二階俊博元幹事長が会見を行い次回の選挙への不出馬を表明した。会見ではっきりと「政治的責任を取る」とはしたが、お金の流れについてはいっさい説明をしなかった。最後に年齢について聞かれ「お前も、その年、来るんだよ」と反論したのが印象的だった。
このエントリーでは二階氏が不出馬表明に追い込まれるまでの流れをおさらいし、会見の内容を最後にまとめておきたい。よく考えると岸田総理に政治責任を問う内容になっている。
岸田総理が二階元幹事長と自らを処分する考えがあると伝わったのが3月19日から3月20日にかけてだった。19日に毎日新聞が伝えており20日に朝日新聞が伝えている。
処分は4月上旬になると報道されていた。安倍派は議員が還流を受けていたが、岸田派(宏池会)と二階派(志帥会)には派閥の不記載の問題がある。このため処分は不可避であるとされた。対象人数が多いことから「党の歴史上にない大量処分」が期待されていた。
3月20日ごろには塩谷氏(安倍派・清和会幹部)と二階氏(二階派・志帥会トップ)に重い処分案が検討されているという報道も出たのだが、二階氏については影響を恐れたのだろう。FNNはやや腰の引けた党内の声を伝えている。
ただ、党の要の幹事長を長く務めた二階氏への重い処分には、否定的な意見や「処分前に自ら出処進退を申し出てもらうべきだ」との声も上がっていて、慎重に対応を検討している。
このまま「重たい処分」の期待値が膨らむとまずいという思惑が働いたのであろう。党の幹部の巻き返しが図られる。つまり毎日・朝日を使って流れを作ろうとした誰かがいたことがわかる。
処分の報道が飛び交う20日に森山裕総務会長が「岸田総理と二階氏の処分は執行部で議論する」と表明した。安倍派幹部の処置は既定路線だがそれ以外はまだわからないというわけだ。
党紀委員会に上申する前に執行部で議論するのが前例になっているとした上で前例踏襲するとの説明だったが世論にできつつあった「岸田総理も含めて処分」という流れを変えようとした可能性がある。
岸田総理は新聞に頼ることにした。読売新聞の渡辺恒雄主筆と40分に渡る会談を行ったのが3月21日である。総理大臣が自ら読売新聞を訪れ「今後の意見交換」をしたと報道されている。
渡辺恒雄氏は今も主筆という立場にあり読売新聞の論調に大きな影響を持っている。普通の新聞社は政治部の記者が記者クラブから情報をもらって記事を流すだけなのだが、読売新聞ともなると権力者がわざわざ新聞社を訪れてくれるのだ。
その後、読売新聞で安倍派の幹部に関しては非公認以上の処分を行うとする発表が出た。これまでの流れを大きく変える報道だった。
非公認になると選挙での支援が受けられなくなるため選挙には極めて不利になる。この読売新聞社の発表がデジタル版に出たのが3月23日の朝だった。読売新聞社によれば21日と22日の両日に総理大臣を軸に党の幹部間で調整が続けられたことになっている。自民党は党内調査を詳細に行っていないため処分は幹部の匙加減になってしまうのだ。
この時の「読売新聞発表」では次のように色分けされていた。
- 安倍派は悪質性が高い。
- 岸田派は悪質性が高くない。
- 二階派については悪質さについての評価がなく「慎重に判断」とのみ記載されている。
ネット世論はこの段階で「安倍派の幹部に重い処分が出る」と歓喜した。ここから程なくしてTBSが独自として岸田総理が最後に安倍派幹部と面談を行い不十分な説明をフォローアップする意向であるなどと説明されている。悪質な安倍派は十分な説明責任を果たしていないという印象がある。そこでそれを重くみた岸田総理が自らリーダーシップを発揮し疑念を払拭したい考えだとの印象がつくられてゆく。
この流れが変わったのが週明けの3月25日だった。テレビ東京のインタビューで二階俊博元幹事長が次の選挙に出馬しないと伝えたと伝わった。
これまで「厳重処分路線」が朝日・毎日/TBS系から出ており、安倍派処断の報道が読売/日本テレビ系から出ていた。残るは日経/テレビ東京系だったことになる。
普段は記者クラブを使った横並びの記事が出るがこと権力構想の情報戦となるとそれぞれの陣営も必死になるものだ。
会見での説明は以下の通り。
- 岸田総理に出馬しないことを説明した。
- 後継候補については地元の支援者に任せる。
- 今後もさまざまな課題に力を尽くしたい。
- 国会議員で地方に配慮してくれたのは田中角栄首相くらいだった。悔しい思いをするくらいならと思い国政に出ることにした。
- 原点はいつも地方政治にあった。支えてくれた有権者に感謝したい。田中角栄先生を尊敬している。
一応記者たちは聞くべきことを聞いた。「代理者」は側近の林幹雄氏だ。
- 二階議員はなぜ政治倫理審査会に出席しないのか?
- 代理者が出席しないのは二階議員の意向と説明。二階氏本人は答えず。
- このまま引退するのか?
- それは地元の人(和歌山3区)が決めることだ。
- 岸田総理の処分の意向は影響したのか?
- 影響はない。自分で決めた。
- 総理の反応は? 連絡手段は?
- 総理に聞いてくれ。電話で連絡した。
- 広島の買収事件に関与したのか?
- 代理者が「裏金ではない」と反論。根拠は示さず。
- 離党するのか?
- 代理者が「その考えはない」と否定。
- なぜ引退するのか?
- 不記載のため政治的責任を取ったと強調。二階氏は「年齢の制限はあるか?お前も、その年、来るんだよ」と不機嫌になる。
- 今後政策を磨く場はどう維持するのか?
- それはみんなで考えればいいことだ。
事前に予測されていたことではあるが「責任は取る」とはしているものの具体的に何の責任を取るのかは説明していない。側には側近の林幹雄氏が付き添っていたが林氏も武田良太氏の説明が全てであるとして多くは語らなかった。
ネットの評判を見ると「逃げ切った」「やはり説明しなかった」と二階氏を批判する声が多く聞かれる。だが、冷静に考えてみると次のようになる。
- 安倍派は幹部が非公認などの処分を受けるだろう。
- 二階氏は「政治的責任を取って」次の選挙には出ない。
- では同じ程度の悪質性があるとされた岸田派の領袖はどうなのだ?
つまり、二階氏の引退はすなわち岸田総理の政治責任を問いかけるものになっている。だから二階氏は選挙に出ない理由を聞かれてはっきりと「政治的責任を取った」と強調したのであろう。今後の各社の分析に期待したい。