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ひっそりとアベノミクス終了予告 時事通信が「日銀YCC撤廃」の観測気球 円は一時146円台に

日銀は見切り発車気味にゼロ金利政策を撤廃しようとしている。この下準備としてYCCの撤廃が決まったようだと時事通信が伝えている。土曜日の朝に時事通信へのリークとしてこっそりと発表された「観測気球」で、金融政策決定会合を前に市場の動向を見極める狙いがあるものと思われる。アメリカの情勢変化もあり一時円相場が146円まで高騰したことから「何事か」と慌てた人も多かっただろう。

実際に何かが決まったわけではないが多くの人が大きな変化を予期している。

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日本の株式市場はバブル期を超える40,000円台をつけた。テレビ局は「今株が好調である」と盛んに煽り立て証券会社には問い合わせの電話が殺到しているという。ところが肝心の金融市場では大きな変化が起きている。

そんな中、日銀も歴史的な転換点に向けて秒読みとなった。時事通信のタイムスタンプは2024年03月09日07時12分になっているがYahoo!ニュースなどではあまり注目されなかった。

アメリカの株式市場は半導体株が牽引しているが実はハイテク株からの資金流出が始まっている。ゲームを仕掛けた「クロウト筋」が撤退を始めているのだ。テスラやアップルの過剰な期待は見直されつつある。短期国債の利回りが高いことからファンドマネージャーたちは安心して急激に資金を移動させることができる。ロイターBloombergがそれぞれ記事を書いている。

日本の株式市場は半導体主導・アメリカ依存になっている。今週の株式市場がやや心配だ。

特にアップルとテスラがかなり値を下げているそうだ。中国の需要低迷から業績が不安視されていた。アップルの場合はiPhoneがプロダクトサイクル上は成長期を終えているが、それに代わる新製品を出せていない。EVはプロダクトサイクル上は成長期の事業のはずだが「地球温暖化防止」を掲げていた政治勢力が退潮しつつあり期待値を維持できるかどうかがわからないという特殊な事情を抱える。また共に中国の資本主義の変化も気掛かりである。

NVIDIAに牽引されてきた半導体株も下落に転じた。これについてはもう少し複雑な事情がある。曖昧な雇用統計に振り回されている。金利が高止まりしているにも関わらずアメリカの経済は好調だと言われてきた。根拠になっているのが好調な雇用だ。ところが1月の速報値が実態とずれていることがわかった。結果として過去2ヶ月分の雇用の増加数が16.7万人に下方修正されているという。

アメリカでは雇用数は伸びているが失業数も増えている。また賃金の上昇の勢いも落ちている。多くの人が働いているが効率的に稼げているわけではないという状況だ。

アメリカの金利引き下げは6月ごろから始まるであろうとする予測が高まっている。また、リセッションは回避できるソフトランディングシナリオが優勢だがAIブームを牽引できるほどの実需は期待できないということになりつつあるようだ。現在、高い金利を求めてアメリカドルの需要が高まっているのだから当然このニュースはドル安に作用する。ドル安が進めば株価の好調も終わるかもしれない。

アベノミクス・クロダノミクスと呼ばれた政策は行き詰まりを見せつつあり日本銀行は早期撤退を模索している。アメリカの高金利と熱狂的な景気の良さという窓が閉まりつつあるため早めの撤退を行いたいところだろう。

仮に足元に弱い数字があったとしても植田総裁はゼロ金利政策の解除くらいは行っておきたいところである。日銀の政策委員たちは物価目標の実現(経済の好循環)に前向きな発言が相次いでいるという。今回のYCCの撤廃もその下準備の一つと考えられる。政策決定会合が18日19日に行われる。日銀としては市場が終わった後で観測気球を上げ週明けからの数日間で動向を確認したいのかもしれない。連合の第一回の集中解答が15日行われる。例年にない高い回答が得られるものと期待されているそうだがこの数字も見極めたいと考えるだろう。

円はYCC撤廃の観測気球とアメリカの雇用統計を受けて瞬間的に146円台に高騰したがすぐに147円台になっている。情報が整理できていない投資家はかなり焦ったのではないか。

政治は経済の足を引っ張る要素になっている。

バイデン大統領はFRBが金利を下げてくれるのではないかと希望的な観測を述べた。行政府のトップが中央銀行に対して「要望」を述べるのは極めて不適切だが、もはや驚くに値しない。一方でサマーズ元財務長官は「そもそも中立金利そのものがあまり下がらないかもしれない」と指摘している。つまり今後も高い金利が続く可能性がある。政治の見込み違いはインフレが始まった時にもみられた光景だ。FRBの対応は遅れボルカーショック並みの荒療治が必要と言われるほどの状況が生み出された。

同じようなことが日本でも起きつつある。総裁再選を狙う岸田総理は景気不要のためにデフレ脱却宣言を行いたいと考えている。周囲は「インフレが始まっているのにそんなことを言い出せば国民から反発されかねない」と冷ややかだが、本人がそれをどう感じているかは未知数だ。意外と聞く耳を持たない総理大臣だ。何をしでかすかわからない。

ただしこれはゼロ金利政策から脱却したい日本銀行と利害が一致する。世論が盛り上がれば日銀の政策変更に対する風当たりは弱まる。実際に景気の好循環が起こるかどうかは政治の責任であって中央銀行には関係がない上に、おそらく選挙対策として岸田政権は景気の好循環を喧伝するだろう。

日銀がゼロ金利政策を解除すると当然それについてゆけない企業・国民が出てくる。人々が盛んに言っている「スタグフレーション」とか「悪性インフレ」と呼ばれる状況だ。ロイターの記事には次のような記述がある。足元の数字が実はあまり良くないということは日銀も知っている。

一方、日銀は決定会合で、生産や個人消費の現状判断を引き下げる方向で検討している もっと見る 。日銀では生産や消費の落ち込みは一時的とみており、経済が緩やかな回復を続けるとの先行きの見通しは維持される公算が大きい。ただ、足元の判断を一部の項目にせよ引き下げる中で、マイナス金利解除を決めることに難色を示す政策委員が出てくる可能性もある。

時事通信も「ついてゆけていないセクターが多い」からデフレ脱却宣言はできないだろうと分析する。

仮にここで日本銀行が「ついてゆけない人たちを救済するのも自分達の仕事である」と考えればマイナス金利解除が行われない可能性がある。だが、岸田総理がデフレ脱却に前のめりなことから「この際総理大臣のスタンドプレイを利用してはどうか」と政策委員たちが考えてもなんら不思議はない。

YCC政策が撤廃されることで日銀は金利の上昇を許容することになる。これも株式市場にとってはマイナスに働く可能性が高い。国内企業が成長についてゆけない公算が高いからだ。また、政策転換の後にはパニックも予想される。このため日本銀行は「機動的な買い入れ」を利用して金利急騰・国債急落は阻止したいと考えているようだ。

日本の株式に関しては少なくとも一時的には株価下落が予想される。利益が確定される一方で業績予想が出てくる。また政策転換期にあるため長期的展望も難しい。

株式市場が分かっている人は「まあこういうこともあるだろう」と思うだろうが、今回のニュースでNISAに殺到したような人は「テレビ局に騙された」などと言い出すかもしれない。今週は連合の賃上げ集計と日銀の政策決定会合に注目したい。

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