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低支持率の岸田政権が自衛隊をアメリカの下請けとして差し出すための法案を準備

支持率低下に悩む岸田政権の元で自衛隊が米軍に組み込まれようとしている。日米同盟のもと自衛隊が下請け化される危険性が高まっているがこの法案は日本では全く話題になっていない。おそらく軍事・安全保障・護憲のドメインにいる人たちにはピンとこない「難しい」内容なのだろう。

それぞれのムラに閉じこもる日本人と長期的展望を持たない岸田総理というのは最悪の組み合わせだと感じるが、誰も抵抗しない以上はその帰結を受け入れざるを得ないのかもしれない。

アメリカは自国の国益を守るためのさらなる負担を強要してくるだろう。後になって気に入らないとSNSで不満を表明しても国際的な約束を翻すことはできない。

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マスコミは政治と金の問題ばかりを追いかけている。当たり障りのない無難な内容なので安心して伝えられるのだろう。そんななかで、統合作戦司令部の創設のための審議が始まった。日米同盟がより強固になると説明されている。

まずニュースを確認しておく。読売新聞が「在日米軍、司令部機能を強化へ…「統合作戦司令部」創設の自衛隊と連携促進」という記事を出している。

  • 有事指揮権はインド太平洋軍に残る
  • インド司令軍の指揮系統の中で在日米軍の司令部権限が強化される
  • 自衛隊の共同運用を通じてこの指揮系統に組み込まれる

読売新聞は「日米同盟が強固になる」と説明している。

だが、米系外資に勤めた経験がある人は「嫌な予感がするなあ」と思うのではないかと思う。この手の議論は実はリストラ策の一環であることが多い。

アメリカ系の企業が日本の市場に参入する際にまず現地のやり方に合わせることがある。市場としてはあまり期待されていない状態である。外資系と言いながら日本のオペレーションには自由度が高く半ば独立しており、それなりの自由を謳歌することができる。外資系に自由な印象があるのはこのためである。

ところが日本市場がうまくゆかないときにテコ入れ政策として「地域本社」が作られ、その地域本社の下に組み込まれる。場合によっては地域本社直轄の支社と現地法人が同居するようなこともある。この時に現地法人の自由度が削られるため日本支社は何も決められなくなる。何かやろうとすると地域本社から派遣されている人たちが「本部のお伺いが必要だ」と主張するようになるのだ。決裁権はあらかじめ削られているが当初日本支社の人たちはその意味がわからないこともある。

今回の例でいえば在日米軍が支社で自衛隊が現地法人(現法)いうことになる。

ただ、外資系に勤めたことがない人にはこの「現法(自衛隊)の権限縮小」の意味と背景がいまひとつピンとこないのではないかと思う。

2025年の国防費は1%増加となっている。アメリカでは4%以上のインフレが進んでいるので実質的には軍事費を削減していることになる。インフレに合わせるために兵士の給料を4.5%引き上げなければならない。このため多くのプログラムの支出が減速することがわかっている。F-35の調達が抑制され空母や潜水艦などの発注も遅れるという。

バイデン政権は共和党から「予算を使いすぎである」と批判されており大幅な歳出削減を余儀なくされている。バイデン氏はこれを富裕層増税などで賄いたい計画だが共和党はそれを許さない。ロイターによれば政策的な予算(機械翻訳では「裁量予算」)の半分は国防費に消える。軍事費をどうするかは政策の自由度を高めるためには非常に重要な要素だ。国内では同盟国支援より国境対策を優先すべきだという議論もある。

ところがバイデン政権は大口寄附が見込めるユダヤ系の支持をつなぎ止めるためにイスラエルには大型の軍事支援を行うことになっている。F15戦闘機の供与などが予定されている。支出にはキャップがかかっているから当然どこか別のところから予算を削って持ってこなければならない。

産経新聞は「中国が国防費を7.2%も増額していて苦しい予算対応を迫られている」と指摘している他、当然ウクライナやイスラエルへの軍事支援なども求められている。そうなるとアメリカ軍としては当然「下請け」を探してコストを抑えたくなる。それが自衛隊というわけだ。

考えてみれば自衛隊というのは非常に不思議な組織だ。日本では日本を守るための装置と説明されてきたが憲法上の位置付けがない。アメリカから見ればアメリカの国際戦略を支えるための補助装置である。アメリカが守っているのは日本の基地利権であって日本国民そのものではないのだが、他の同盟国との関係もあり「同盟国の安全をコミットする」と建前では言い続けている。

バイデン大統領は自衛隊下請け化を意識的に行なっている。2023年の5月には岸田総理が軍事費を2倍にするとバイデン大統領に申し出た。自民党への調整もしておらず国民には事前の説明がなかった。財源確保の目処は今も立っておらず岸田総理が「増税メガネ」と呼ばれるきっかけの一つとなっている。

しかし、バイデン大統領はそんな日本の事情など考慮しない「日本の防衛費増額「私が説得」バイデン氏 大統領選にアピール」とNHKが報じるように「私が予算を削減するために岸田総理に掛け合ったと主張した。日本側はこれに大いに慌てアメリカに抗議をした。結果的にバイデン大統領は「いやあれはキシダが自ら申し出たのだ」と発言を修正している。ちなみにこの時に誤解を招きうると発言したのは松野博一官房長官だった。のちに政治と金の問題でまともな回答をしなかった人だ。

外資系の親企業がリストラ(組織改革)を行う背景には現経営陣の行き詰まりがあることが多い。日本の現地法人の権限縮小の背景にあるのは実は経営陣の危機なのだ。

自衛隊の「親会社」であるアメリカではバイデン大統領の再選が危ぶまれている。トランプ社長が就任すればもっと過激なリストラ策が提示される可能性がある。企業の場合にはコストカット(つまり首切り)が行われることが多いが日本の場合には「もっと自衛隊の負担を増やしてアメリカの国益に貢献せよ」ということになるだろう。新社長は「アメリカの負担を減らし受益国(同盟国ではない)に応分の負担を約束させた」と株主(有権者)に説明できる。経営改革を支持した株主たちは大満足だ。

アメリカ軍と自衛隊の統合を真っ先に反対しそうなのは「アベ政治を許さない」で知られる左派リベラルだ。だが、この件に全く反応していない。左派リベラルが支持固めに利用しているうちに護憲派の劣化が進行した。安倍政権の末期にはすでに末端にいる人たちは自分達が何に反対しているのかよくわかっていない状態だった。今回は状況が難しすぎて「とにかく戦争反対」の左派リベラルが理解できる話題ではなくなっている。彼らを反応させるためには「アメリカの戦争に巻き込まれるぞ!」のような過激でありもしない例示が必要だ。だがもちろんそんな戦争はない。

さらに立憲民主党も今回の件を問題視していない。立憲民主党はとにかく政治と金の問題について騒ぎ立てればある程度の票が取れることがわかっている。また過去に「アベ政治を許さない」とした左派リベラル運動が立憲民主党の支持につながらなかった失敗体験を嫌っているのだろう。具体的な政策提言をしていると主張するだろうが、おそらく政策研究の意欲を失っている。

結果的に日本人には「日米同盟がより強固なものになる」という虚偽の説明で統合作戦本部案を通すことになるのだろうが所詮虚偽なのでどこかのタイミングで「あああれは嘘だった」とわかる時が来るはずだ。この時有権者は「相談を受けていなかった」「そんなつもりで容認したわけではなかった」と騒ぎ出すだろう。ただしそれは「有事」である。有事になるまでは矛盾は露呈しない。日米同盟も憲法第9条も「お守り」と考えればそれはそれでいいのかもしれない。お守りの袋を開けて中身を確認する人はいない。

現在憲法に自衛隊を書き入れる議論がなされているのだが、まさか「内閣が管理するアメリカ軍の下請け機関」を憲法に書き込むという議論はしていないはずだ。ようやく衆議院で憲法審査会が行われるそうだが、立憲民主党はそもそも憲法議論すらさせない方針なので自民党と政府が何を考えているのかはよくわからない。

読売新聞の記事はあたかも統合作戦本部ができれば日米同盟が緊密になり日本の安全保障が守られたという説明をしている。この説明は後に禍根を残すことになるだろうが、おそらくそれに気がついている人はそれほど多くないのではないかと思う。少なくとも今回の動きに反対する(あるいは歯止めをかけようとする)言論は見たことがない。

岸田政権のミッションは代理人に代わって国民に負担増を説得することだが、それに加えて自由度の制限も受け入れようとしている。そして有権者は結果的にそれを容認している。

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