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ラファ惨劇前夜のイスラエル戦時内閣が混乱・空中分解の危機

イスラエルは国際的に孤立する中でラファの地上波攻撃に踏み込もうとしている。仮にラファ攻撃が行われれば近年稀に見る人道上の大惨事になるだろう。日本のメディアはほとんど関心を持っていないがアルジャジーラがこの間の展開をアップデートし続けている。

人道危機やアメリカとの関係悪化などさまざまな切り口があるのだが今回はイスラエル戦時内閣の混乱を追った。憲法改正議論の緊急事態条項の参考にもなるかもしれない。

もともと一枚岩でなかったイスラエルの戦時内閣が崩壊の危機に堕ちっている。バイデン大統領とネタニヤフ首相の関係も悪化しており、イスラエルがコントロール不能の状態に陥る可能性は極めて高い。

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イスラエルがハマスから攻撃を受けた。この攻撃は国家の緊急事態であるとしてネタニヤフ首相は戦時内閣の招集を決定する。

戦時内閣はネタニヤフ首相にとっても政敵にとっても渡りに船であった。両者の間には司法改革という難題がある。

ネタニヤフ首相は最高裁判所の権限を奪い自分の地位を確かなものにしたい。極右・超正統派は自分達の考えるパレスチナ統治を最高裁判所に邪魔されたくない。一方で数で劣っている野党は司法改革を凍結し先延ばしにできる。

考えれば誰でもわかることなのだがこれで問題が解決するわけではない。対立関係は全て積み残された。

戦時内閣は憲法のないイスラエルにおける緊急事態条項とも言える。日本でも憲法に緊急事態条項を入れるべきという議論があるが、出口戦略なき緊急事態宣言はおそらく民意からの絶望的な乖離を生み出すだろう。

まず、ネタニヤフ首相の政敵であるガンツ元国防大臣(司法改革に反対している)がアメリカ合衆国を訪問しネタニヤフ首相の頭越しにホワイトハウスと対話を始めてしまう。これに怒ったネタニヤフ首相は「イスラエルの首相は自分だけだ」と反発した。

そんな中、最高裁判所が2つの疑問を政府に突きつけた。「なぜ超正統派の人たちの徴兵に関する法律がないのか」と「なぜ超正統派の宗教学校にイスラエル政府が資金を提供し続けるのか」である。ネタニヤフ首相を支える極右勢力にとっては由々しき事態だ。締め切りは3月末に迫っているが、ネタニヤフ政権はまたも改革を引き伸ばそうとしている。

つまりネタニヤフ首相と極右勢力は選挙を行え無くなっている。選挙を行えば最高裁判所の言い分が通りやすくなり極右勢力は特権を失うだろう。

CNNによるとガンツ元国防大臣(青と白)は引き伸ばしに反対しておりヨアヴ・ガラント国防大臣(リクード)も戦時内閣の幅広い支持がなければ政策を支持できないと言っている。

ガラント国防大臣もホワイトハウスを訪問しており対話の内容が気になるところだ。2人とも超正統派が戦争に協力しないにもかかわらず各種補助金を受け続けているのを容認できないという立場である。

ギドン・サール氏(リクード)は戦時内閣とリクードから脱退した。もともとネタニヤフ首相に反旗を翻した経験のある政治家だったそうだが、なぜかリクードにいた。

一方で「ユダヤの力」のイタマル・ベングビル氏はハマスとの戦争を終わらせるならば自分は戦時内閣から手をひくと脅している。また現在はアメリカの反対があろうがガザ侵攻を今すぐ強行すべきだと主張する。

憲法のないイスラエルでは「戦時内閣」が議会を超越している。ところがその戦時内閣の中で意見が割れており戦時内閣は崩壊寸前だ。

それではイスラエル国民はこの状況をどう捉えているのか。最新の調査では57%がネタニヤフ政権の10月7日以降のパフォーマンスを評価していない。また超正統派の特権についても改革の必要性を感じている人が多いという。

日本で緊急事態条項というと「選挙を無期限に停止し独裁に陥る」という評価が多い。だが、戦時内閣にせよ緊急事態条項により固定化された内閣にせよ失政を積み重ね国民からの支持を失ってゆく可能性がある。国民選挙に裁定してもらえなくなった政権というのは悲惨なものだ。主導権争いが起きコントロール不能な状態に陥ってしまうのである。

イスラエルの場合は軍隊を背景にした人たちがアメリカの介入に期待する一方で宗教勢力はアメリカの意見など無視してそのまま戦争に突入しようとしている。「欲しいものを奪い取ってしまえ」というわけだ。今のネタニヤフ政権は国際的に孤立しておりそのままでは最悪の結末に向けて走り出しすことになるだろう。

実は今の日本でも似たようなことが起きている。国民は政治を信用しなくなっている。この政治には与党も野党も含まれる。だから政権交代が起こらない。政治と金の問題については司法の介入もないため、政府は世論操作を通じた支持回復しようとしている。

これが状況を混乱させている様子は別のエントリーで分析したい。

いずれにせよイスラエルの戦時内閣はかなり分裂含みの様相となっており、おそらく外からなんらかの手段を講じない限りはかなり悲惨な状況に向けて走り出すことになるだろう。

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