ざっくり解説 時々深掘り

金融緩和の終わり ついに日本も経済に興味がない政治家を放置したツケを払う時

日銀の金融政策が転換した。アベノミクスと書いて「時間稼ぎ」の時代の終わりだ。

経済を専門をとする人たちは大体このことがわかっている。また財務省・財政再建派もこのことがわかっているようだ。

しかし、政治家たちのXの投稿を見て驚いた。目の前で何が起きているのかに気がついていない人たちがいる。心底ゾッとした。

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外国の報道機関の記事から始めなければらないのは非常に残念だが、今回の件について最も端的にまとめているのがBBCだった。

鍵は生産性にある。

「もし日本が生産性と国内需要を刺激できれば、良いニュースになる。一方で、戦争やサプライチェーンの混乱といった外部要因によるインフレが続くなら、それは悪いニュースだ」

これを受けて「これは悪いニュースなのだが政治家の中には気がついていないどころかそもそも興味がない人が大勢いる」ということを書いてゆく。


生産性にはいくつかの要素がある。コストを下げたり無駄をなくす効率化と付加価値をつけて良いものを欲しがっている人たちのところに売る高付加価値化である。

賃金を上げるためには効率化ではなく高付加価値化に取り組まなければならない。

日本はこれまで弱い人たち(労働者と下請け)にコストを負担させてきた。これが行き着くところまで行き着いたためこれ以上コストが下げられなくなっている。また中国などの安い地点の工場が流出した。例えば100円ショップが乱立した時代には人々はナショナル・ブランドを捨てて100円ショップで物を買うようになった。

結果的に家電などの分野は崩壊状態に陥っている。自動車産業に依存する名古屋は比較的良い状態が続いているが家電産業の集積地だった大阪は衰退した。

これがアベノミクス時代の前半に起こっていたことだ。

仮に生産性向上(高付加価値化)に取り組まずに給料だけを上げると単に賃金はコストとなる。

コストプッシュ型のインフレだ。BBCは戦争やサプライ・チェーンの混乱(これはポストコロナ経済について言っている)を指摘しているが、実は政治的に上げられた賃金も経済にとっては外部要因になってしまう。さらに税金や社会保険料の値上げなどもコストプッシュの要因となり「悪いインフレ」の原因となるだろう。

これを和らげようとして中途半端な金融緩和を続けるとスタグフレーション状態が定着する。

複数の政治家はXで「中小も賃金をアップさせるべきだ」と書いている。これは支援者向けには正しい表現だが生産性向上が伴わなければ単にコストプッシュになる。

実際には「中小も賃金をアップさせなければならないが生産性向上を伴わなければならない。これから企業は大変だ」と続かなければならない。

中にはそもそも金融緩和の終わりに反対している議員もいた。安全保障やアメリカの状況には詳しいがおそらく「経済はアベノミクス擁護をしておけば支援者は満足するだろう」と気軽に考えているのだろう。

この人はおそらくゼロ金利解除が金融緩和の中途半端な継続であるという点にも興味がなさそうだ。

さらに別の人は「低賃金の人に配慮しなければならない」と言っていた。産業は低賃金労働者ばかりを欲しがっているがそれは良くないという含みだ。実はこれはアベノミクス前半の議論の100円ショップが増えていた頃の議論である。おそらく産業政策そのものに興味がないのだろう。

現在は低賃金労働者だけでなく高い技能を持った労働者が足りなくなっている。大量退職時代に引き継がれなかった技能や中国など海外に流出した技能がある。

かつて日本人が持っていた持っていた知識はマニュアル化されていない暗黙知である。つまり大量退職と海外流出時に知的資産が蒸発・流出してしまっている。さらに少子化でそもそも雇える人がいない。知識と人材の絶対数の不足は供給上の制約になる。

SNSの投稿を見るまで日本の政治家は「生産性を高めて効率よく稼がなければ賃金の底上げなどできない」という事実がわかっていて無視しているのだと思っていたのだが、そもそも関心がない人もいるようだ。

そんな中、文春が2016年の埼玉県連青年局の夜のお楽しみについて面白おかしく報道している。二次会でSM緊縛パーティーをやっていた写真が流出した。いったい彼らは何をやっているのだろうという気になる。

もちろん「わかっている」政治家も混じっている。それが玉木雄一郎国民民主党代表だ。大蔵省・財務省官僚なので今回の件が理解できているのは当然だ。だが玉木さんには別の難点がある。経営者たちと結びつけなかったため労働組合と結びついてしまったが故の限界である。

第一に本来なら中央銀行は政策変更の数日間は情報を遮断しなければならない。今回日銀はそれを破っており「問題だ」と指摘している。さらに中小企業の賃上げの余力を慎重に見極めるべきだったと言っている。おそらく中小企業は追従しないことがわかっているのだろう。

この日「セブンイレブンで400円以下の弁当が拡充された」というニュースがあった。昼休みにコンビニの前には多くの車が駐車されている。レストランなどで食事をせず節約のために車の中で食べている人たちが都市近郊や地方に多い。さらにその弁当にも節約思考がみられるということになる。労働者の実質賃金が上がっていないことを示唆している。

賃上げが叫ばれる中、物価動向を考慮した実質賃金は今年1月まで22カ月連続でマイナスが続く。統計上では、賃金上昇が物価高に追いついていないのだ。そうなれば、消費者の財布のヒモは当然堅くなる。セブン-イレブン・ジャパンの青山誠一商品本部長は、「足元の物価高で経済性を求める消費者が増えている」と語る。

玉木雄一郎さんも指摘するように市場は金融緩和策は当面継続と見做した。このため円安と株高になっている。結果的に株価は40,000円台を回復し円は151円近辺まで下落した。通貨が下がり株が上がるというのはアルゼンチンやトルコなどの発展途上国で見られる形である。つまりコストプッシュと金融緩和というスタグフレーションの要因が揃ったことになる。セブンイレブンの弁当が示す労働者の未来はかなり暗い。

日銀の統計処理が恣意的で実はサービス価格は実質的は下がっているのではないかと指摘をする人がいる。また、ロイターも次のような声を紹介している。冒頭でBBCが指摘した点について「外因性のインフレである」と言っていることになる。つまり今回のニュースは悪いニュースになる。

その点、足元のインフレ率を分解すると輸入物価が過半となり基調的なインフレ率は1%に満たないとの試算もあり、まだ距離がありそうだ。

ただし玉木雄一郎さんは「生産性のない企業は潰れるべきだ」とはいえない。中小企業の正規労働者などが国民民主党を支えているためである。このため中小企業への賃金上昇が鍵であると主張を弱めている。この辺りが国民民主党の限界なので国民民主党は連立相手が必要になる。だが、おそらくそれは玉木さん自身がよく知っていることであろう。問題は経済に興味がある政党が右にも左にもないという点である。

左右どちらがわかっているかと問われれば当然右の方がよくわかっている。では自民党は今回の件をどう考えているのか。

彼らは国民経済のメジャーリーグとマイナーリーグ状態が続くことはわかっている。またメジャーリーグがマイナーリーグの面倒を見ることはないと知っている。

このため鈴木財務大臣、林芳正幹事長、自民党サイドの古川財政健全化本部長は経済指標に良い兆候が見られるため財政再建の舞台は整ったとしている。

一方で中小企業や地方に波及しないこともおそらくは織り込んでいる。これがよくわかるのが鈴木財務大臣と林芳正官房長官の発言である。それとこれとは話が別だとして論理破綻を防いでいる。

日銀は2%物価目標の安定的実現が見通せたとして政策変更に踏み切ったが、鈴木財務相はデフレ脱却か、との問いに対し「別物だ」とした上で、「今回の政策変更をもってデフレ脱却とはならない、デフレ脱却はいろいろな指標を総合判断する」と語った。(鈴木財務大臣)

林芳正官房長官は19日の記者会見で、日銀のマイナス金利解除の決定を受け「政府としてデフレ脱却は、物価が持続的に下落する状況を脱し再びそうした状況に戻る見込みがないことを定義としている。その判断は金融政策の変更そのものと連動するものではない」と述べた。(林芳正官房長官)

林芳正官房長官の発言に対して「日銀の政策と政府の見方が違っているということは共同声明をも直すということか?」という質問が飛んだ。一応それなりに戦った記者はいたことになるが、林芳正官房長官は正面から答えなかった。

ここからまとめると次のようになる。

  • 今回の金融緩和変更は消費者と国内労働者には悪いニュース
  • 政治家の中には国内の困窮がわかっていて突っ走ろうとしている政治家、わかっているが何もできない無力な政治家、そもそも興味がない政治家が混じっている。
  • 統計を見ると経済の好循環を実現する環境が整っているとはとてもいえないため中小の賃金上昇は限定的と考えられる
  • 逆にいえば日銀にとっては大企業の賃上げが実現しなおかつ中小企業の賃上げ状況がわかっていない今が政策変更のチャンスだったことがわかる
  • 財政再建派はこれを奇貨と捉え是が非でも国民の負担増に向けた議論を再開させたいと考えている

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