNNに対して改めてGDP比2%の防衛費増額を約束する内容となった。直接の言及はなかったようだがCNNはわざわざ過去の約束を取り上げ日本の積極的な財政支援に期待を寄せている。
岸田氏は2021年の首相就任以来、日本政府の防衛姿勢の抜本的変化を主導してきた。第2次世界大戦後の平和憲法から距離を取り、27年までに防衛費を国内総生産(GDP)比約2%に増額すると表明。反撃能力を獲得する方針も示している。
今後の岸田総理のミッションは財務省の要請に従い脱アベノミクスの負担を国民に背負わせることとアメリカの期待に応えて防衛費の増額を国民に約束させることになるだろう。
読売新聞の調査では日本の安全保障環境に漠然とした不安を感じる人は多いが防衛費の負担となると躊躇するという人も多いことがわかっている。有権者は今後の選挙を通じて岸田総理が求める国民負担を受け入れるかを選択することになる。岸田総理は「最後は有権者がお決めになることだ」と語っている。
CNNは日本の財政負担に期待している
岸田総理の訪米が始まった。総理は手始めにCNNとのインタビューに対応したが日本語版の情報を見るかぎりは安全保障に関する内容が多かったようだ。
合衆国は議会からの経費削減のプレッシャーにさらされている。また、イスラエルやウクライナなど多額の費用を必要とする紛争を多く抱えており財政的に豊かでなおかつアメリカに従順な国がその負担を肩代わりしてくれることを望んでいる。
岸田総理はまっさきにこうしたアメリカ人の期待に応えてみせた。だからこそGDP比2%の国民負担の約束は生きているとして確実な進捗ぶりを再度表明してみせたのだ。ただし岸田総理は財源についての議論が行われていないという説明は避けておりCNNもそれについて気にする様子はなかった。政権交代の危険がない政党の党首がそういっているのだからこれは当然のことなのかもしれない。
AUKUSは日本という「異物」を受け入れるつもりはない
さらにAUKUSについても新しい情報が出てきた。
事前の噂ではアメリカ合衆国がAUKUSへの積極的なコミットメントを期待しているとされていた。だが、オーストラリアとイギリスは情報管理の杜撰さを指摘しアメリカの提案を受け入れなかった。イギリスとオーストラリアの本音はわからないが、正式な発表では日本は「パートナー」ということになった。ロイターが詳しく事情を書いているが、フィナンシャルタイムスの伝聞である。
- 第1の柱であるオーストラリアへの原子力潜水艦の配備については参加国拡大を検討していない
- AUKUSが「第2の柱」に据える量子コンピューティング、海中での能力、極超音速、人工知能(AI)、サイバー技術での協力を巡る協議について、米英豪の国防相が8日に発表する
結果的に公式発表が行われフィナンシャルタイムスの報道が正しかったことがわかっている。アングロサクソン同盟であるAUKUSの敷居の高さを感じさせる。
AUKUSは東アジア版のNATOになると期待されているがおそらくアングロサクソン系の3カ国が特別な地位を持ったままで周辺国をまとめてゆきたいのだろう。国連に中国とソ連を引き入れて失敗したこともあり日本のような異物の侵入は最低限にしておきたいのかもしれない。特に原子力潜水艦のような決定的打撃力については日本には情報を渡したくない。
このように岸田総理の訪米はアメリカの期待に応えるために日本の財政的貢献を増やす内容となっているが、受け入れる側からの抵抗も実は大きい。
日本国民の消極的な姿勢は結果的に「財政負担を受け入れている」と捉えられている
CNNは中国など近隣国の警戒心については指摘しているが国内の低支持と国民負担の増加については触れていない。日本の有権者は従順で表立った抗議運動は行わない。せいぜいSNSで不満を表明し実行されるみこみもない落選運動を展開するのが関の山だ。たとえばBBCは次回の総選挙でイギリスでは政権交代が行われるかもしれないと報道しておりスナク首相の約束が実現するかは不透明だという認識が織り込まれている。
このためCNNは「日本はアメリカの財政負担の肩代わりを支持している」と受け止めているようだ。変化を躊躇し内向きな国民性もあり、結果的には「日本は更なる負担を受け入れている」と解釈されている可能性がある。
では、実際に日本人はどのように感じているのだろうか。
日米同盟推進の読売新聞が世論調査を行なっている。サマリーでは「日本人の多くが安全保障の脅威を感じている」と印象づけ、岸田総理の掲げる同盟緊密化を支持する内容となっている。
しかしながらアンケート結果を見ると別の姿も見えてくる。脅威については「多少は感じている」が53%と最も多い。つまりなんとなく危ないのかなあという認識を持っている人が多い。
このため防衛力を強化するのに賛成か反対かを問われると賛成と答える人が71%いる一方で防衛費増額に賛成か反対かを聞くと53%と42%で意見が拮抗する。なんとなく危ないのかなあと感じている程度の人が多いため具体的な負担について問われると反対する人が多くなってしまうのだ。
フォロワーシップをリーダーシップと言い換える岸田総理
個人的に非常に興味深かったのは、岸田総理がアメリカの提案を受け入れること(つまりフォロワーであること)をリーダーシップだと言い換えているという点だった。このために使われる便利な言葉が「パートナー」である。意思決定はアメリカなどのアングロサクソン系の国が行いそれに追随することを意味しているのだが「進んで協力している=パートナー」と言い換えることで表面上は全てが整っているように見える。あとは、岸田総理が「リーダーシップ」を発揮して国民に対して更なる負担を納得させることができるのかが重要になってくるのだろう。
岸田総理はリーダーの地位を熱望しながらリーダーシップという才能に恵まれなかった。こうした個人的なジレンマがあり自民党が破壊されつつあるなかでも国際的な約束を押し通そうとする傾向がある。
負担増にこだわる総理を頂く国民も不幸だがリーダーシップ願望だけが強くリーダとしての才覚に欠ける党首を選んだ自民党にとってもこれは不幸なことだ。