アメリカ合衆国がイスラエルとの関係を扱いかねている。ついにユダヤ系のチャック・シューマー民主党上院院内総務が「ネタニヤフ首相を取り除くべきだ」と発言し波紋が広がった。ホワイトハウスは発言から距離を置き、共和党は「内政干渉だ」と発言を批判する。もちろんイスラエルもこの発言には猛反発している。
チャック・シューマー氏は上院の民主党のトップである。現在上院は民主党が支配しているため与党トップということになる。今回ネタニヤフ首相は取り除かれるべきだと発言し物議を醸している。BBCによるとチャック・シューマー氏は長年イスラエルを支援してきた最も高位のユダヤ系の公人である。
イスラエルのネタニヤフ首相が延命を図っておりそのためにガザ地区を利用しているのは明白である。軍部は長年苦しんできたガザ地区からの攻撃を無力化させたいと考えているだけだが、超正統派はカナンの地はすべてユダヤ人のものであると考えており意見に大きな隔たりが見られる。
イスラエルが何を最終目的にしているのかはよくわからない。だが、支援物資の流入を阻止しガザ地区からパレスチナ人を追い出すか中で餓死するのを待っているのではないかと思える行動が多い。ついにバイデン政権も「何もしない」という選択はできなくなり、埠頭経由で物資を運び入れる計画を検討し始めた。ただしガザ地区には上陸しないという腰のひけた対応となっている。
シューマー氏が踏み込んだ発言を行ったのはイスラエル政府の強硬な動きがアメリカ国内にいるユダヤ人にとって好ましくないものになりかけているからではないかと思う。また、非ユダヤ系がこのような発言をするとユダヤ人いじめと見做される可能性がある。つまり当事者だから言いやすいという背景もあるのかもしれない。またユダヤ人と言っても穏健なユダヤ人と超正統派と呼ばれる人たちの間には大きな認識の差がある。超正統派の人口が増えイスラエルの政治状況が右傾化するに従ってテック産業を支えてきた穏健なユダヤ系が国外に退避する動きも出ていた。司法改革によってビジネスに不利な状況ができつつあったためである。彼らの多くがイスラエルとアメリカの二重国籍を持っているため、ユダヤ系で最も力があるシューマー氏の発言にはイスラエルの内政にそれなりの重みがある。
バイデン大統領の姿勢は極めて腰がひけている。ラファへの攻撃はレッドラインであるとはしているものの何があってもイスラエルへの支援はやめないと言っている。事実上レッドラインはないという発言になっている。このためネタニヤフ首相はハマスを根絶するためにラファへの攻撃も行うと表明しつづえている。バイデン大統領のレッドライン発言は容認だと見做されてしまっているのだ。
バイデン大統領はネタニヤフ首相に説教をすると非公式に発言している。直接介入を仄めかすと内外に混乱が広がりかねないためリークという形で意思表明をせざるを得なかった。国際政治学者の鈴木一人氏は「実はバイデン政権がネタニヤフ政権を引きずり降ろそうとしていた」とするエルサレム・ポストの記事を紹介している。エルサレム・ポストのネタニヤフ政権との関係が分からないためこの記事にどのような含みがあるかは不明だが状況が複雑化していることだけは見てとれる。選挙によらない体制転覆が行われていたとしたらこちらの方がタチの悪い内政干渉ということになる。
一方でミッチ・マコネル共和党院内総務はこの発言を類を見ないグロテスクなものだとして批判した。イスラエルはアメリカにとっては外国なのだから、この発言は内政干渉に当たるというのである。当然イスラエルも発言には抵抗している。
チャック・シューマー民主党院内総務の発言はイスラエルだけでなくパレスチナ側の体制変換も求めている。つまり全てをチャラにして全部やり直すべきだとの主張なのだろう。当然選挙を行ったとしてもアメリカ合衆国の意図する通りになるかどうかはわからない。しかし民主主義国家という建前上は「選挙をやり直せ」としか言えないのだ。