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政倫審と政局の影で着々と進むスタグフレーションの固定化と国民負担増の議論

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現在、国内政治は3つのトラックが走っている。政治とカネの問題、岸田総理対茂木幹事長の争いという政局問題、そして国民負担増の議論だ。このうち政治課題として語られることが多いのは政治とカネの問題なのだが、国民生活においてはスタグフレーションと負担増議論の方が重要度が高い。ところがこの全体を支える政権自体が極めて不安定な状態に陥っている。岸田総理が孤立し突発的に何かやりかねない状態になっているのだ。

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不透明なことが多くあまり軽々なことは書けないのだが、どうしても野田政権の末期を思い出してしまう。財源議論に行き詰まった野田総理が突発的に解散を選択し民主党は政権を失ってしまったという一連の出来事である。2012年には自民党というまとまった政党があったが今はまとまった野党は存在しない。

野口悠紀雄一橋大学名誉教授が「日本は定義通りのスタグフレーションに入った」と宣言した。物価が上がっているにもかかわらず経済が成長しないという状態を指す。野口名誉教授は春闘も逆効果になる可能性が高いと指摘している。

日本の稼ぐ力が落ちているにもかかわらずインフレが始まってしまったと野口名誉教授は考えているようだ。ここで政府が介入し人工的に大企業の賃上げを行ってしまうとさらにコストプッシュ型のインフレが引き起こされるのではないかというのがこの記事の大体の主張である。

アメリカ合衆国でも「どうやら今回のインフレはかなり手強いらしい」という評価が生まれつつある。パウエル議長の設定した2%インフレという目標の達成はなかなか難しいのではないかというのだ。

スタグフレーション懸念があるにもかかわらず日銀は賃上げの興奮が冷めないうちにマイナス金利政策の解除を行いたいようだ。時事通信は週明けの政策変更に向けて具体的な調整に入ったと伝えている。すでに時事通信はYCCの撤廃を「独自」で報道しており、日銀のアドバルーンとしての機能を果たし続けていると言えそうだ。

岸田総理も「自分の手で景気の好循環を実現した」と宣伝したい。岸田総理と周辺はデフレ脱却宣言を考えている。財界はこの岸田総理の意向を汲み取って「マルクスもびっくり」という賃上げを決めた。この賃上げの動きが中小に波及するかどうかは極めて不透明だ。むしろ4月になると思っていたほど波及していなかったということがわかってしまう可能性がある。ここで岸田総理が有効なスタグフレーション対策を打ち出さなければ悪性インフレ(スタグフレーション)が日本でも定着するだろう。

なお日銀が根拠としているサービス価格の上昇について「これは疑わしいのではないか」とする記事がダイヤモンドオンラインに掲載されている。

さらに一歩進んで、賃上げが行われるのだから社会保障費も上げたいとする動きが出てきた。

このところ自民党の古川禎久財政健全化推進本部長は盛んに「日銀が金融政策を正常化させるのだから社会保障改革は不可避である」と言っている。社会保障改革は社会保障支出の削減と社会保障費用の増額を含んでいる。当然これもインフレによって生まれた状態である。

政府の説明にせよ国民民主党の説明にせよ、確実にやってくる負担増の議論と、あるかないかよくわからない費用圧縮や賃金上昇の話がセットになっている。

このため玉木雄一郎氏の「丁寧な説明」はSNSのXではかなりの反発を受けたようだ。最も印象的だったコメントは「ストーカーのような社会保障費が賃上げを追いかけてくる」というものだったが、いくら賃上げがあっても全部社会保障に持ってゆかれるのではたまったものではないという反応は決して少なくなかった。

ここから「岸田総理は国民を騙そうとしているのではないか」という話を展開したいところなのだがどうも様子がおかしい。政権基盤が大きく揺らいでいるようなのだ。

岸田総理は子育て支援について「丁寧に説明します」と約束しているのだが、いまだに具体的な試算が出てきていない。負担増の話には具体的な制度設計がなく1兆円とされる削減の実効性も不透明だと読売新聞が指摘する。

同じことが防衛予算にも言える。防衛予算も増加が国際公約化しているのだが実効性のある財源議論には着手できていない。

岸田総理が誤魔化していると言いたいところなのだがどうも様子がおかしい。補欠選挙を前にして増税・高負担の議論を封印すべきだという雰囲気が強い。ところが税調や財政再建派の人たちはこの機会を逃さず負担増の議論をすべきだと言っている。岸田総理はどうもこの二つの意見をまとめきれていないようだ。

さらに、党内にもゴタゴタがある。岸田総理と茂木幹事長の不仲が囁かれるようになっている。文春とデイリー新潮が同じような記事を書いている。

岸田総理は9月の内閣改造の時に茂木幹事長の排除を目論んだが麻生太郎氏副総裁に反対された。これに恨みを持っている茂木さんが政治倫理審査会の開催について党内調整をサボタージュしたという。周囲もあまり政倫審の開催に積極的ではなく予算を通すために政治とカネの問題を解決したい岸田総理の苛立ちが募っていったそうだ。結果的に総理大臣自らが政治倫理審査会に出ざるを得なくなってしまったのだという。

政治とカネの問題も解決できていないのに党内の財源議論などまとめることができるとは思えない。さらに玉木雄一郎国民民主党代表が顕在化させたように丁寧で正直な説明をしてしまうとかえって国民からの反発が高まりかねない。単に政府の政策に反対するだけでなく「今の医療福祉制度など全てぶち壊してしまえ」という過激な意見は決して珍しいものではなくなりつつある。玉木さんのXへの返信を見るとそのことがよくわかる。

財界は国民に対して負担増を説得してくれる総理大臣を求めているはずだが、公明党も公然と総理大臣の交代を要求している。形としては総選挙をやるのであれば総裁選以降が良いという発言だが含むところは「今の総理大臣では戦えません」というものだ。岸田総理の最後の拠り所はいつでも議員の首を切ることができる解散権なのだがこれも封じられかけている。

もう「詰んだ」と言える状態だが、現在想定できる恐ろしいシナリオは岸田総理が「突発性決断症候群」を発症することだ。つまり突然発作的に「解散総選挙」を選んでしまうというシナリオである。2012年に野田総理の「近いうち解散」と同じような状況と言える。この時には財源議論に行き詰まった野田総理の自爆解散だった。消費税増税に反対する人たちが民主党から離反したが消費税増税そのものは撤回されなかった。

仮に自民党が増税賛成(財政再建)増税反対に分かれたうえに野党もまとまらないとすると公認権の調整がつかなくなることが予想される。それでも「無所属保守」で立候補することは可能なのだから小選挙区で候補者が乱立する可能性もゼロではないだろう。最悪のシナリオでは、現在のような明確な第一党が作られることがなくなる。連立交渉どころか選挙の後で政党の組み直しが行われるという事態になる。その後の財政再建や経済対策の議論は大混乱に陥ってしまうだろう。

もちろんこんな極端なことが起きる可能性はほぼゼロに近いのだろうが、すでに派閥がほぼ機能しない状態になっているため公認権調整はかなり難しいものになるに違いない。

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