アメリカ合衆国は安全保障理事会においてこれまで一貫してイスラエルを擁護するために拒否権を発動していたがついに庇いきれなくなってしまったようだ。ラマダン期間の停戦を求める決議に対して拒否権を発動せず棄権した。イスラエルはこれに猛烈に反論しておりアメリカへの使節団を送らないことを決めた。歴史的な決裂といえる。
この歴史的な決裂がイスラエルを踏みとどまらせるかあるいは逆に暴発を招くのか。世界は固唾を飲んでその行方を見つめている。
まず目についたのは「イスラエルがアメリカに使節団を送らないことにした」という一報だった。どっちみち話し合うつもりなどないのだろうと思っていたのだが、理由が安保理決議案への棄権となっている。ということは安保理決議が通ったことになると気づいた。これは歴史的なことだ。
安保理決議案はラマダン期間中の即時停戦を求めるもの。ハマス側には人質の解放を求めている。総会決議と違い強制力があるが、今後どのような強制措置が取られるかあるいは単なる決議に終わるのかはこの時点ではわかっていない。アメリカは棄権を選択し日本を含む残り14か国は賛成した。ロシアが提案した恒久停戦は盛り込まれなかった。
アメリカが棄権に転じた背景には国際的な圧力があった。これまでパレスチナ国家承認に対して抑制的な姿勢を見せていたヨーロッパ諸国がイギリスのキャメロン外務大臣の発言を皮切りに相次いでパレスチナ国家承認の必要性を訴えていた。グテーレス国連総長は現在ラファ検問所を訪れており即時停戦と物資搬入を訴えている。人道状況は極めて棄権な状況にあり一刻の猶予も許されない。
そんななか、独自の和平案にこだわるバイデン政権は時間稼ぎのために「即時停戦を求める安保理決議案を出す用意がある」とサウジアラビアなどに伝えた。これがサウジアラビアのメディアに報道されるが時間が経つにつれ「即時停戦を希望する」という曖昧な表現であることがわかり、結局金曜日にこの提案はロシアと中国から拒否されてしまう。
イスラエルの暴走が止められないと憂慮したバイデン政権のハリス副大統領は「ラファ攻撃は結果が伴う」と警告していた。英語らしいわかりにくい表現だが「ラファ攻撃を強行すればアメリカもなんらかの行動を示さなければならなくなる」という意味合いである。
今後の焦点は当然、ネタニヤフ首相がこの一連のアメリカの警告を受け入れるか無視して暴走を続けるかということになりそうだ。第一報ではイスラエルはアメリカへの代表団の派遣を取りやめている。つまりネタニヤフ首相はバイデン政権とのコミュニケーションパスを切ってしまっている。これは暴走への危険な第一歩といってよいだろう。一方で戦時内閣を構成しているガンツ元国防大臣はホワイトハウスに接近しつつ戦時内閣からの撤退を仄めかしている。超正統派が兵役免除を主張しているためとされている。ユダヤ教の伝統を守り労働を拒否する超正統派は兵役を労働と見做している。一方でカナンの地はすべてユダヤ人のものであるとの主張も崩さない。
イスラエルの強硬派は「カナンの地は全て神様がユダヤ人にくださったものだからその意思に背けば天国でどう申し開きをしていいかわからなくなる」との理由でガザ地区への再入植を希望している。だが、彼らの計画にはパレスチナ人との共存はない。つまりイスラエルは本音ではパレスチナ人を西岸とガザから追い出したいと考えているのだろう。