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ライバル野党不在で緩み切った自民党が反省なき党大会 岸田総理は孤立と苦悩を深める

スマホ用の記事のマーカーに「ざっくり」をつけることにした。「ざっくり」とついていない記事はやや長めになる。


自民党の党大会を前に岸田総理が全国幹事会、青年局、婦人局の会合に出席した。幹事会では岸田総理に対して政治とカネの問題を解決せよとの要求が出された。だが、地方でも政治資金の杜撰な使い方が明らかになっている。つまり地方組織が自らの襟を正さない限り国民の政治不信は払拭できないだろう。強力な野党がなく負担増に諦めムードになる中で自民党に自浄作用は期待できない。

一方で全く別の角度からこの問題を捉える人がいる。政党や派閥が俯瞰する力を失ったことで政策立案ができなくなりつつあるというのだ。政策立案ができないと状況が打開できない。すると人々は政治に対する興味を失ってしまう。悪循環が生まれている。

緩みと焦りが交錯する自民党では岸田総理の孤立が深まっている。任期満了・退陣がほぼ既定路線となりつつあるが、岸田総理は突発的な行動で周囲を慌てさせることがある。公認調整が進まない中、仮に自爆解散が行われれば選挙とその後の国政に大きな混乱も予想される。

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3月17日に自民党の党大会が行われる。なんと言っても一番のテーマは政治と金の問題の処理だろう。

地方組織は党本部に対して早くこの問題にケリをつけるようにと岸田総理らに要求を突きつけた。だが、実は地方組織こそが問題の根源ではないのかと思える。

地方組織でも政策活動費の不透明な使われ方が問題になっている。共同通信は自民党の県連などにアンケートを送ったが「調査をするつもりがない」という県連が多かったそうだ。所詮他人事と考えている地方組織が多いということになる。

自民党の議員たちは地方のたかりに疲弊している。資金集めと地方の要求に疲弊していたと証言する元議員も少なくない。この体質を改めない限り国民の不信感を払拭することはできないのだろうが地方組織の自らの襟を正すような姿勢はなさそうだ。

和歌山県連の「不適切な懇親会」も気になる。こちらも当事者の離島でうやむやになりそうだ。

おそらく自民党の議員の中にも真面目に政策を追求したいという人はいるのだろうが悪貨は良貨を駆逐するの諺通りに「不適切な人たち」が選抜され生き残るような土壌が出来上がってしまっているのかもしれない。首相は青年局・女性局に対して緊張感を求めたそうだが、おそらく馬耳東風だったのではないか。

やはり敵の不在は大きかった。政権を失うかもしれないという恐怖心だけが無軌道さを防いでいたのだろう。これがなくなったことで規律を守る必要がなくなった。

各地方選挙区では公認権争いが多発しており緩みの一端は明らかになっていたが今回の政治と金の問題で緩みがかなり深刻な状態になっていたことが明らかになった。保守対決の構図を見ると、大抵の場合「長老」と呼ばれる人たちが関与しており政策ではなく好き嫌いや昔の恨みなどによって候補者が選ばれていることがわかる。自民党組織が内輪化しているのだ。

それを打開したい人たちはどこかからお金を集めてきて党内買収を行うようになった。一審で執行猶予付き有罪判決(東京地裁は懲役2年、執行猶予5年)が出た柿沢未途氏などがその事例だ。逮捕されれば公民権停止では済まないことはわかっていたはずだがそれを上回る切実さがあったということだ。

そんななか、岸田総理が孤立感を強めている。昨年9月に茂木幹事長を更迭しようとしたとして茂木幹事長に恨まれており今回の政治と金の問題ではサボタージュがあったと伝わる。一部週刊誌はいよいよ茂木幹事長を更迭するのではないかと面白おかしく書き立てている。

安倍派の幹部たちにも反省の色はなく参議院政倫審は幹部対所属議員の泥試合に終わった。

全ては政策でなく人間関係で決まってしまう。誰も責任を取ろうとせずひたすら相手を指差して罵り合っている。

今回、岸田総理は地方に対して「車座集会」を要求している。自分自身が思いを伝えればきっと国民はわかってくれるだろうと考えているのだろう。

そんな中、御厨貴氏の興味深い文章を見つけた。

表題は「安倍元首相は「1年生議員は選挙のことだけ考えればいい」と言った…日本の政治家が劣化してしまった根本原因」となっており、安倍政権と小選挙区制が諸悪の根源であるというように読み取れる。

だが、実はそれがメインテーマというわけではない。かつての政治家は頻繁に東京を離れて俯瞰的に日本の状況を見る精神的な余裕があったと指摘している。一見「昔の政治家は良かった」というよくある老人同士の対談と思える。だが「なるほど」と思わせるところはある。

確かに状況から一度離れてみないと政策立案などできるはずもない。

現在の政治家は与野党共に状況に張り付きすぎになっていることは、SNSのXを見れば一目瞭然だ。

与野党議員たちは常に地元のイベントを周り、駅頭で演説を行い、政権について支持者たちに訴え、他の政党の悪口を言っている。若手の議員たちはたかり体質が染み付いた地方議員たちや支援者たちの相手もしなければならず「とても政策どころではない」と疲弊している。そればかりではなくSNSの活動もまた政治家には重荷になっているのかもしれない。

国内・国外情勢を俯瞰する時間がないばかりでなく、そもそも政策について考える時間さえ残っていないということになり、これは日本にとっては必ずしもいいことではない。

それでも若手議員たちはXなどを使い国民と直接対話する手段を持っている。しかし、岸田総理にそのようなスキルはないため「地方に車座をセッティングるするように」と要望するしかなかった。仮に正直な車座がセッティングされたとしても「国民はこれ以上社会保障費を負担できない」「今の苦しい暮らしをなんとかしてくれ」と言われるだけに終わってしまうのではないか。地方組織が参加者を厳選してしまうと厳しい声さえ耳に入って来なくなるだろう。どちらにせよあまり意味があるとは思えない。

公明党は公然と「岸田総理では戦えないので新しい総裁を選んでから選挙をやってくれ」と要求している。立憲民主党の枝野幸男氏も「次の総選挙は上川陽子総理なのではないか?」と予想している。

実際に解散権が封じられてしまうと総理大臣としては既に終わったも同然となり政権はレームダック化するだろう。財源の議論は総裁選の後に先送りされることになり、また同じような議論が展開されることになってしまう。

現在、最も懸念されるのが追い込まれつつある岸田総理の気性である。これまでも追い込まれると何の調整もせずに突発的に決断を下すことがあった。

例えば、総理大臣が突然解散を表明するとそれを止めることができる人は誰もいない。公認調整が進まず自民党系の複数の候補者が乱立する危険性もある。有権者が候補者を選択した後に政党や派閥の組み替えが起こるという事態になるため選挙後は大混乱するだろう。

おそらく政治と金の問題の本質は「清潔さの回復」ではないのだろう。与野党共にこの問題に没入してしまい明日の日本について俯瞰的に考えられなくなっているという点こそが最も大きな問題なのだ。

だが党大会前日の報道を見る限り自民党がこれに気がついている様子はない。国民の苦難はまだまだ続きそうだ。

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