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マクロン大統領の「ウクライナへの地上軍派遣の可能性も排除しない」発言が波紋 実現すればNATOとロシアの直接対決も 

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今回のテーマは「狂人理論」と「理由なき反抗」の対立である。

フランスがウクライナへの地上軍派遣を示唆したとしてニュースになっている。普通に考えるとこれはNATO加盟国とロシアが直接対峙することを意味する。NATOはアメリカも含んでいるわけだからロシアとの間に第三次世界大戦が勃発することになりかねない。このため各国の政府は相次いで「ウクライナには地上軍は派遣しません」と否定した。

狂人理論で不確実性を増す国が増えていて各国は対応に苦慮している。バイデン大統領のように狂人理論に飲み込まれつつある指導者もいるがマクロン大統領のように「こっちも狂人理論でゆくべきだ」と主張して周りを慌てさせる人もいる。混乱の背景には「既存の秩序に挑戦して独自性を示したがる」というマクロン氏個人の性格もあるようだ。なんとなくジェームス・ディーンの映画に似ているなと感じた。「理由なき反抗」である。

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結論から言うとおそらく第三次世界大戦は起こらない。マクロン大統領は狂っているふりをしたのだろうが単に同盟国とフランス国内をざわつかせるだけに終わってしまった。政治的にエリートのマクロン大統領には狂っているふりは無理だった。ロイターは次のように書いている。

この発言は、タブー(禁忌)をあえて犯すことを好み、伝統的な思考に挑発的な姿勢を取りたがる「外交の破壊者」というマクロン氏の評判にふさわしいものだ。

ロイターはマクロン氏の独善的な姿勢は却ってNATOの結束に悪い影響を与えるだろうと見ていおり、その姿勢にうんざりしているようだ。

アメリカで予算審議が滞り政府閉鎖の可能性が囁かれている。ほぼ儀式のようになっており土壇場ではなんとかするのが通例だがギリギリまで結論が出ないことが多い。これにともなってウクライナの支援予算もまた滞っている。

またアメリカ合衆国はイスラエルに過度に肩入れし国際的な影響力を失いつつある。ついに1967年以降のパレスチナ政策そのものにも疑念がもたれるようになった。

アメリカの支援とプレゼンスの退潮に対してヨーロッパは強い危機感を持っている。欧州首脳20名の会合でマクロン大統領は「合意はない」としながらも直接派兵を排除すべきではないと主張した。なんとかしなければ危機が打開できないという焦りもあったのかもしれない。

マクロン大統領の狙いは今流行りのマッドマン・セオリー(狂人理論)に基づいたものではなないかと感じる。ロシアに対して「ヨーロッパは何をしでかすかわからない」と思わせるのがマッドマン・セオリーの肝である。だがマッドマン・セオリーが有効なのは「マクロン大統領自身が狂っているかもしれない」と思われている時だけである。

ロシアのプーチン大統領は本物のマッドマンだ。独裁者で何をしでかすかわからないというイメージが実はプーチン大統領の強みになっている。

ペスコフ報道官は「NATOの部隊がウクライナに派遣されれば当然ロシアはNATOと衝突せざるを得ない」と主張した。「リスク」の問題ではなく「必然性の問題」としている。

ロシアも本音ではNATOとの直接対決は望んでいないのだろうが「ロシアならやりかねない」という気もする。いやそこまではしないだろうが、もしかしたらもしかするかもしれない。これが狂人理論の成果だ。

結果的には「NATO対ロシアの戦争」になることを恐れた各国の首脳たちは次々に地上軍の派遣についての可能性を否定している。ロイターは次のように書いている。

独英のほか、スペイン、ポーランド、チェコなどが27日、ロシアによる侵攻を受けているウクライナに地上軍を派遣する可能性を否定した。米ホワイトハウスも、ウクライナに軍隊を派遣しないと表明した。

みんなで「狂っているふりをしましょう」ということにはならなかった。秩序が残るヨーロッパは狂気には耐えられない。

NATO自体も「NATOがロシアと戦っているウクライナに地上戦闘部隊を送る計画はない」としてマクロン大統領の発言を否定した。

アメリカ合衆国はNATOやウクライナ支援に懐疑的な人が増えている。リスクの増大はトランプ氏の「アメリカンファースト」を支援する結果となる。トランプ氏が大統領になれば防衛義務を果たさない可能性があると本人が宣言しており(これもマッドマン・セオリーの一端なのだが)これは非常に都合が悪い。このためNATOはわざわざCNNに対して「自分達は参戦しない」と述べている。

さらにフランスの外務大臣もフランス議会で釈明に追われたようだ。これもロイターの記事の一節だ。

地雷除去のほか、現地での兵器製造、サイバー防衛の支援など特定の任務のための部隊派遣を念頭に置いている

マクロン大統領は不確実性を増すことでロシアとの戦いを有利に進めようとしたのだろうが、それは失敗に終わった。パリ政治学院と国立行政学院では「狂っているふり」は必修科目ではないのだろう。

マッドマン・セオリーのような無茶苦茶な戦略は一見すると誰にでもできるように見える。だがこれを実行するためには本当に狂っているか少なくとも周りに狂っていると思わせておくことが必要になる。

きわめて「まとも」なエリートであるマクロン大統領にはそれは無理だった。加えてマクロン氏にはエリートにありがちな反逆心があり「既存のやり方では新しい状況には太刀打ちできない」という焦りもあるようだ。とにかく何にでも反抗し秩序を破壊したがることがありヨーロッパの首脳たちをうんざりさせているようである。

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