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「いつか財務省が介入して円高にしてくれるはず」は本当なのか-予想される介入線は154円から155円

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日本銀行が金融政策を変更し「マイナス金利」を解除した。このニュースで「いよいよ日銀も政策変更か」という期待が集まった。だが、実際には「金融緩和継続」と受け止められ逆に円安が進行している。

財務省・金融庁・日銀は緊急の会合を行い対策を協議したが介入を仄めかすにとどまり実効性のある対策は打ち出されなかった。巷に広がる素人解説を読むと「日銀・財務省がいつか本格介入を行い円安を是正してくれるはずだ」と期待している人が多い。だが、その期待は裏切られることとなるだろう。ただし、識者の解説を読むと「このまま円安地獄が続く」というわけでもなさそうだ。この辺りの状況をロイターの記事などを中心に整理してゆきたい。

ギャンブル投資家を卒業したい人は一度状況を整理しておくと良いだろう。

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日本銀行が金融政策を変更した。「歴史的な転換」であるとされ事前にリークが飛び交うなど異常な状態になっていた。本来中央銀行が政策を変更する前には市場への影響を避けて一定の情報非開示期間(ブラックアウト)を置くことが求められている。インサイダーによる取引を防ぎ市場を混乱させないためだ。植田日銀総裁はリークは決してなかったと強調する一方でサプライズは市場を混乱させる可能性があったと苦しい答弁に終始した。

Bloombergには「本当にリークはなかったのかきちんと調査すべきだ」との指摘も見られる。誰も気にしかなかったが本来はあってはならないことと指摘されている。この記事は「日本はファイブアイズのようなグループからも外されている」と指摘しており、金融政策のみならず国家安全保障の面からも懸念が大きいことがわかる。と同時に植田総裁の置かれた立場が予想以上に苦しいことも伺える。

いずれにせよ異例のプレビュー期間があったせいで事前の期待は大いに高まり、これが逆サプライズを産んだ。内容がかなりハト派的なものに留まったためだ。この結果起きたのが過度な円安だ。これを受けて財務省、金融庁、日本銀行が緊急に集まり、直後に「投機的な動きには毅然と対応する」とする神田財務官のコメントが発表されている。当局としても何もしないわけにはいかなかったのだろうが、できることは介入告知くらいだった。

この日、ドル円が152円線にタッチする寸前で不自然なドルの下落が起きている。覆面介入を想起させるが、当然のことながら財務大臣は否定も肯定もしなかった。なお151円線を越えそうになったのは34年ぶりだそうだ。

Quoraを見ると投資に関する議論はかなり混乱していることがわかる。まず、事前に金融政策の変更が喧伝されたせいで「なぜ金融緩和が終了したのに円高にならないのだ?」という人がいる。また、財務省・日本銀行の介入を過大に評価している人もいて「財務省・日銀が本気を出せば当然円高になるはずだ」と漠然と考えている人もいるようだ。いずれにせよスマホ投資家が増えたせいで不確かな知識でギャンブルのように投資に参加する人が増えている。神田財務官は「投機的な動き」としているのだが、実情はこうしたギャンブル投資家が増えているのかもしれない。仮に素人投資家が増えているとすれば介入告知には一定の効果があるだろうが動きは不安定になる。

ロイターなどでは実際の介入ラインは155円線なのではないかとする観測が見られるようになった。ミスター円と言われた榊原英資氏は155円から160円になれば介入も正当化されるのではないかと言っている。以前の介入線が150円とされていたわけだから徐々に後退していることがわかる。

問題はこうした介入が実際に円安トレンドを転換できるかである。これについて扱っている識者の意見があるので「単なる撤退戦なのではないか」との予断を持って記事を読んでみた。意外なことに記事はトレンドは転換できるとしている。だがその一方で「介入こうはは長続きしないだろう」とも指摘する。つまり結果的にボラティリティが高まる効果しかないということだ。この記事は新しい介入線は(勝手な個人の憶測としながらも)154円ではないかと見ているようだ。

記事は円安が定着するかしないかはアメリカ経済次第と言っている。アメリカのインフレの沈静化に向かいつつあるのかについてはメッセージに政治性があり(大統領選挙を控えているので政治は金利が低下すると主張したい)理事によっても意見がまちまちだ。つまり、よくわからないということになる。

いずれにせよ、日銀の田村審議委員は金融政策は正常化に向けて歩み出したばかりでいまだにほとんど金利がない世界にいることには変わりないといっている。つまり少なくともしばらくは円安と外因性の悪性インフレという状態は持続する公算が強い。

田村委員は金融政策の枠組みを見直したとは言っても短期金利は「ほとんど金利がない世界」であることに変わりはないとする。さらに、長期金利は完全に市場に金利形成を委ねるところまでは行っていないと述べた。先行きゆっくりと、しかし着実に金融政策の正常化を進め、異例の大規模金融緩和を上手に手じまいしていくために「これからの金融政策の手綱さばきはきわめて重要だ」と語った。

サプライズを避けるために事前告知をやり過ぎてしまった結果として却ってありもしない期待を煽り過ぎてしまったのだろう。日銀の政策委員たちは「まだ我々はほとんど金利がない世界」を生きているとの現状認識を語っており「焦って金利を上げる必要はない」と強調する。岸田総理も金融緩和の継続を歓迎しているためしばらくはこのままの状態が続きそうだ。

植田総裁が焦り過ぎて急速に金利のほどんとない世界を抜けようとすると今度はゾンビ企業の息の根を止めてしまう可能性がある。岸田政権の支持率は極めて低い状態が続いており「正常化のために難しい段階を耐えてくれ」と国民を説得するのは極めて難しい。政権は中央銀行総裁を選ぶことができるが、その逆はあり得ない。つまり日銀総裁は総理大臣を選べないためにその打ち手は限られてくる。結果的に国民は円安から来る悪性インフレに今後しばらくは苦しむことになるのだろう。

もちろん明日国民生活が破綻するわけではないのだが白馬に乗った王子様が来て問題を全て解決してくれるわけではない。主権国家において問題は国民が解決しなければならないのだが、そのためには何らかの痛みを受容する必要がある。

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