身も蓋もないのだが、安倍政権下で中小企業向けに野放図にモノづくりをさせることを「成長戦略」と言っていたツケが回った。当時の政府は「国はもう管理しなからあとは消費者が自己責任で身を守るように」と注意喚起すべきだったが、成長戦略と偽って説明をしていた。おそらく成長という言葉の意味がわからなくなっていたのだろう。
小林製薬のサプリメント(健康補助食品)が原因と見られる死者が少なくとも5人出ているが責任の所在も因果関係も全く明らかにならない。曖昧な情報発信が災いしネットでは陰謀論まで飛び交っているが誰もこれを整理しない。
誰も何も責任を取らずひたすら「やってる感」を演出してその場を乗り切ろうとする。この構図が政治と金の問題の処理と驚くほどよく似ている。
2024年4月4日時点で5人が亡くなり196人が入院しているそうだ。摂取した人にはファンコニー症候群という共通の症状が指摘されている。機能性表示食品については安倍政権下の規制改革の影響を指摘する人がいるが「安倍政治の負の遺産だ」と指摘する人が騒いでいるだけで対策の具体的なアイディアを議論する人は多くない。
そもそも機能性表示食品は規制緩和の一環だった。「国は安全性を保証しないからそのつもりで」という内容である。だが小林製薬といういかにも製薬メーカーらしいところが錠剤のようなものに機能性表示食品という名前をつけて売っている。さらに機能性表示食品は国の定めた制度だ。
つまりなんとなく「国が定めたお薬」が安く手に入ったと考える人が多かったのではないか。高齢化社会ではこうした「お薬みたいだが誰も管理しない食品」が多く出回っている。つまり同じような問題はこれからも起きるかもしれない。
問題の処理方法も政治と金の問題によく似ている。不具合は明らかに起きているがなぜそうなったのかが誰にもわからないし調べようともしない。誰にもわからないのに「今後対策を取ります」と宣言され事態を沈静化しようとしてさらに騒ぎが広がる。そしてそれを野党が攻撃する。野党も対応策は提示しない。ただ騒ぐだけだ。
今回の小林製薬の紅麹問題は2つに分解できる。1つは健康被害を起こした原因の問題だ。実は情報が変わってきている。国は責任は取らないが「ちゃんとやってます」という姿勢は見せたい。だがその発表方法が却って状況を混乱させている。どうせ責任は取らないので対応が極めていい加減なのだ。
当初はプベルル酸という物質が原因であるとされていた。実はフライングだった。プベルル酸は特定が難しく本当にこれが原因だったのかはわかっていない。当初断定的だった報道は総括されないままに徐々に修正されているため検索すると断定している報道と「よくわからない」とする報道が混在している。
もう1つの問題は機能性表示食品の是非についてだ。安倍政権下で「成長戦略」の1つとして導入されたが、結果的には誰も責任を取らない制度だった。だが、原因が全く特定できていないにも関わらず「対策」の協議が始まっている。原因がわからないのになぜ対策が作れるのだ……という指摘は政治と金の問題でも見られた。
誰も責任を取りたくないが何もやっていないとは見られたくないのでどうしても「やってる感」が優先されることになる。
情報が混乱していることもありネットでは「小林製薬をいじめるな」という擁護論も聞かれる。紅麹ではなく何らかの副産物ないし混入物が問題だと考えられるのだがこれが読み取れない人が多くいる。このため「厚生労働省が紅麹は安全だと言っているのにマスコミが小林製薬をいじめている」と解釈する人たちが少なからず出てきた。
では、小林製薬の製品には何も問題はなかったのか。報告された患者にはファンコニー症候群という共通の症状が見られることがわかっている。患者たちは全て特定の機能性表示食品を摂取しているのだから原因が機能性表示食品にあるのは明らかだ。また、その物質が9月ごろを中心に混入していたこともわかっている。
小林製薬の「紅麹」の成分を含む健康食品を摂取した人が腎臓の病気などを発症した問題で、日本腎臓学会の調査では、これまでに報告された患者のほぼすべてで腎臓の機能障害の一種「ファンコニー症候群」という病気がみられたことから、患者を診察した専門の医師は「最近まで摂取していた人は症状が残っている可能性もあるので検査を受けてほしい」と呼びかけています。
会社が含まれる物質の量を特殊な装置で解析したところ、去年9月に製造された製品の紅麹原料のロットで、最も多くの物質が検出されたということです。
混乱に拍車をかけているのが厚生労働省のあやふやな発表だった。当初厚生労働省は断定的に「プベルル酸」が原因であると指摘していた。ところが専門家の間からは疑問が出ている。プベルル酸と特定するためにはサンプルを入手しそれと比較する必要がある。だが、物差しになる標準物質が手に入らないため解析もできないそうだ。小林製薬は「シトリニン」、「総アフラトキシン」、「オクラトキシン」、「ゼアラレノン」、「デオキシバニレノール」ではないということから「プベルル酸ではないか」と考えているというが断定していない。
【独自】小林製薬紅麹サプリを分析「プベルル酸」と近い性質の化合物を確認「珍しい物質で特定困難」 専門家も「初めて聞いた」(読売テレビ)
NHKは厚生労働省がそう言っていると伝えているが、よく読むと厚生労働省は小林製薬がそう言っていると言っているだけだ。つまり伝聞の伝聞なのだ。厚生労働省は「どうせ自分達の管轄じゃないからいいや」と考えておりNHKもとにかく政府の言っていることをそのまま伝えればいいだろうと考えている。日本ではこれを報道と言っている。
薬品ではなく補助食品(サプリメント)は消費者庁の担当である。自見英子担当大臣(消費者問題)は紅麹が健康被害を及ぼすという報告はないがとはいえ安全に摂取できるとは評価できないとあやふやで曖昧な説明を繰り返している。確かに原因が特定できない以上これ以上の踏み込んだことは言えない。そもそも消費者庁に人体への安全性が保証できる見識があるかも怪しい。
小林製薬が製造した紅麹(べにこうじ)配合サプリメントを摂取した人が健康被害を訴えている問題で、自見英子消費者担当相は5日の記者会見で、小林製薬が紅麹成分を含む機能性表示食品8製品について安全性を再検証した結果、「紅麹成分が健康に影響を及ぼすという報告はなかった」と明らかにした。
紅麹成分、健康影響確認できず 小林製薬の検証結果公表―原料入手の173社も被害報告なし(時事通信)
紅麹が危険という報告はなかったが安全とも保証できない。そもそも国が何かを保証する制度ではない。問題はおそらく製造過程で混入した「何か」であり紅麹そのものではない。これを検査しようにも既に製造ラインがあった工場は閉鎖されていてよくわからない。
なぜこんなことになるのか。機能性表示食品のあり方に問題がある。ビジネス日経がこう指摘している。
- 安倍政権が規制改革を全面に押し出すために導入した制度である。
- 当初から「質の悪い論文が根拠になる可能性がある」と指摘されていた。
- 品質保証・品質管理の管理監督があいまいだった。
また海外と日本では品質管理が違っていたそうだ。
そもそも小林製薬はまともな製薬会社ではないという指摘まで出てきた。もともと薬の卸売の会社だったそうだが、最近では単なるアイディア商品屋になってしまっていたのだという。脂肪を落とす「ナイシトール」を例に開発部門でさえ扱っている生薬(副作用がある)の知識があやふやだったそうだ。当然こうした体制は品質管理部門にも影響が出る。開発部門でさえ生薬の知識がないのだからコールセンターに十分な知識などあろうはずはない。
コールセンターが拾うべき購入者からの電話もあったかもしれないがそれが把握されていなかった可能性がある。さらに会社が把握してから公表までは2ヶ月かかっているのだが、これはガイドライン違反ではあっても法令違反ではないそうだ。
だから9月の発生から半年かけてようやく健康被害の広がりが確認され大騒ぎになった。
薬品ではないので厚生労働省は責任を取らない。消費者庁にもこのサプリメントについて指導ができるほどの能力はないかもしれない。製薬会社は平謝りだが知識はあやふやで今後どのような補償をしてくれるのかもよくわかっていない。全く原因がわかっていないにも関わらず政府は「5月末までに考え方を取りまとめる」と言っている。総括なしに幕引きを図ろうとしている。
このあいまいな「お薬みたいな食品」の被害を最も多く受けたのが亡くなった人たちとその遺族だろう。また「国のお墨付き(実際にはそんなものはなかったのだが)」を信じていた人たちも回復不能な健康障害を負う可能性が否定できない。
また紅麹の提供を受けている173社も大きなダメージを受けた。紅麹そのものには害がないといわれているが、厚生労働省も消費者庁もそれを保証してくれるわけではない。とにかく自主回収してくれと言われているそうだが、その自主回収分について小林製薬が補償をしてくれるかどうかは全くわからないようだ。
取引業社の苦しい胸の内をNHKが取材している。
しかし、小林製薬からは、「原因が完全に究明できていない」などとして、原料の使用を控えるとともに販売した製品を自主回収するよう求められています。
仲谷健太郎社長は、「安全宣言が出ればぜひそのまま使いたいと言ってくれる顧客もいますが、安全宣言を出してくれないために自主回収しなくてはならないところまで追い込まれています。どこまで責任を負ってくれるのかと言われても、回収方法や期限、それに費用についての話が一切出てこないので、小林製薬から回答があるまで保管するよう頼むしかありません」と話していました。