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アメリカ下院でTikTok禁止法案が可決 アメリカの議会で進む保護主義化の動き

このところアメリカの議会で次々と選挙を意識した保護主義化の動きが進展している。日本製鉄のUSスチール買収にバイデン大統領が懸念を表明した。日本のメディアはこれに神経を尖らせている。一方若者は「あのTikTok」がアメリカで使えなくなるかもしれないいうニュースにショックを受けているかもしれない。TikTokに関してはトランプ氏が反対しているにもかかわらず議会主導で禁止法案が審議されている。議員たちが選挙を控えて排外主義的な動きを加速させていることがわかる。議員たちは必ずしもトランプ氏を個人的に信奉しているというわけではない。選挙に有利だからトランプ氏を支援しているのだ。

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バイデン大統領がUSスチールはアメリカ資本であり続けるべきであると表明した。事実上日本製鉄の買収を阻止する動きだ。共同通信も時事通信も「日本企業だからという理由で排除された」と反応している。一方で日米同盟に深く依存する心理状態からも抜け出せない。このため「日本製鉄を名指しすることは避けた」と付け加えるのも忘れない。岸田総理は4月に訪米を予定しておりアメリカ合衆国に敵対的なコメントを出せない。林官房長官はこの件についてコメントを避けたと伝わっている。日本のアメリカに対する屈折した感情がよく伝わってくる。

全く別のニュースにTikTokがアメリカで使えなくなる可能性があるというものがある。若者が楽しむだけのアプリがなぜ禁止されるのかと不思議に思う人が多いのだろう。日本でも大きな話題になった。

もともとトランプ政権下ではTikTokの規制が検討されていたそうだ。バイトダンスにアメリカ事業の売却を迫り応じない場合アプリ配信を禁止するとの方針をとっていた。この時には連邦地裁が差し止めてことなきを得ていたと毎日新聞が書いている。

アメリカでは超国家的に成長した企業に対する敵意が徐々に高まっているようだ。例えばSNSのX(旧Twitter)にもアルゴリズム問題があった。何がバズるのかはTwitter社の決めたアルゴリズムによって左右される。また何が正しくて何が正しくないのかもTwitter社のモデレーションルールによって左右されることになる。他者から支配されることを嫌うアメリカ人はこれを許せない。

2024年1月31日にはSNSが若者に与える悪影響に関する公聴会が開かれた。公聴会とは名ばかりで実質的な吊上げの会議になっていた。経営者たちに厳しい指摘が相次ぎMetaのザッカーバーグ氏とスナップのシュピーゲル氏は謝罪に追い込まれたそうだ。

今回のTikTok禁止法案は「TikTokは中国の影響を受けているかもしれない」という恐れにも起因している。アメリカの諜報機関の当局者らは「中国政府がアルゴリズムを武器化する可能性は排除できない」としており被害者意識の高まりが感じられる。

若者(Z世代)には当然反発がある。レッドパージ(赤狩り)を連想させるという反発があるほか抗議運動も起きている。また政治家たちのオフィスに電話が殺到しているという情報もある。

CNNの英語版によると法案は超党派の法案として審議された。352対65という大差で可決している。ただし上院でこの法案が可決され成立するかは未定である。

ムニューシン氏が買取を検討していると伝わるが、TikTokはあまりも大きすぎる。買い手になれる企業はすでにSNSを持っている可能性が高い。すると今度は独占禁止法上の問題が出てくる。また表現の自由に関する懸念があるため法案が可決されたとしても法廷闘争に入る可能性が高いそうだ。法廷闘争は年単位で続く可能性があるという。

アメリカの政治は党派性をめぐる争いに完全に飲み込まれてしまっている。人々は合理的に行動していると主張するが、一方では「何者かに自分達の合理性が支配されているのではないか」という合理的とは言えない恐れも抱える。

今回の騒動はジャーナリズムの歴史という観点からも興味深い。ここで政治と言論の関係についておさらいしておきたい。

最近、しんぶん赤旗が公器なのかそうでないのかが話題になっている。中央大学の中北浩爾教授がしんぶん赤旗から批判された。氏が反論の掲載を赤旗に求めたところ掲載を拒否された。小池晃氏の掲載拒否の根拠は「赤旗は機関紙である」というものだった。共産党の支援者たちの一部がこれに動揺したようだ。これまで「家族で読める一般紙」のような体裁で販促を行なっていたからである。産経新聞は日本共産党側の主張を次のように伝える。

これに対し、小池氏は当時の訴えは「産経新聞が多大な影響力と公共性を持っている一般新聞であることなどを踏まえて対抗措置を認めるように求めたという性格」と指摘。その上で「一般新聞とは全く異なる政党機関紙(赤旗)を同列に置いて反論掲載を求めるという議論は成り立たない」と主張した。

もともとイギリスには「パンフレット」と呼ばれる機関紙しかなかった。そこに新しい貿易を生業とする市民層がつくられる。彼らは自分達の仕事を有利に進めるために政治的に偏りがない情報を求めるようになった。そこで生まれたのが広告や購読料に依存する新聞という新業態だった。ジャーナリズムは正義を守るために存在するわけではない。あくまでも商業として成り立たせるために公平性が必要だったのだ。つまり商業として成り立たなくなればジャーナリズムは崩壊することになる。

新聞は富裕市民層という背景があって成り立つ極めて特殊なメディアなのだが経営基盤はSNSの誕生で大きく揺らいでいる。多くの人々はお金を払わずに情報が取れるようになったがどんな情報や意見に接するかはアルゴリズムと呼ばれるプログラミングに左右される。広告が人々の行動を支配するというこれまでにない世界である。近年はこれにAIモデレーションが加わるようになり状況は極めて複雑化している。。

議会はTikTok叩きをしているが実はトランプ氏はTikTok叩きには反対しているそうである。トランプ氏はむしろFacebookを叩きたい。毎日新聞はザッカーバーグ氏が民主党の多くいる地域を支援したことが恨まれる原因なのではないかと言っている。

トランプ氏は、フェイスブックに遺恨がある。運営する米IT大手メタ社のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、新型コロナウイルス禍のさなかに実施された2020年大統領選で、選挙運営の実務を支援した。しかし、共和党のトランプ氏の支持者らは、支援が民主党の地盤が強い地域に偏っていたと批判。トランプ氏がフェイスブックを「国民の敵」と呼んだのには、こうした背景がある。

また、CNNはトランプ氏のアカウントBANも恨まれる理由になったのであろうとしている。トランプ氏の批判効果は凄まじく600億ドルの資産価値が失われたそうだ。

トランプ氏が7日夜に攻撃を開始して以来、メタの市場評価額は600億ドル(約8兆8000億円)あまり下落した。

META社が運営するインスタグラムとTikTokは競合関係にある。だからTikTokをいじめるとかえってMETA社に顧客が流れかねないとトランプ氏は気にしているのだ。

アメリカの言論の自由は中国とは違う理由で制限が加えられようとしているが、結果的には国家が言論機関に検閲を加えるという意味で同じようなことが行われている。普通なら「言論期間の統制は民主主義の圧迫につながる」とまとめたいところなのだが実は市民層の没落が起きていおりジャーナリズムの基盤が根底から揺らぎつつある。SNSはかえってアルゴリズムを使った大衆扇動につながりかねない。これまでの文脈で言論を語ること難しくなっている。

そもそもインターネットを誰が管理するのかについても意見が割れている。日本を含む欧米はインターネットは複数の民間事業者によって管理されるべきだと考えるが、ロシアと中国が国家がネットを管理すべきだと主張している。このため「インターネット」という一つのネットワークで世界がつながっているという体制はそのうちになくなってしまうのかもしれない。

今回のTikTok禁止法案の裏にはアメリカの保護主義化と市民階層の没落という要因がある。これらの要素が複雑に絡み合い、結果的に若者が気軽にダンス動画を上げるための娯楽の場が奪われようとしている。

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