自民党は厳密に言えば近代政党ではなく個々の人間関係によって成立する派閥の集合体である。ここ最近さらにその状態がひどくなっている。岸田総理が派閥を部分的に破壊したことで人間関係が崩壊された。
岸田総理は政治と金の問題の処分に際して各所を飛び回っているようだ。時事通信は伝令と書いているが伝書鳩の方が雰囲気が出るなと感じた。
総理大臣が自分が破壊した人間関係の間に立って右往左往している姿は非常に危険なものだと感じる。内外に山積している諸課題を落ち着いて考えられるような時間は岸田総理には持てないだろう。
4月4日に政治と金の問題で処分が発表される。岸田総理ら幹部たちが「処分を調整」「処分を最終調整」というフレーズが小出しに報道され「決まってから教えてくれればいいから」と個人的には感じている。どっちみちなぜこんなことになったのかには明確な答えは得られないだろう。
塩谷立氏と世耕弘成氏を衆議院と参議院の最高責任者としたうえで離党勧告が出るだろうなどと語られている。処分を受けない安倍派の人たちが大勢いるのは「茂木幹事長の抱き込み工作である」などとも報道される。
国民は「なぜこんなことになったのだろう」ということを知りたがっているが自民党が国民の期待に応えようとしているようには見えない。また、最高責任者としての岸田総理も責任を取らないらしい。
「岸田総理はもっと国民の声を聞くべきでは?」と思うのだが、もはやそんなことを言っていられるような状態ではないようだ。時事通信の記事を読んでいて一瞬文意が読み取れないものがあった。
この文章は意味がわかる。半ば独立勢力となっている参議院の会長のもとに党の執行部から説明がなかった(つまり俺が意見を言わせてもらうチャンスがなかった)として関口議員会長が憤っている。
処分を巡っては、執行部内の不協和音も表面化した。この日、国会内では4日の処分に向け岸田文雄首相(党総裁)と麻生太郎副総裁、茂木氏、森山裕総務会長が協議。ただ、これに先立つ参院自民執行部会で関口昌一議員会長は、処分対象の参院議員について、茂木氏サイドから説明がなかったと不満をぶちまけた。
だがこの文章はもはや意味すらわからなかった。数回読んでみて「ああ主語が岸田総理なのか」とわかった。
首相が国会内で、茂木派を離脱した関口氏や小渕優子選対委員長らが待機する部屋と、麻生、茂木両氏の待つ別室を「伝令役」として行き来する場面もみられた。
岸田総理は「派閥をなくす」と唐突に宣言し麻生副総理を怒らせた。また茂木派と麻生派は派閥を解消しなかった。その茂木派から独立し岸田総理に接近した関口氏と小渕氏に対して茂木さんが怒っているようだ。これが尾を引いて茂木さんと関口・小渕氏の間が険悪になっているのだろう。だから、彼らの間を岸田総理が伝書鳩のように(時事通信の表現では伝令役)飛び回っていることになる。各マスコミが言っていた「調整」とはこのことだったのだ。
象徴的に処分される塩谷さんと世耕さんは大変立腹しており不満をぶちまけていると読売新聞が書いている。読売新聞の表現は「強く反発している」だがどのように反発しているかは書かれていない。報道に耐えられないことも言っているのかもしれない。
国民は納得せず、幹部たちはバラバラ、党内には反発が燻っているという状態の中を岸田総理がフラフラと飛び回っているというのが現在の状況のようだ。党内の人間関係に疲弊した岸田さんにはとても国内外の諸課題について考える余裕はないだろう。
仮に国際情勢や国内情勢が穏やかな時であれば良いのだが実はそうではない。
まず国内情勢だが国民負担が増加することが明らかになっており岸田総理はそれを国民に説得しなければならない。日経新聞は社説で「国民負担の議論から逃げるな」と訴えるように明らかな負担増だが岸田総理はメルクマール(それがどういう意味かはわからないが)を導入したから負担増は負担増ではないという謎の理論を展開している。おそらくもう何も考えていないのではないだろうか。
国際情勢では自衛隊と米軍の統合が進んでいる。指令系統を統合しアメリカ軍を補完できるようにしたいという思惑である。指揮権はハワイにあるインド太平洋軍が持ち日本はその支社のような役割になる。自衛隊をハワイにあるインド太平洋軍に事実上組み込む内容なのだが、そうは言えないために読売新聞では「日本支社の役割も強化されますよ」と説明されている。戦後の親米日本を宣伝面から支えてきた読売新聞らしい説明になっている。また立憲民主党・泉執行部もこの動きに反対していない。政治と金の問題さえ引っ張ればある程度の議席が取れると安心しているのだろう。
今回の見直しでは、指揮権はインド太平洋軍に残しつつ、同軍の下で在日米軍の司令部の権限を強化する方向だ。日米合同の演習や訓練の計画立案、自衛隊の統合作戦司令部との調整や情報共有、物資の調達などの権限を与える案がある。
おそらく日本では「これでアメリカの強力なコミットメントが得られる」と宣伝されるのだろうがヨーロッパでは真逆の動きが出ている。トランプ氏が大統領に返り咲くとウクライナからの撤退を宣言しかねない。そのために早期にバイデン大統領がコミットしてきたウクライナ支援の枠組みをアメリカから切り離そうという動きがある。時事通信がポリティコの引用の形で伝えている。
別のエントリーで紹介したようにイスラエルがアメリカを地域戦争に引き摺り込もうとしておりアメリカの同盟戦略は極めて危機的な状況にある。日本は日本の国益に沿ってアメリカの要請を判断すべきなのだろう。
翻って「今の状態の岸田総理は各所と根回しができたであろうか」と考えてみるのだが、政治と金の問題についての議論すら回せていない状態なのだから安全保障の議論ができているとは思えない。さらに国民も岸田政権と今の自民党を支持していない。
読売新聞は米軍への組み込みの既成事実化を図ろうとしており、おそらくこの件について十分な説明は行われない。立憲民主党も政治と金の問題を騒いでいればある程度議席が取れるのだからそれ以上のことはやらない。おそらく具体論が出てきたところで「そんなはずではなかった」「そんな話は聞いていない」という反発が湧いてくるだろう。
総理大臣が目の前の人間関係に忙殺され伝令のように周囲を飛び回っている状態はおそらく国益という面からは極めて危険な状態といえるのだが、それを利用しさえすれば議席が増えると考えている浅はかな考えの左派野党にも問題があるといえる。