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鈴木財務大臣が「アベノミクスは終わったからさっさと増税議論をしようぜ」と提案 円安で国民の暮らしは疲弊

鈴木財務大臣が「アベノミクスは終わったんだからさっさと増税の議論をしようぜ」と提案した。もちろんこのような乱暴な言い方はしていないが意味するところは大体そんな感じだ。一方で国民生活は円安によりかなり疲弊しているようだ。補助金効果が剥落しインフレが表面化している。とても増税の議論など受け入れられそうな状態ではない。

時事通信の調査では「経済的なゆとりがない」という人が過去最高になっているので「なんとなく生活がきついなあ」と考えている人がいるとすればそれはあなただけの実感ではない。今後すぐに円安が是正される可能性は極めて低い。また新年度から準税金である再エネ賦課金が上がり実質的に電気料金の値上げが行われる予定だ。

政府・与党の方向性が悪いわけではない。ただ何も決めない、何も総括しないという姿勢のせいで国民はいつ終わるともしれない撤退戦を余儀なくされているというだけの話である。

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鈴木財務大臣が「増税議論の再開」を提案している。つまりアベノミクスが終わったんだからさっさと増税の議論をしようぜといっている。しかし、新聞がこれを書くと次のような表現になる。共同通信の表現は以下のようになる。何を言っているのかよくわからないという人が多いかもしれない。

鈴木俊一財務相は22日、日銀が17年ぶりの利上げとなるマイナス金利政策の解除を決めたことに伴う財政への影響について、金利上昇により利払い費が増えることで「政策的経費が圧迫される恐れがある」と懸念を示した。日本の国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率は高く、財政に余裕がなくなり必要な予算の確保が難しくなる可能性があるとの見方だ。

わかりにくい原因はいくつもある。「経費削減」と常にセットの表現になっている。また口が裂けても増税とは言わず「安定財源の確保」と表現される。国債の利払費が増えるために財源が必要と言っているのだから自動的にこれは増税になるのだが「増税」という表現は避けられる傾向にある。仮にそれでも増税を避けるなら社会保険料負担に混ぜ込んで徴収することになる。

アベノミクスは日銀の金融政策で時間を買う政策だった。つまり時間稼ぎだったわけだ。この間に生産性を向上させる議論を行っておくべきだったのだが過去の政権はこれをやってこなかった。いつまでもタイマーを止めておくわけにはいかないので日銀がついにストップウォッチのボタンを押して針が前に動き出した。

賃金を上げるためには生産性を向上させなければならない。生産性が向上しなければ単なるコストとなりそれを誰かが被らなければならない。大企業は賃金を上げてしまったのだから、あとは下請けがかぶるか消費者が負担することになる。岸田総理はそれを知ってか知らずか「政策を総動員して中小企業に賃上げを促す」としている。賃金はどうすると上がるのかということはおそらく考えていないのだろう。岸田総理の欠落は資本主義社会・自由主義経済に対する本質的な理解不足に起因すると言ってよさそうだが、国民が選んだ総理大臣なのでしばらくはこの人の下でなんとか凌ぐしかない。

Bloombergが政府の月例報告についての報道を読むと政府の経済認識は破綻しかけているようだ。現在必要な対策は悪性インフレ対応だが「成長の兆し」と「デフレ脱却」に言い換えている。極めて興味深いことにこう言い換えるとほとんどの国民は反論の術を失ってしまう。成長型経済への移行に向けてあらゆる政策手段を総動員すると宣言しているが、過去の成長戦略がなぜ効果を生まなかったのかについての総括はしない考えだ。

日銀はストップウォッチのボタンを押して針を前に進めはしたが内容は依然金融緩和的だ。このため円安が収まるかどうかはアメリカの金融政策に依存する状態だ。アメリカの金融政策さえ転換されれば135-145円台に回帰するのではないかと期待されているが現在は150円を超える水準で推移している。

かつてミスター円と呼ばれた榊原英資氏は「この状態は当面続くだろう」と見ており、155-160円を超える水準となればあまり効果はないと分かっていても為替介入をやった方が良いのではないかと考えているようだ。つまり当面現在の水準を超える円安の可能性もあると読んでいることになる。

当然国民生活は圧迫されている。内閣府が22日に「社会意識に関する世論調査」を発表した。2008年に調査が始まって移行「経済的なゆとりがない」という人が6割を超えており過去最高となっている。またしばらく落ち着いていた物価も再び上昇に転じた可能性がある。物価上昇のピークは2023年年末ごろの4%だった。その後は3%台に推移していたが再び2.8%に戻ってきている。

物価水準が見かけ上安定していたのは政府のエネルギー軽減策の効果だった。つまりこれも時間稼ぎだった。おそらく政府はエネルギー価格の上昇はポストコロナの一時的な現象だと見ていたのだろう。その場が凌げればいいと考えていたのだ。この時間稼ぎ効果が薄れ始めている。つまり現在の物価高は経済の好循環によるものではなく円安とエネルギー価格の高止まりによる外因性の悪性インフレということになる。

そんななか(すでにお伝えしたように)来年度から再生エネルギー賦課金が値上がりになる。標準課程の負担額は月に1396円だ。電気料金の値上げは5月分からになりそうである。ガソリン補助金も4月で切れることになっていて岸田総理は「5月以降も続けられるか」検討に入ることにした。ガソリン補助金も止めるにやめられない状態になっている。

通常の政府批判というと「政府が向かっている方向性が悪い」というものになりがちだ。政府与党の政策を批判することで「我々の方がいい政策を持っています」と主張できるからである。

だがそうした見方を離れて全体を俯瞰してみると違った見方ができる。

  • これまでの政策の何が悪かったのかを誰も総括せず
  • 時間稼ぎの政策も次々と限界を迎え
  • なおかつ誰も総合政策を作らないままダラダラと現在の政策が続けられ
  • あとは精神論で「なんとか賃金を上げてくださいお願いします」と訴えている

つまり、誰も何も決めないことが問題なのである。

国民生活は明日破綻するという状態にはないのだが誰も何も決めないことで悪化の一途を辿っている。少なくとも政治とカネの問題の総括ができない自民党がアベノミクスの総括をすることはできそうもないが、野党が代替案を持っているわけでもない。結局のところ国民はいつ終わるとも知らない終わりなき撤退戦を戦い続けることになる。

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