参議院が承認し2024年度の本予算は無事に期日通りに成立した。それに先立ち集中審議が行われたのだが岸田総理の答弁が完全崩壊していた。おそらくこれに困ったのは岸田総理ではなく辻元氏側だったのではないかと思う。
完全崩壊した理由は二段構えだ。戦術的には岸田政権には菅官房長官がいないことが理由になっている。つまり情報を整理しマスコミとコミュニケーションをとる部隊が存在しない。だがおそらく真の原因は岸田総理が政権ミッションを果たしていない点に帰着する。岸田総理の政権ミッションはアベノミクスを破綻させ先送りしてきた負担増を国民に受け入れさせることだ。
この2つの理由により全体の議論が崩壊したまま岸田総理は前に進み続けざるを得なくなっている。政治は残酷だと感じる。岸田総理が撤退を決めない限り救済は来ない。
すでにSNSのXではさまざまな情報が飛び交っているためおおよその経緯は掴んでいるという人が多いだろう。
政倫審と報道の食い違いが混乱の元になっている。岸田総理は刑事責任を問われない形でこの問題を処理したいと考えており「議論は非公開だがマスコミが部分的に嗅ぎ取った」ことにして本来解けないはずのパズルを解こうとした。
ところが事前の与野党協議でこれを追及された総理サイドは追及に答えられなかった。
おそらく立憲民主党も政治と金の問題が選挙に有利に働くであろうという目論みもあるが能登半島地震の予算が入った本予算の成立は遅らせたくない。このため、できるだけ問題を長引かせたいと考えている。そこで総理大臣に一応の整理をさせたうえで予定調和的に「これでは疑問の解決になっていないから証人喚問を要求する」としたかったのだろう。
いわばプロレスである。
ところが事前協議の段階ですでに岸田総理サイドの認識は崩れかけていた。これでは話にならないので無理矢理に作文をまとめさせた上で質疑が行われた。表向きは対決していることになっているのだが、おそらくは夏休みの宿題をやってこなかった生徒の課題を手伝ってあげるような作業が行われたのではないかと思う。
だがここで異変が起こる。
岸田総理が作文の内容を理解していなかったのである。あとは読んでくれればいいだけですよというところまで準備したのに発表会がボロボロになってしまう。総理は辻元清美議員の答弁に対してサンドバックが打たれるように徐々に沈んでゆくが回復しない。高市早苗大臣が背後で目をぱちくりさせていたのが印象的であった。
プロレス技が炸裂するためには相手が受身姿勢を取る必要がある。だがそれすらできていなかった。結局昼休みに作文の暗記をし直すことになり休憩を挟んで無事にプロレスが完成した。もうよたよただったのだ。
何が問題になったのか。
政治倫理審査会では安倍元総理が裏金について指摘してから亡くなるまでの間に会合が開かれておらず死後の8月になって塩谷、下村、西村、世耕の4氏が集まり会合を開いたことになっている。この会合では裏金(自民党は環流と呼んでいる)について結論は出ず従って違法性を認識していたのかはわからない。
ところが時事通信が1月に安倍元総理が裏金を止めるように幹部に問い詰め3月に会合が行われたと報道した。また読売新聞系の日本テレビが森元総理がこの決定に関与していた疑いがあると報道している。つまり3月に一度中止が決まりそれが死後に覆ったことになり違法性の認識が完成してしまう。
岸田総理の狙いは何だったのか。それがわかる答弁があった。
日本共産党の質問に関して「内部調査の結果は公表しない(かもしれない)から、全ての疑惑は仮定に過ぎず、従って質問に答える必要はない」と答弁していた。国会での答弁を避けようとしているのだろうがあまりにも無理のあることをさらっと言ってのけている。聞いていてびっくりした。
岸田総理の防衛ラインが見えてきた。調査は行うが公式には何も認めないし発表もしない。だがそれでは安倍派幹部たちが違法性を認識していたとまでは言えないので処分もできない。だからマスコミを使って情報をリークした。マスコミには説明責任はなくすべて「それは仮定の話でございます」で逃げ切れると考えたようである。
答弁の最中に岸田総理は辻元清美議員から報道について聞かれ「私もなぜそんな報道が出ているのかわからない」と当惑したような様子だった。さすがに「公式に発表したら説明責任が生じるからリークで誤魔化しているんです」とは言えない。
しかし、この無理のある手法はハレーションを起こしている。
まず森元総理に対する世間の懲罰感情が高まっている。日本テレビは明らかに状況を煽り過ぎているのだが、岸田政権には広報調整を裏回しする菅官房長官のような人がおらずこれをコントロールできない。追い詰められた森サイドはなんとかしてこの状況を打開したいと考えるはずである。世耕前参院幹事長が独自に記者会見をするようだ。マスコミ報道先行で安倍派悪者論が出回っていることからこれに対抗するつもりなのではないかと考えられる。
しかし、この一連の行き詰まりは実はほんの些細な問題でしかないのかもしれない。それがわかる質問があった。
日本経済新聞はかつて社説で「子育てに関して負担増の議論から逃げるな」と岸田総理に檄を飛ばしていた。玉木国民民主党代表も今回のスキームについて岸田総理の不誠実さを追求している。国民民主党は負担増議論に前向きで「総理は説明責任から逃げるべきではない」との立場である。つまり国民の負担が増えるのは事実である。
しかし公明党は創価学会の人たちに「国民負担などありませんよ」と説明しなければならない。このため「なぜ子育て支援金が国民の負担増につながらないのか説明せよ」と迫っていた。岸田総理は「国民負担率という新しいメルクマールに沿って丁寧な説明をします」などと言っていた。だが、おそらく創価学会の人たちはこれを他人には説明できないだろう。正直何を言っているのかさっぱりわからなかった。
アンケートでは国民の多くが負担増の説明に納得できないと答えている。例として毎日新聞のアンケートをあげておきたい。納得できないと答えている人が81%いる。国民が納得できないのは一人ひとりの実際の支出額がまだ出ていないからなのだろうが、実際には負担が増えるのだから理解できないのは当然だ。
公明党の議員は早口で「とにかく負担がないことがわかりましたっ」と捲し立てて質問を終わっていた。明らかに不満げだった。岸田総理は今回の予算までは国債に頼ることができるがおそらく次の予算ではもうこの手法には頼れない。アベノミクスが破綻し日銀が金融政策を変更しているからである。公明党の議員が創価学会に袋叩きにされないかが心配だ。
このブログでは中国企業ロゴ問題について再三扱っている。中国がわが国の安全保障に関わるエネルギー政策に関与していたという疑いが持たれているという事案だ。この問題の本質はどこにあるのか。
まず立憲民主党側が政府与党との違いを打ち出すために脱原発・再生可能エネルギー推進というポジションを作り、そこに大林ミカ氏が関与していた。ところがこれがハレーションを引き起こす。同じ連合を背景にする国民民主党は電気総連が背景にあり原発維持の立場だ。つまり再生可能エネルギーを推進されると困る。
さらに自由民主党にも立憲民主党から対立軸を奪い自分たちのものにしたいと考える人たちがいる。結果的に大林ミカ氏が自民党にも入り込んでしまった。河野太郎氏のタスクフォースは政府・自民党内部でもポジションが曖昧であり、なおかつ大林氏の地位もメディアによって委員とされていたり構成員とされていたりする。
統一教会と同じことが起きている。外国が日本に浸透するにあたって目をつけるのは、政党間・政党内部の競争である。次の利権なりそうなものを仄めかすことで議員たちを動かしてゆき、気がついた時には根幹に関わる政策に関与するようになっている。統一教会は我が国の家族制度やジェンダーのあり方に浸透していたが、中国も我が国のエネルギー政策に浸透しようとしていた可能性がある。
大林氏はタスクフォースからの離脱を図り「たまたまパソコンの操作を間違えただけ」と主張している。だが、政府との関係が強い中国企業の資料を使った理由は説明していない。
これについても政府の説明はわかりやすく混乱している。おそらく状況を整理して振り付ける政府広報機能が不在なのだろう。読売新聞はなぜか断定的に「河野大臣が推薦した委員」が中国企業のロゴのある資料を使っていたと説明する。ところが官房長官の説明によるとこのメンバーを見つけてきたのは事務方ということになっており河野太郎大臣は承認した側に回ってしまっている。
実際には河野太郎大臣が推薦し河野太郎大臣が承認したということのようなのでどちらも間違いではない。つまり自作自演であり説明責任は河野大臣が追っている。SNSの発達によりそれぞれの新聞の付け合わせが容易にできてしまう。これがわからないのは河野太郎大臣がブロックづかいの名手だからであろう。
だが自民党・岸田政権はこの混乱を抑えられない。これも広報機能の不在を物語る。そのため議員や大臣の中には徹底的な原因解明を求める人たちがいて状況が混乱している。
そしてこの手の混乱は外国に付け入る隙を与える。
今回の迷走はおそらく読売新聞のドンである渡辺恒雄氏と会談したところから始まっている。読売新聞は岸田総理を支えるために全面的に支援をすることに決めたのではないかと思う。岸田総理を守り、安倍派・清和会をおとしめる報道が始まった。ところが政府側に対応する人がいない。もちろん渡辺主筆が状況を整理するようなこともないだろう。報道は先行するもののどうしても煽りがちとなる。結果的に状況がコントロールできなくなりつつある。
だが野党も本音では現在の難しい状況で政権を引き受けたいとは思っていないだろう。将来政権が取れるかもしれないという立ち位置が選挙上は最も有効だ。対抗する野党もないために、岸田政権は国民に語る力を完全に失ったまましばらくは走り続けざるを得ない。
従来の政権批判は当然「代替する野党に対する支援」だ。だがそもそも政権を引き受けたがる代替野党がない。つまり政権批判そのものが成り立たない状態が生まれている。
いずれにせよ、次の焦点はおそらく世耕弘成前参院幹事長の会見であろう。マスコミ選考で一方的に悪者にされておりどこまで明確に反論するのかあるいは岸田総理に平伏するのかに注目が集まる。なんとなく不発に終わるのかなあという気はするのだが、まずは期待して待ちたい。